075.付け狙う影
「村を救って頂きありがとうございました」
「これが仕事だから気にしなくてもいいよー」
燃え広がろうとしていた建物の火を消火して、怪我をしていた村人を俺の【治癒魔法】で治したところで、シークス村の村長がお礼を言ってきた。
「いえ、依頼内容はゴブリン退治です。火事の消火や怪我人の治療は依頼内容に含まれていないと、拒否をする冒険者がいるのです。貴女のように自発的に行動をしてくれる冒険者は稀なんですよ」
あー、いるなそう言う奴。
依頼内容に厳格なガチガチの堅物だったり、面倒な事が嫌いな乱暴者だったり。
「困っている人を助けるのは当然ですよー。これもサービスの一環と言う事でー。
それで早速残りのゴブリン退治に行きたいところですけどー、ちょっと聞きたい事があるのー」
「なんでしょうか? 私で答えられることなら答えますが」
ジルも俺も今回のゴブリン退治にちょっと引っ掛かりを覚えているんだよな。
流石に4回もゴブリンが村の傍に湧くのはあり得ない。
何かがあるとにらんでいるんだが。
「ラムダさんに聞いたけど、ゴブリン退治の依頼は今回で4回目なんですよねー? これまで村にまでゴブリンが来たことはー?」
「これまでは依頼を受けてくれた冒険者が退治してくれましたから村まで来たことはありません。
今回は中々来て下さる冒険者が居なかったため、村の中まで入り込まれたのです」
ふむ、今回は時間が掛かりすぎたのが原因か。
「前3回のゴブリン退治はちゃんと確認したんですよねー? 巣穴まで見たんですかー?」
「最初の1回は冒険者に任せましたが、2回目3回目はゴブリンの巣穴まで確認しに行かせました。それで間違いなくゴブリンが居なくなったと思っていたのですが……」
「これまで出たゴブリンの種類はー?」
「普通のゴブリンにゴブリンアーチャー、ゴブリンリーダーですね。後は前回はホブゴブリン、今回はゴブリンマジシャンとなります」
ホブゴブリンまで出たとなればちょっと大きな群れでもないと現れるはずはないのだが。
ゴブリンマジシャンと言うのもちょっと気になるな。普通の群れじゃ現れない個体だ。
「最初は10匹の群れ、2回目は30匹、3回目は20匹の群れとなってます」
「それで今回も20匹の群れかー。何処かに大規模なゴブリンの集落があって、それを見逃したって事はないよねー?」
「いえ、それはありません。流石に3回目ともなると、村総出で周辺を探索しましたから」
他にも気になる点や、何か変わったことが無いかなどを聞いて行く。
「(やっぱりこれは何かあるねー)」
『ああ、もしかしたら後ろの人も関係あるかもな』
「(そっかー、それだったら早く問題が片付きそうだねー)」
まぁ、確かにそうだったら簡単に片付きそうだが、別件の可能性の方が高いんだよなー
だが【第六感】のスキルが何か関係があると言っている。
「うんー、じゃあ早速残りのゴブリンを片付けて来るねー。後、原因も探ってみるわー」
「おお、早速動いてくださるのですか! 助かります。森への案内人などは?」
「私一人で大丈夫ー」
「おねーちゃん頑張ってねー!」
パイちゃんの声援を受けながら、ジルは早速残りのゴブリン退治にシークス村の外へと向かう。
村長の話によると、シークス村の北西に広がる森からゴブリンが湧いて出て来るそうだ。
取り敢えず、俺が【マップ】でサーチをかけて、これまでゴブリンが群れを成していた巣穴を見つけ、現場を確認する事にする。
ふーちゃんを使わずに徒歩で森を歩く事1時間。
ジルは足を止めて振り返る。
「そろそろ出てきたらどうー?」
だが、そこには誰もおらず何も反応はない。
「隠れてても分かるわよー。出てこないんだったら問答無用で攻撃するけど良いんだねー?」
向こうは隠れているつもりでも、こっちには位置が丸分かりだ。
俺の【気配探知】【索敵】にバッチリ引っかかっているし、ジルもスキル程じゃないが相手の気配を掴んでいる。
別に【剣術】スキルが無くても剣で攻撃できるように、スキルが無くても技術は覚えることは可能なのだ。
ジルはこの20年間、迷宮大森林を脱出する為に様々なスキルに匹敵する技術を身に着けたのだ。
「へぇ、冒険者の格好をしているのは伊達じゃないってか」
そう言って出て来たのは、噂の勇人部隊の正規の装備を身につけた爽やか系の男だ。
「王都からずっと私の事付け来たわよねー? 私に何か用ー?」
そう、こいつは王都からずっと付けて来たのだ。
もっと正確な事を言えば、アルベルトと一緒にいた男の1人だ。
アルベルトがジルにシークス村の依頼を任せ外に出た後、この男1人が戻ってきてジルを付け始めた。
最初はアルベルトとの繋がりを警戒しての事かと思ったが、どうもそうじゃないみたいだな。
現に今、この男の口からあまりにもバカげた事を告げられているからだ。
「何の用かって? そりゃああんたを俺のおもちゃにする為だよ。ギルドで見かけた時から狙ってたんだよな。貪りたくなるほどの好い体をして、幾らでも襲って下さいって言っているようなもんじゃないか。あんたその自覚無い? そりゃいかん。俺がじっくりねっとり体に教えてやるよ」
一見すると爽やか系のイケメンフェイスが、今や欲望に満ち溢れた歪んだ顔をしていた。
『うわぁ~、ゲスだ、ゲスがここにいるわ』
『姐さんをゲスイ目で見やがって。ぶち殺すぞ!』
『客観的に見ても、あり得ませんね。己の思い通りに動くと思っている所が尚の事』
ふーちゃん、めーちゃん、かめちゃんの女性陣はキツイ反応を示す。
尤もジルにそんなゲスな呼びかけは暖簾に腕押しだ。
「そっかー。そうやって今まで女性に乱暴な事をしてきたんだねー。それじゃあお仕置きが必要だねー」
……寧ろ、珍しく怒っていた。
それも深く静かに。




