060.アサシンバニー2
「(きゅーちゃんー、どうー?)」
『んー、今の所反応は無いなー』
ジル達は今、アサシンバニーの縄張り内を進んでいる。
先頭にジルとマックス、中央のシルバーの前にコバルトが護衛として立ち、そのシルバーをシロップとクローディアで挟むように左右に位置する。
シルバーの後ろに戦闘能力のないマゼンダが位置し、シアンが殿と言うフォーメーションだ。
子供であるジルが先頭なのは如何なものかと思うのだが、ジルがS級と言う事もあって、それならばと言う事で先頭に立っている。
シルバー達にはS級と言うのは冗談扱いされていたんだけどね。
あと俺がアサシンバニーを見つける手段を持っているので、先頭を任せられてるのもある。
その俺は【気配探知】や【魔力探知】、【索敵】、【危険察知】などを使いながら周囲を警戒しているが、今のところはアサシンバニーが襲ってくる気配はない。
寧ろアサシンバニーの縄張り内には小動物が居る程度で、他のモンスターが全く見えない事から逆に歩きやすくなっていた。
『なんでぇ、何もいねぇじゃねぇか。そのアサシンバニーの縄張りってのも幻想の類じゃねぇのか?』
『はー、その答えは的を外していますよ。寧ろ逆に何も居ないと言うのが既に異常なのです。アサシンバニーがその示威を示しているからこそこのような状況になっています。気を抜かない様にしてください』
まぁ、ぼーちゃんの言う通り、だからこそ、アサシンバニーの縄張りになっているのだろう。
「どう? アサシンバニーの気配はありそう?」
「きゅーちゃんは今の所反応は無いってー」
「反応は無いって事は、アサシンバニーは上手い事隠れているちゅうことやな。そのきゅーちゃん言う石は当てになるんか? イマイチ自分には命を預ける程信頼を寄せられへんのやけど」
「あら、強欲商人にはあのきゅーちゃんの価値が分からないみたいねぇ。まぁ、きゅーちゃんの凄さは目の当たりにしなきゃ分からないから仕方がないわね」
おぅ……あまり期待しすぎなような気もするなぁ。
と言うか、煽るな煽るな。
こんな場所でもシロップとマゼンダの仲の悪さは健在らしい。
まぁ、ケンカするほど仲がいいとも言うし、これが2人にとってのデフォルトかもしれないが。
……って、【危険察知】に反応あり!
上かっ!?
だが俺が警告する前に、既にジルは気が付いていたみたいで同じ前衛のマックスに警戒を促す。
「マックスー、上ー!」
どうやらマックスも、ほんの一瞬遅れて頭上から襲い掛かるアサシンバニーに視線を向ける。
ドンッ!
3mもの巨大な兎がその両手にナイフのような爪を携えマックス目がけて振り下ろす。
だが、頭上からの奇襲にマックスは【韋駄天】でその場を離れアサシンバニーの攻撃を躱す。
ジルもふーちゃんを呼び出し、エッジを利かせた小回りで攻撃を躱しながらアサシンバニーの背後を取る。
「やーちゃんー!」
『Meに任せNa!』
至近距離からの投敵にもかかわらず、なんとアサシンバニーはやーちゃんの攻撃を躱した。
だが甘い。
やーちゃんには新たに目覚めた能力の追尾機能が備わっている。
ちょっと躱した位じゃやーちゃんの攻撃からは逃れられないZe!
追撃してくるやーちゃんに多少驚いたような仕草を見せながらもアサシンバニーはフットワークを利かせやーちゃんの更なる追撃も躱していく。
そして額の角から【雷魔法】を放ち、やーちゃんの攻撃を弾いてそのまま木陰に逃げ、溶けるようにしてジル達の目の前から消えていく。
『Oh! Shit!!』
あー、うん。確かに追尾機能が付いていても、魔法で迎撃されたら弾かれちゃうよな。
流石に魔法まで貫通は出来ないし。
あの兎、案外頭が良いな。
あ、悪いのか? 奇襲が出来るんだったら何もマックスやジルじゃなく、弱いところから狙えばいいのに。
だが、それよりも……
「ねー、アサシンバニーってあんなに大きいのー?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
聞いてねぇよ!
ヴォーパルバニーはほぼ普通の兎と同じくらいの大きさだ。
だがアサシンバニーは熊よりも大きい3mもの巨体だ。
それでありながらあの素早さとか反則だろう。
しかも、姿を現した時に【マーキング】と【ターゲッティング】のスキルで見失わない様にしたのだが、姿を消したと同時に印をつけたスキルが解除されてしまった。
俺の【マーキング】と【ターゲッティング】のスキルより、アサシンバニーの隠密機能の方が上回っていたと言う事だ。
流石に異常個体すぎやしねぇか?
だが不満を言っても始まらない。
俺は再び【索敵】関連のスキルを使用するが、やはりアサシンバニーの姿は捉えられなかった。
少なくとも、縄張りに入ったジル達を仕留める為、近くで窺っているのは間違いないが。
さて、どうする?
これまでに案内人であるシロップ達が倒している事から、倒せない相手じゃないのは分かってる。
問題はその方法だよな。
俺はジルにどうやって倒したのか聞く様にお願いする。
「どうって、あたし達の場合はあたしの魔法で防御をガチガチに固めながら、クローディアの奇襲で倒してたわよ」
あー、クローディアの【くノ一】スキルで【隠密】しながら同行し、防御で固めているところを襲おうとして姿を現したアサシンバニーを攻撃したと言う事か。
防御魔法の効果はそんなに長続きしないから、何度もかけ直しての最短距離を短時間で突っ切ったんだろうな。
「うーん、あんまり手札を晒したくないんやけど……まぁ、この際仕方ないか。自分らの場合は、シアンの【第六感】スキルで危険を回避しつつ、襲ってきた場合【第六感】で回避しとったんや」
ふむ、シアンのスキルは職系じゃなく、特化系か。
確かに特化系の【第六感】ならアサシンバニーの奇襲も躱せるな。
「ちょっとー、じゃあ最初からそのスキルを使いなさいよ」
「あれれぇ? シロップはんはきゅーちゃんが居るから大丈夫とか言っとらんかったかなぁ? 余程自信たっぷりだったから期待しとったのに。それとも期待外れやったかな?」
「うぎぎぎ……」
あらら、俺が不甲斐無いばかりにシロップが悔しさを滲ませているよ。
だが不用意に手札を晒したのは頂けないな、マゼンダ。
いいヒントを貰ったよ。
俺のスキルは【百花繚乱】。ほぼ全てのスキルを使う事が出来るスキルだ。
ここからは【百花繚乱】の本領を発揮だ。




