041.Lv2
『ひゅー、風が気持ちいいじゃねぇか』
『ぶーぶー! こんな船よりあたしの方が断然早いのに!』
『気持ちは分かるが、ここは我慢しなさい。幾らふーとは言え、1日で海を渡りきることは出来ないだろう?』
『Hey! ShipのTravelもいいもんだZe!』
「(そうだねー、いつもふーちゃんであっという間だから、たまにのんびりもいいかもねー)」
『でも姐さんは急いでいたんじゃないのかい?』
『よくない、焦る、失敗する。転換、気持ち、船旅』
『強制的に船旅になるんだから、焦るのは意味ないですからね。ジルベールややーの言う通り気持ちを切り替えるのには丁度いいのでは』
『ぅ、ぅん。ご主人様の気持ちも大事……』
『えー!? 誰も味方居ないのー!? 幾らのんびりったって、この船旅は2週間もかかるんでしょ!?
あたしだったら5日で着くよ!」
『お前、リーダーの話聞いてたか? その5日の間、海の真ん中でどうやってお嬢を休ませるんだよ』
『マックスも居るのをForgetしてもらっちゃ困るZe!』
『そうだよ。きゅーちゃんの【氷魔法】で休憩地を作ったとしても、流石にマックスの【韋駄天】でも海は渡れないからな』
『そもそもマリンポートからの渡航の手続きを踏んでいるんだ。向こうに着いた時、船を使わないで海を渡りましたと報告する気か?』
『あと、客観的に見ても個人のスキルで海を渡ったことが分かれば注目もされますね』
『それは今更のような気が……ジルちゃんはS級冒険者になったんだよ。それくらいのスキルがあるって納得すると思うけど……』
『良くない、目立つ、出来れば。秘匿、スキル、我々の』
『ぅん……敢えてばらす必要もなぃと思ぅよ、僕も……』
「(ふーちゃんには、西大陸についてから頑張ってもらうからー、今のところは我慢してー)」
『うー……、分かった。その代わり、西大陸に着いたら思う存分乗ってもらうからね! 馬車とか使ったら許さないんだから!』
『それはそうと、きゅーは大人しいですね。いつもならマスターと雑談を楽しんでいるのでは?』
『あー……、お前らがこんなにお喋りだとは思わず唖然としているんだよ。つーか、喋れるようになった途端に皆して喋りすぎ。賑やか過ぎて逆に引くわ』
『いや、寧ろお前が今までお嬢を独り占めしてたんだろ?』
『そうそう、あたい達もずっと姐さんと喋りたかったんだ』
『きゅーちゃんだけ、ズルぃ……』
『と言う訳で、これからはMe達もMissGillとのTalkを楽しませてもらうZe!』
『……好きにしろ。だけどなるべく会話に参加する人数は絞れよ。一気に9人も会話をすればジルも捌き切れずに周囲に変な目で見られるからな』
「(そんなことないよー。皆との会話は楽しーからいっぱいお話しよーねー!)」
ジルのお願いに皆は喜んでいた。
そう、皆だ。
今は俺達は港町フォルスから西大陸に向かう大型客船に乗っている。
大型客船にしては船足は早い方で、約2週間で西大陸に着くらしい。
その間に俺はのんびり船旅を楽しもうとしたが、こいつらによってその希望は断たれた。
のんびりどころか大賑わいとなってしまっていた。
ジルの【ストーンコレクター】のLvが2に上がったことにより、お気に入り達の自我が目覚め話が出来るようになったのだ。
何故か、石空間に居てもジルとの会話が可能になっていた。
そして自我が目覚めただけではなく、それぞれの素材も変化していた。
例えば、ぼーちゃんは紅玉の材質に。
伸縮の能力と相まって、その見た目はまんま如意棒だ。
他のお気に入りもそれぞれ蒼玉や翠玉と言った材質に進化していた。
かくいう俺も、神銀水晶などと聞いた事も無い材質に変わっていたのだ。
能力も追加されていたりする。
軽く【鑑定】で見てみたが、ただでさえ、チート能力のオンパレードだったのが更に倍になっていたのだ。
俺も【百花繚乱】の他に新たなスキル【千載一遇】が追加されていた。
ジルが……ジルが、どんどん規格外になっていく……!!
そもそも、特殊系スキルにはLvは存在しない。
職業系・技能系・特化系の3つは上限が100までのLvが存在するが、特殊系は特殊性も相まって、Lvは基本存在しない。
ただ、その特殊系スキルを鍛え上げた先には新たなステージに上がり、Lvが上がる事があるとマックスの弁。
実はマックスも【韋駄天】はLv2になっており、Lvが上がった時に新たな能力に目覚めたらしい。
確かに前に【鑑定】で見た時、マックスの【韋駄天】はLvが2だったな。
ジルが【ストーンコレクター】Lv2になった事により目覚めたのは、お気に入り達の自我、材質の変化、新たな能力の3つと言う訳だ。
まぁ、今は船旅で行程も決まっているので、その間にLv2の能力等を検証するのもいいかもな。
但し、賑やか過ぎるのが難点と言えば難点か。
新たな力に目覚めたジル。
そうして始まった船旅。
そう、こういう時には得てしてトラブルが舞い込んでくる――――――なんてことは無く、この2週間の間は何のトラブルも無く、俺達は無事に西大陸に辿り着いた。




