056.金色地竜2
ジルの【ストーンコレクター】がLv2になり、俺が新たに得たスキルは【千載一遇】。
【千載一遇】はスキルを無効化するスキル、スキルキャンセラーだ。
当然、ジルのスキル【ストーンコレクター】も例外ではなく、【千載一遇】を使用すれば、ぼーちゃんやめーちゃんなどのお気に入り達も使用不能となり、ジルはただの少女と化してしまう。
故に使いどころが限られているスキルだ。
【千載一遇】には使用キャンセラーと効果キャンセラーの2つあり、使用キャンセラーはスキルが一切使えなくなり、効果キャンセラーの場合はそれまで掛かっていた効果すらもキャンセルされると言いうものだ。
例えば、今ジル達に掛かっている支援魔法は、使用キャンセラーの場合は使った時点からのスキルが使用不能になるのでそのまま効果が持続するが、効果キャンセラーの場合はそれまで掛かっていた支援魔法などの全てのスキル効果すら無効する。
俺がこれから使うのは使用キャンセラーの方だ。
でなければ逃げる段取りで造り出した折角の【デコイ】までも消えてしまうからな。
「【エクスプロージョン】!!」
シロップの魔法で、金色地竜の目の前の地面が大爆発する。
魔王の欠片で無効化されるため、直接狙わずに目の前の地面を爆発させて周囲に粉塵を巻き起こし目くらましをする。
『【トンネル】!【ロックブラスト】!』
粉塵で周囲を覆い隠している間に、金色地竜の足下に巨大な落とし穴を掘り、そのまま巨大な岩を落とし蓋をする。
シロップが【エクスプロージョン】を唱え、粉塵を巻き起こしたタイミングでマックスたちはこちらに向かってきているはずだ。
それを信じて俺は落とし穴で暴れまわっている金色地竜を一時的に大人しくさせるために【千載一遇】を放つ。
『スキルキャンセラー【千載一遇】!!』
【千載一遇】が放たれると、落とし穴で暴れまわっていて大音を響かせていた金色地竜が大人しくなったのが分かる。
上手く【千載一遇】が魔王の欠片のスキル効果を消したみたいだ。
それと同時に、ジル達の背後に控えていた【デコイ】の4体が粉塵舞う煙の中に突入する。
落とし穴から這い出た時の為に引き付ける役目の囮だ。
「おっしゃぁ! 今の内に逃げるぜ!」
「うん!」
「はい」
「えー? ちょっと、マックスー、私一人でも走れるよー!」
予定通りこちらに移動していたマックスはジルを担ぎ撤退を開始する。
「ジルちゃんはまだ子供だからな。体力温存、移動速度の関係上、大人しく俺に担がれてろ」
「もー! 私を子ども扱いしているー」
まぁ、実際子供だしな。
ふーちゃんが使えない今、マックスの行動は凄く助かる。
とは言え……スキルが使用不能な今、マックスたちの移動速度もスキル使用時に比べ、かなり緩慢と言わざるを得ない。
「うわぁ、分かってたとは言え、すんげぇ遅ぇ……鈍ガメみたいだ。俺って【韋駄天】に頼り切っていたんだなぁ……」
「そうですね。職スキルもかなり身体に影響を与えていたみたいです。わたくしも体がかなり鈍くなっているのを感じます」
「うん、クローディアでない程にしてもあたしも体が変。魔力が全く練れなくなっているのってすっごく気持ち悪いよ」
「そうなのー? 私はあまり変化は感じないけどー。ただー、お気に入りの皆と話も出来なくなったのは寂しいのー」
平均的な身体能力で逃走をするマックスたち。
移動速度は遅いが、確実に金色地竜から距離を取っていく。
しっかり検証した訳じゃないが、【千載一遇】の効果範囲は約100m。
使い慣れてくればもっと距離が伸びたかもしれないが、スキルを打ち消してジルが【ストーンコレクター】を使えない状態は不安だから、これからもあまり使う事は無いだろう。
金色地竜から100m程離れると、向こうから地響きが聞こえてくるのが分かる。
やはり【千載一遇】の効果が切れると魔王の欠片も復活するみたいだな。
使用キャンセラーじゃなく、効果キャンセラーを使うべきだったか?
逃げる方を優先させたため、全く何もできない状態に陥る効果キャンセラーは使いたくなかったのだ。
俺は【千載一遇】を解除し、ジルにマックスたちに全力で逃げるように伝える。
まぁ、ジルが伝えなくても【千載一遇】の効果が切れたことが分かるだろう。
「今の内に出来るだけ距離を稼ぐぞ!」
「ふーちゃんー、お願いー」
『あたしに任せて!』
スキルの使用が元に戻り、マックスは【韋駄天】で、ジルはふーちゃんで逃走を開始する。
シロップとクローディアは、シロップはマックスに背負われ、クローディアはジルと一緒にふーちゃんに乗っての逃走となる。
移動速度が一気に上がった事で、金色地竜からかなり距離を取ることが出来た。
【気配探知】【魔力探知】【索敵】【鷹の眼】【望遠】を使い、金色地竜の様子を伺う。
落とし穴で暴れまわったお蔭で、塞いでいた岩が破壊され地上に出て来たのが見て取れた。
そして落とし穴周囲で控えていた【デコイ】を目にすると、それに向かって攻撃を開始する。
どうやら目に見える物が優先で攻撃対象のようだ。
【デコイ】には攻撃を避けるように【オートドライブ】を掛けているので、直撃でなければ半永久的に金色地竜の相手をしているだろう。
唯一懸念していた地竜の特性――仲間を傷つけられれば匂いを覚えるかのように追いつけ回すような事は無いようだ。
おそらく、特殊個体と言う事で地竜とは全く別のモンスターと化したのだろう。
特殊個体と化したから魔王の欠片に憑りつかれたのか、魔王の欠片に憑りつかれたから特殊個体と化したのかは分からないが。
……何でこんなところに魔王の欠片があったのかは今のところは不明だ。
魔王軍の作戦なのか、ただの偶然なのか……
まぁ、何はともあれ金色地竜から逃れられたのは良かった。
迷宮大森林の最初の難関からこれなのは幸先いいとは言えないがな。
この後もトラブルがありそうだなぁ……




