047.影ギルド
「じゃぁ、ちょっと待ってな。今話を付けて来るから」
そう言って、コネトはこの店のカウンターに行き、店長と話をしてから店の奥へと行った。
って、はぁ!? この店が影ギルドの拠点なのかよ!?
えー……コネトって借りを返すために、ジルを付けて機会を伺ってたんじゃなかったのかよ……
マジでただの偶然なのかよ。
「……なんか、俺ら間抜けなことしてたみたいだな」
「……偶然って怖いねー」
俺らは知らないうちに、影ギルドへ足を踏み入れていたって事なんだよなぁ。
暫くしてからコネトが店の奥から現れ、ジル達を呼びに来た。
「俺のボスが会ってくれるってよ」
ジル達は案内されるままにコネトについて行く。
店の奥、そこから更に階段を下り、地下の更に奥の部屋のひとつ前の部屋に案内された。
部屋の中は普通の部屋と変わらず、奥に机、中央に接客用のテーブルとソファーが並べられていた。
「その2人が迷宮大森林を抜けたい人たちですか。おや……? これはこれは、面白い……」
てっきり髭モジャとか、眼光の鋭い禿げ頭の盗賊が居る者ばかりだと思ったが、奥の机に座っていたのは眼鏡を掛けた優男だった。
ただ、この影ギルドに居るのと、醸し出す雰囲気が詐欺師を思わせた。油断できそうにない。
まぁ、この拠点を任せられている事から、ただの詐欺師と言う訳でもないだろう。
と言うか、別にこの拠点のボスとも詐欺師とも言ってないけど。
この場合は【鑑定】で判断だ。
名前:アオリスト
種族:ヒューマン
状態:変装(男)
二つ名: 微笑みの牧師
スキル:治癒師Lv31
備考:影ギルド・拠点清浄店のボス
ふむ、どうやらこの拠点のボスと言うのは間違ってないみたいだな。
と言うか、二つ名が微笑みの牧師って何だ!?
おそらく【治癒師】のスキルが関係していると思うが。
「さて、コネトはもういいですよ。どんな手段で有ろうともノルマさえこなせれば我々影ギルドは貴方方の生活を保障いたしますよ」
あー、これはジルが施しをしたのがバレているのか。
『だから、あたいはこう言った輩が嫌いなんだよ。人の弱みに付け込んでまがった事ばかりしやがって』
『そう言うなよ、めー。オレ様は嫌いじゃないぜ』
確かにはーちゃんは好きそうだな、こう言った輩は。
「ふん、借りは返したからな」
そう言ってコネトは小声でジルに礼を言って部屋から出る。
ツンデレだ、ツンデレだ。
でも、まぁ、助かったのは確かだな。
聞こえないだろうけど、礼は言っておくぜ。コクト。
「では、改めまして。私はアオハル。この影ギルドの拠点の1つを任されている者です」
お? 偽名を使ったな。
まぁ、それは当然か。
影ギルドに所属していて、わざわざ本名を名乗る方が間抜けだらかな。
「俺はマックス。こっちはジルベール。俺達は迷宮大森林を抜けて、隣国の聖王国セントルイズへ行きたいんだ。安全なルートの案内を頼みたい」
「『韋駄天』のマックスに、S級最年少のジルベールですか」
おお、流石は影ギルド。情報が早い。
マックスは東大陸で活動していたから、こっちの西大陸ではあまり『韋駄天』の二つ名は広まっていない。
ジルに関しても、一部(冒険者ギルドのギルドマスターとか)に情報が広まっているが、まさかもう影ギルドにまでS級昇格の情報が届いているとは。
「コネトから話を聞いた時はまさかとは思いましたが……本来ならコネトのような下っ端からは取り次いだりはしないんですが、S級冒険者のジルベールなら何故なのかは分かりますよね?」
あー……これはいつかジルのS級の権力を当てにしてます、って事か。
「借りが1つって事でしょー? いいよー、その代わり、ちゃんと案内よろしくねー」
『えー! こんな奴らに借りだなんて! 姐さん、やっぱやめようよー!』
『めー、マスターの決定に私達は逆らってはいけません。何故なら私達はマスターの道具なのだから』
『客観的に見ても、ここで影ギルドに縁を結んでおくことに意味はありますよ。例えそれが借りと言う名の縁だとしても』
相変わらずめーちゃんは影ギルドに拒絶反応が出ているなぁ。
それをぼーちゃんとかめちゃんが窘めている。
「(めーちゃんごめんねー。でもなる早で聖王国に戻らないとー。アル君が心配なのー)」
『うう……それを言われると……あたいだってアル坊は心配だよ』
「ああ、勿論、それ相応の案内料は頂きますよ」
ちゃっかりしているな。
アオハルが案内料として提示してきた額は金貨8枚。
80,000G、つまり日本円にして8,000,000円
高けぇ!
それだけ危険を伴うって意味もあるんだろうな。
港町フォルスでリヴァイアサンの褒賞を貰っておいてよかったな。
あれが無ければ迷宮大森林の道案内を頼むことも出来なかったかもしれない。
「それではこの紹介状を持ってこの場所へ行ってください。そこに迷宮大森林の案内者が居ます」
紹介状と共に渡された場所の地図は、コクト少年が居たスラムよりも更に奥の廃棄場と呼ばれるような場所だった。
ジルとマックスはアオハルの店を後にして、早速指定された場所へと向かう。
地図にある通り、そこは廃棄ゴミが山となった放棄された区画だった。
そのゴミ山の中にぽつんと1軒だけこじんまりとした店が建っていた。
あまりの場違いな建物に物凄く違和感が拭えない。
その店の名前も『森の灰汁』。
やる気があるのかないのか分からない店だな。
「場所ここだよねー?」
「ああ……」
流石にジルもマックスも呆気に取られながらも、怖々と店の中へと入っていく。
「『森の灰汁』へようこそ! 当店は森の恵みから絞り出されたカスを汁として提供しているお店です! お客様のご希望の商品は何でしょうか!」




