062.アサシンバニー4
人生は良い事もあれば悪い事もある。
良い事だらけの人も居れば、悪いことだらけの人も居る。
だけど、必ず1つは良い事もあるし、悪い事もある。
そしてよりにもよって、こんな時に悪い事は起きるものだ。
ちょっ、第4王子って!?
どっかの貴族のボンボンかと思ったら、まさかの王族とは。
何で王子様が迷宮大森林に?と思ったが、逃亡中と言うのから大よそ察する事が出来る。
あ~……うん、王族ってのも大変だね。
って、今はそんな事を気にしている場合じゃないな。
シルバー王子の生み出した疑似アサシンバニーは、本物であるアサシンバニーに襲い掛かっている。
シルバー王子のスキル【ファンタスティックアーティスト】は描いた絵を実体化、或いは命を吹き込むことが出来るようだ。
【アーティスト】と言う事から、絵だけじゃなく彫像とかにも効果がありそうだな。
「スキルで生み出した物は気に入らないが、今は気分が良い。筆が進む! ふははは、アサシンバニーとやら、今日は余の作品が相手になってくれよう!」
そう言い、シルバー王子は更に空中に描きだし、今度は巨大な亀を生み出した。
『Kameー!』
……亀はカメーなんて鳴かないぞ。
まぁ、スキルで作られた疑似生命体だからシルバー王子の思考も絡んでいるんだろうな。
でなければ、1分やそこらでこれほど精巧な絵を描く事なんて普通は出来ないし。
そうしているうちにも、シルバー王子はどんどん絵を描きだしていく。
虎、ライオン、象、狼、狸、ペンギン、鷲、孔雀、シャチ、etc.
何故ペンギン……シャチに至っては空中を泳いでアサシンバニーに襲い掛かっているし。
流石にこれだけの疑似生命体が居れば、マックスたちの出番はなかった。
少し距離を置いてアサシンバニーが疑似生命体に襲われている様を見ていた。
……って、あれ? アサシンバニーは何処だ?
一見、疑似生命体の群れに襲われているように見えるが、そこに居るのは疑似アサシンバニーだ。
肝心の本物のアサシンバニーの姿が見えない。
しまった! 疑似生命体の数が多すぎてアサシンバニーの姿を見失ってしまった。
木を隠すなら森の中。
疑似生命体の群れに襲われるのを逆手に取り、自信を疑似生命体の中に隠すとは。
まさか、狙ってやったのだとしたら、シルバーはまんまとアサシンバニーの掌で踊らされたことになる。
俺は慌てて切っていた【気配探知】【魔力探知】【索敵】等の探索系スキルを起動する。
ついでに【第六感】【看破】【鑑定】も。
だが、疑似生命体の数が邪魔してアサシンバニーの姿を捉える事が出来なかった。
疑似と言われながらも、しっかりと気配や魔力が感知され、アサシンバニーはその気配等に紛れてしまっていた。
いや、もう既にそこには居ないのかもしれない。
………っ!!
俺のその予想を当てるかのように、アサシンバニーは全く別の場所から現れた。
シルバー王子の背後からだった。
しかも、シルバー王子の影からの出現だった。
【鑑定】には新たなスキルが表示されていた。
――【影渡り】
つまり、アサシンバニーはこのピンチの中で新たなスキルが目覚め、俺達の目を眩ませながら見事裏を書いて反撃に出ることに成功したのだ。
『ジルッ! シルバーの……!』
くそっ、ダメだ、間に合わねぇ!
気が付くのが遅かった。
いや、気が付いても間に合わない絶妙なタイミングとスキルだ。
ジル達の意識が疑似生命体の群れの方に向かっているタイミングで、【影渡り】でシルバー王子の真後ろに回る。
どう足掻いても間に合わない。
――ただ1人を除いては。
ジルは俺の声に反応して、シルバー王子を見てはぼーちゃんを構え助けようとする。
ジルのその行動を見て、シロップやクローディア、シアンもシルバーが襲われそうになっているのを慌てて駆けつけようとする。
護衛でシルバー王子の前にいたコバルトも、背後で異様な気配を感じたのか、振り返り驚愕の表情でシルバー王子を守ろうとアサシンバニーの前に出ようとする。
だが、どれもアサシンバニーの奇襲には間に合わない。
アサシンバニーの振り下ろした爪が胸を貫く。
マックスの胸を。
そう、マックスの【韋駄天】のみが間に合ったのだ。
マックスはシルバー王子を弾き飛ばし、代わりにアサシンバニーの攻撃を受けた。
「………っ」
奇襲に成功したアサシンバニーはマックスの体から爪を抜き、直ぐに【影渡り】で安全位置に避難してこちらの様子を伺う。
奇襲に成功したとはいえ、これまでのダメージがアサシンバニーの体力を奪っていた。
だが、こちらはそれどころじゃない。
ジルは慌ててマックスの傍に駆け寄る。
「マックスー! マックスー! しっかりしてー! こんなところで死んじゃやだよー!」
だが、マックスは言葉を発する事は無かった。
おいおい、お前はこんなところで死ぬキャラじゃないだろう……!
ジルの保護者じゃなかったのかよ。
さっさと起き上がってジルを安心させてやれよ。
俺は未だに倒れているマックスに回復魔法を掛け続ける。
名前:マックス
種族:ヒューマン
状態:死亡
二つ名:韋駄天
スキル:韋駄天Lv2
冒険者ランク:B
備考:最速のソロ冒険者
だが、【鑑定】の結果、無情にも死亡が確認されてしまった。
マジ、かよ……
本当に、死んじまった……
「マックスー! ねぇー! マックスってばー! 起きてよー! ねぇ、起きてよー!!!」
誰もが、突然のマックスの死に呆然としていた。
ただ、マックスを呼ぶジルの声だけが響き渡る。
「マックスー…………う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!」
ジルはぼーちゃんを手に、両の先端にはーちゃんとやーちゃんを接続し、猛然とアサシンバニーに襲い掛かる。
『ま、待て! ジル!』
今のジルは怒りと悲しみの感情が溢れかえって冷静な判断が出来ない状態だ。
怒りが悪いとは言わないが、流石に今のままの状態でアサシンバニーに挑むのは危険すぎる。
だが、俺が止める間もなくジルはやーちゃんの先端でアサシンバニーを貫く。




