表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この石には意志がある!  作者: 一狼
第2部 「猛女」 / 第5章 Alice神教教会・対決編
82/357

072.20年

『良かったのか? 折角アルベルトに会えたのに』


「(うんー、いいのー。アル君が勇者に選ばれた時は、アル君は泣き虫だからお姉ちゃんの私が傍にいないといけないと思っていたけどー、今のアル君を見ると私が居なくても大丈夫そうだからー)」


 まぁ、確かにな。


 あの、ジルに引っ付いていたアルベルトがああまで変わるとは。


『当初の弟君と比べたら遥かなる成長ではありますが』


『おう、あの坊が随分と立派になって』


『うんうん、まだ8歳だけどカッコよくなってるよ!』


 ぼーちゃんとはーちゃんとふーちゃんが当時のアルベルトと比べて懐かしむ。


 当時は意思がなかったお気に入り達だけど、ジルと一緒に生活していたことは覚えているみたいだな。


「(本ッッッッッッッッ当に不本意だけど、アル君を私達から引き離して生活させたのが良かったみたいねー)」


 ジルがアルベルトを連れて帰っていれば、規格外と言う名のジルが傍にいる事や、甘えなどで勇者としてはイマイチな成長をしていたかもしれない事を考えれば、教会に預けたのはある意味正解でもある。


 強引な引き離し方や、今の教会内の腐敗を見ると納得できないものもあるけどな。


『Hey! それじゃあMeらのこれからのPlanはどうするんDa?』


 ジルはこれまでアルベルトをファスト村に連れて帰るのを目標に頑張って来たんだが、その目標が意味をなさなくなったからな。


 とは言え、これからの目標が無くなった訳じゃない。


「(そんなの決まっているよー。アル君を影からサポートしつつ、あのおばーさん枢機卿をぎゃふんと言わせるのー!)」


『だな。あのクソババァには裁きを受けてもらわないとな』


 あのクソババァは上手く教会内で取り計らって権力を得て好き勝手やってやがる。


 俺らはあのクソババァの行いを影から阻止して、アルベルトを勇者として真っ当な活動をさせる事だ。


『だがその前に……目の前の問題から片付けていかないと』


 ジルの目の前には必死で周りの大人に助けを訴えかける女の子が居た。


 アルベルトが助けようとしていた女の子だ。


「ねぇ、本当にシークス村を助けてくれるの? 見た感じあまり強そうには見えないけど……」


「大丈夫だよー。こう見えてもお姉ちゃんはとっても強いんだからー」


「あの、本当に宜しいんですか? このクエストは内容に比べて依頼料が見合ってませんが……」


 見かねた受付嬢がクエスト内容を提示しながら忠告をしてくれる。


 どれどれ? クエストの内容は……


 シークス村周辺に現れるゴブリン20匹の退治。


 依頼料は大銅貨4枚。


 うん、確かにクエスト内容に依頼料が見合ってないな。


 ゴブリン1・2匹なら兎も角、20匹に大銅貨4枚=40G=4,000円は無いわ~


 まぁ、村もなけなしの金を集めての依頼料かもしれないが。


「構わないよー。私がこのクエストを受けるわー」


 そう、俺らは依頼料が目当てで女の子を助けるんじゃない。


 カッコいい事を言えば、困っている人が居るからだ。


 ちょっとひねた言い方をすれば、アルベルトが助けようとしたから俺らはその手助けだな。


「そうですか。ギルドとしても助かります。この村はいつもモンスターに狙われ困っていたんです」


 ほ? もしかしていつもって事はこのクエストが初めてじゃないって事か?


「それではギルドカードの提示をお願いします」


 受付嬢に言われ、ジルはギルドカードを取出し渡す。


「……え? 虹色のプラチナカード……? S級冒険者……? って、ええええっ!? 『幻』のジルベール!!?」


 突如、ジルのギルドカードを見て大声を上げる受付嬢。


 ほほぅ、ジルに二つ名が付いていたのか。


 『幻』って、おそらくS級になってから僅かな期間で姿を消したからだろうな。


「え? でも待って! 『幻』のジルベールって、確か7歳――いえ、今は10歳のはず。どう見ても10歳には見えないわ……でもギルドカードの偽造は不可能だし、本人以外には使えないし、えええええええええええ~~~~!?」


 まぁ、戸惑うのも無理はないよなぁ。


 なんせ、今のジルはどう見ても10歳には見えない。


 何処をどう見ても大人の女性なんだから。


 身長は180cmを越え、ポニーテールにしているくすんだ金髪は腰まで伸びている。


 溢れんばかりのFカップの巨乳は、肩と腹の素肌を晒す胸だけの地竜の革の胸当てを。


 両腕には普通の金属に見せかけたミスリルのガントレットを装着し、ホットパンツから伸びるスラリとした長い脚にニーハイブーツの上から着けた同じ普通の金属に見せかけたミスリルの脛当て。


 そしてボロボロの袖なしコートを羽織ったその姿は、そこら辺に居る普通の冒険者に見えなくもない。


 何でジルが大人の姿なのかと言えば、答えは簡単。


 今のジルの実年齢は、27歳なのだから。


 あの日――俺達が時空波紋に落ちて辿り着いた先が、迷宮大森林の最奥だったのだ。


 俺達は迷宮大森林の最奥から脱出するのに実に20年の月日を費やしたのだ。


 迷宮大森林の実際の広さは把握できていないとされていたが、確かにあれは把握できないだろうな。


 だって空間が歪んでいる大森林の広さは、ハーフハート大陸とブロークンハート大陸を合わせた広さなんだから。


 その最奥から、しかも時間すら歪んでいる迷宮大森林を脱出するのに20年も掛かってしまったのだ。


 いや、ジルだから20年で済ませられたと言えよう。


 普通の人なら一生出られない程の超難易度を誇る秘奥でもあったのだから。


 そして俺達が迷宮大森林の外に出て驚いたのは、外ではまだ3年しか月日が流れていなかったと言う事だ。


 まぁ、20年が3年で済んでいたのが幸いと言えば幸いか。


 そんな訳で、今のジルは実は27歳だけど、世間的にはまだ10歳と言うチグハグな状態だったりする。


 受付嬢が驚くのも無理はないと言う訳だ。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ