054.地竜5
「残念だけどー、この魔法はそこまで便利なものじゃないってー」
土魔法の【シェルター】は兎も角、聖魔法の【サンクチュアリ】は本来は10分程度の効果しかない。
それを、俺が魔力で無理やり1時間にまで伸ばしているのだ。
そして再使用には3時間のインターバルが必要になる。
「と言う訳なのー」
俺の説明をジルがシロップ達にそのまま伝える。
「ああ、確かに【サンクチュアリ】は最長で10分の効果しかないって聞いているが……それを1時間まで伸ばすって、ジルのそのきゅーちゃんの魔力は一体どうなっているんだ……?」
そう言えば、俺って今まで魔法を使って魔力切れを起こした事ってないな。どうなっているんだろ?
「うー、そこまで都合よくは無いのかー。はぁー、それじゃああと1時間したらまた3時間はぶっ続けで戦闘かぁ」
まぁ、その気持ちはよく分かる。
ただ、地竜の巣の全体の地竜を見れば、この調子だとあと6~9時間ほどで全滅出来ると思うぞ。
「ジルさん、ポーション等の回復薬はまだありますか?」
「うんー、まだいっぱいあるよー」
ジルはそう言ってかめちゃんを取出し、そこから大量のポーションや魔力ポーション等をクローディアに見せる。
「……これだけ大量のポーション等を準備していたジルさんの備蓄には舌を巻きますが、今更ながらですが、そのかめちゃんさんの収納量は脅威に値しますね」
クローディアがポーション等を大量に取り出したかめちゃんを見ては鋭い視線を向ける。
あー、そうなのだ。
ジルはこの地竜の群れとの戦いで、かめちゃんの能力を惜しげも無く披露していた。
次々倒していく地竜の亡骸を、そのままかめちゃんの中へ収納していたのだ。
地竜の亡骸でバリケードを作ると言う手もあったが、戦闘区域が制限されることで視界が遮られることを嫌ってその亡骸の排除が必須だった。
その為、ジルがかめちゃんを使って、クローディア達の目の前で地竜の亡骸を回収していた。
秘密秘密と謳っていたにも拘らず、随分と盛大に披露しているなぁ。
ラノベとかで、スローライフを望んでいるのに能力を隠す気も無くさらけ出して注目を浴びている主人公みたいな事をしちゃってるよ。とほほ。
「まぁ、その辺りの事は後で十分に話し合おうぜ。今は体を休めることが先決だ。この後も戦いは続くんだ」
「……ええ、そうですね。クライアントへの無闇な詮索は案内人としては不適切でした。お詫び申し上げます」
「えーー! 気になる! ……けど、確かに聞いちゃいけない事もあるよね。うう、気になるけど、今は休みたい。物凄く……」
マックスに促され、ジルの事は気になりつつもクローディアとシロップは【サンクチュアリ】の効いた【シェルター】で毛布にくるまって休んだ。
うーん……出来ればかめちゃんの事はばらしたくは無かったんだがなぁ。
下手をすれば、ふーちゃん+かめちゃんコンボで輸送マシーンにされそうだからな。
影ギルドとか裏ギルドとかに。
『客観的に見ても、自分の性能は恐ろしいものがありますから』
などとドヤ顔をする(顔は無いけど)かめちゃんはさて置き、ばれるのは時間の問題だっただろうから仕方がないのか?
だが、無限収納量は今更だが、時間停止機能は絶対ばらさない様にしないと。
本当にジルを巡って戦争にまで発展しかねない。
まぁ、確かのこの問題は後で解決する事にして、今は地竜の群れを何とかしないとな。
この後、ジル達は1時間休憩を取った後、再び地竜の群れと戦った。
3時間の戦闘、1時間の休憩を繰り返し、3度目の休憩後の戦闘でようやく先が見えてきた。
「くぁーーーー! 後30匹くらいか!? やっと終わりが見えてきたぜ!」
「もういや! 何であたしこんなことしているんだろ? この案内が終わったら、あたし案内人なんてやめる! 絶対!」
「でも地竜が居なくなったら、この道通りやすくなるんじゃないのー?」
「う! 確かに! 迷宮大森林の難所が1つ無くなる! ……って騙されないわよ! もうこんな厄介な仕事はやめてやるー!」
「あらあら、気が早いですね。まだ戦いは終わってませんよ。油断は禁物です」
まぁ、クローディアの言う通り油断は禁物だが、地竜相手には気を張る必要は無いだろう。
もう何百匹も倒して効率的な倒し方をマスターしている4人だ。
問題は……未だにへきちゃんの向こうで暴れまわっている、この騒動の原因でもある金色地竜だ。
このまま地竜の群れを全滅させた後は、当然次の標的をジル達に向けるはずだ。
金色地竜は休憩中も【サンクチュアリ】と【シェルター】に向かい攻撃を繰り返していた(休憩中はへきちゃんも【シェルター】で囲っていた)。
何が原因でこうなったかは知らないが、このまま地竜の巣を通り抜けるには、金色地竜は避けて通れない問題と化している。
「ジルちゃん、残りの地竜は俺達が相手する。ジルちゃんは金色地竜をどうにかしてくれないか?」
「そうですね。向こうは地竜を倒してから次、という考えは無く、無差別に襲ってきてます。わたくし達が律儀に地竜を倒してからと考えていては対処が遅れてしまいます。このままジルさんが金色地竜を抑えてもらう方向でお願いできませんでしょうか?」
そうだな。周囲の地竜の群れが少なくなってきたので、金色地竜がこちらに向ける攻撃率が高くなってきていた。
へきちゃんが全て防いでくれていたが、流石に無視できない程になってきている。
「分かったー! 私が金色地竜を何とかするから、皆は周りの地竜をお願いねー!」
ジルはマックスたちに地竜の群れを任せ、ぼーちゃんとえんちゃんを手に、へきちゃんを消して金色地竜を正面に据える。
「(へきちゃんー、長時間ありがとうねー)」
『ぅうん……ご主人様のぉ役に立てて、ぅれしぃよ……』
「さー、ここからは私が相手だよー!」




