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この石には意志がある!  作者: 一狼
第4章 迷宮大森林・疾走編
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068.時空波紋3

「こりゃあ天の助けや! シロップ! お金なら幾らでも払う! せやから助けて!」


 マゼンダはジル達を見るとなりふり構わず助けを求めた。


「ちょっ、どういう事? 事情くらい説明を……」


「説明している暇はあらへん! 奴らが直ぐ来るんや」


 マゼンダ達の後方から迫っていた9人の事だな。


 そうこうしているうちに、マゼンダと同じように崖の上から9人が飛び降りて来た。


 マゼンダのように何らかしらのマジックアイテムかスキルを使っているのだろう。


 80mの高さから飛び降りてもダメージは全くなかった。


 マゼンダ達を追いかけてきた9人は姿格好は皆バラバラだ。


 如何にもと言った暗殺者(アサシン)風の黒ずくめも居れば、冒険者風の剣士や魔法使いも居る。


 そして何処にでもいそうな町人も居ればチャラ男も居た。


 まぁこの場合、何処にでもいそうだが、こんな場所に居てもいいような恰好じゃない事から普通じゃないのは確かだ。


「……で、マゼンダ。あいつらは?」


「奴らは“月夜(カグヤ)”だ」


 マゼンダの代わりに答えたのはシルバー王子だ。


 と言うか、“月夜(カグヤ)”って太陽王国サンフェルズの暗部じゃなかったっけ?


「ちょっとぉ! 何で“月夜(カグヤ)”があんた達を追いかけているのよ!」


「それは……」


「余の所為なのだ。マゼンダは悪くは無い」


 言いよどむマゼンダ。


 そりゃあ、おいそれと依頼人の個人情報を話せるわけないよな。


 俺にはこの9人の襲撃が、おそらく王位継承絡みの物だと言うのが分かる。


 だが、敢えてジルにも話してはいないが、シロップ達もシルバー王子が太陽王国の第4王子だと言う事は知らない。


 知らないが、影ギルドの構成員でもあるシロップは裏の事情絡みと判断して、それ以上突っ込んで聞く事は無かった。


「あー! もう! マゼンダ! 後でたっぷり請求させてもらうからね!」


「シロップさん、いいのですか?」


「ここであたし達が関係ございませんって言ったところで、向こうが見逃してくれると思う?」


「愚問でしたね」


「ジルちゃん、ごめん。余計な騒動に巻き込んじゃったみたい」


「気にしないでー。寧ろ巻き込まれて正解かもー。シルバーが私の知らないところで死んでいたかもしれないからねー」


 折角マックスが命をかけて助けたんだ。


 こんなところで死なせたんじゃマックスが浮かばれない。


「済まない。助かる」


「ホンマおおきに。助かるわ。ここまで来るのにも大変やったんや」


 そう言えば、シルバー王子の護衛のコバルトと、裏ギルドのマゼンダの相方のシアンは……


「ねぇー、コバルトとシアンの2人はー?」


「2人は余を庇って……」


 まぁ、この場に居ない時点でそうだろうな。


 それ程“月夜(かぐや)”の襲撃は苛烈だったのだろう。


 実際、こうして無駄話をしている間にも“月夜(かぐや)”の9人は無言で攻撃をしてきていたのだ。


 敢えて言葉を交わさず問答無用で襲ってくる様は、流石王国暗部と言ったところだろう。


 新たに加わったジル達の様子を見る為に、接近攻撃ではなくダガー投擲や、【ファイヤーボール】等の魔法の遠距離攻撃をしているが、そこは俺の【百花繚乱】からの防御系スキルで攻撃を防いでいた。


 シロップも防御系魔法を俺の防御系スキルに重ねて強化している。


「それよりもあんた、凄い無茶をしたわね。下手をすれば時空波紋の渦にのみ込まれていたわよ」


「そこは大丈夫や。一時的やが時空波紋を抑えるマジックアイテムを持っているんや」


「ちょっ、何それ! 凄く欲しい!」


 何のためらいも無く渓谷に飛び込んだのはそのマジックアイテムもあったからか。


 影ギルドと言い、裏ギルドと言い、それなりに対策は持っているって事か。


 この様子じゃ、闇ギルドも時空波紋に対する対策があるっぽいな。


 迷宮大森林の出口付近の難所だ。影ギルドだけじゃなく他にも関係があるのは当然か。


「無駄話をしている暇はありませんよ。ほら、向こうも様子見はここまでのようです」


「来るよー!」


「キャンキャン!」


 真正面から来るのは普通の一般人の格好をした2人とチャラ男。


 暗殺者(アサシン)風の黒ずくめ2人は、見た目通り姿を消しての奇襲攻撃をしてくるみたいだ。


 冒険者風の4人は、パーティー連携のように盾士を前面に剣士の追撃、魔法使いの遠距離魔法、僧侶は回復魔法を放つために控えている。


 一応、【鑑定】でスキルを見てみたが、殆んどが見た目通りの(ジョブ)スキルだった。


 ただ、盾士は【重戦士】、町民は【魔剣士】と【短剣士】だった。


 チャラ男が普通の【村人】スキルなのはちょっと気になるな。


 まぁ、他は見た目通りの(ジョブ)スキルだ。それほど問題は無いだろう。


「まずは前面を支える盾が必要だな。

 【ファンタスティックアーティスト】! 虎よ虎よ虎よ!」


 シルバー王子が3匹の虎を描き、町民・チャラ男に向かわせる。


「虎がチャラ男達を抑えている間に冒険者風の奴らを倒すわよ! ジルちゃんとクローディアはそっちをお願い!」


『ジル、まずは奴らの連携を崩すぞ。盾士を潰せ』


「(うんー、了解ー)ぼーちゃんー!」


『任せてください、マスター。私の伸縮突きを防げるものなら防いでみなさい!』


 ジルがぼーちゃんをビリヤードのキューのように構え、伸縮突きを放つ。


 脅威度Sのモンスター・リヴァイアサンには傷つける程度だったが、アダマンタイトすらへこます突きを一塊の盾士が防げるはずはない。


 盾士の構えていた盾ごと盾士の体を貫く。


 これで1人目!


 流石にいきなり盾士がやられるとは思わなかったのか、剣士は動揺する。


 その隙を突いて、【くノ一】であるクローディアが死角から刀を振るう。


 だが、()ったと思った一撃は空ぶる。


 剣士は一瞬のうちに姿を消し、クローディアの背後からいつの間にか接近していた魔法使いの剣が迫る。


「させないー!」


 咄嗟にジルはやーちゃんで魔法使いの剣を狙い、根元からへし折る。


「ジルベールさん、助かりました」


 まさかの魔法使いの接近戦に、クローディアは一旦距離を取る。


 ……っち! 見た目、や(ジョブ)スキルに騙された!


 こいつらは“月夜(かぐや)”――暗部だ。(ジョブ)スキルだけの訳ねぇじゃんか。


「へぇ、面白いスキルだな、それ。他のメンバーもそれなりにやるみたいだ。こりゃあ全員相手にするとちょっと面倒だな。

 そうだ! あんたらは見逃すからその男を差し出してくれないか?」


 無駄口を叩かないと思われていた“月夜(かぐや)”だったが、意外にも見た目通りのチャラ男から声が掛かった。











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