246.遅れてきた男
アベレージが氷結剣を振るい、襲いかかる水弾を凍らせる。
と同時に死々蜘蛛剣の鍔から伸びる無数の蜘蛛糸ワイヤーを放ちマーブルシュッドを攻撃する。
「無駄です。私には貴方達の攻撃は届きません」
マーブルシュッドに絡みつくかのように伸びる幾つもの水柱ごと切り裂いたと思われた蜘蛛糸ワイヤーの攻撃は、よく見れば水柱の中で流れる水流に受け流されて明後日の方向に飛ばされてしまう。
「ちぃ、その細身の水柱で防げるほど柔い攻撃じゃないんだがな」
「それなら俺のドラゴンパワーで!」
竜を模した全身鎧を着たオズが、【メダルコレクター・ドラゴンコンボ】の膂力で一気に近づき拳の一撃を放つ。
それに対し、マーブルシュッドは幾つかの水柱を正面に向けてオズの攻撃を水流の流れに乗せて軽く受け流す。
思いっきり体勢を崩されたオズは、マーブルシュッドの幾つもの水柱から分かれた水の鞭に曝され弾き飛ばされる。
おいおい、オズの【メダルコレクター・ドラゴンコンボ】は簡単に飛ばされるほど軽いもんじゃないんだけどな。
「やぁぁぁー!」
オズが攻撃した隙を突いて、反対側からジルがハルバードで攻撃するも、オズ同様に水柱の水流に阻まれてジルの攻撃も受け流される。
ジルはとっさに片手をハルバードから放し、態勢を整えてその場を離れる。
「おっと、流石に判断が早いな」
ジルの態勢を崩れるのを見越してジョージョーが攻撃してきたが空を切る。
『わふ! お前の相手は僕だ! ママに手を出させはしない!』
「来たな最強フェンリル! だがお前だけの相手をしている暇はないんだよ!」
ジョージョーは時空波紋を起こそうとするが、マックスがそれを阻みつつジョージョーに迫る。
「【アイシクルランス・ガンバレル】」
隙を見てはマーブルシュッドとジョージョーにファイの【アイシクルランス】の散弾が迫るが、絶対防御にも思えるマーブルシュッドの水柱の防御によって明後日の方向へと受け流される。
「やっかいだねー。あの水の防御ー」
「ああ、ただの水柱かと思いきや、かなりの圧と水流が渦巻いていやがる。あの人魚姫、涼しい顔してかなりエグイ【水魔法】を使ってやがる」
「人魚姫ってー。マーブルシュッドの事ー?」
「ああ、そうだが?」
「相変わらず変な名前を付けるねー」
人魚姫って。
それって誉め言葉じゃね?
まぁ、ジルの言葉からすると、オズは人に変な名前を付ける性格をしているみたいだが。
それにしても、ジルやオズの言う通りあのマーブルシュッドの防御は厄介だ。
魔法名を唱えずあれだけの防御やそれと同時に攻撃をこなすなんて、【水魔法】Lv999は伊達じゃないか。
まぁ、俺もジルたちの攻撃を黙って見ていただけじゃない。
対【水魔法】の最終兵器ともいうべき魔法の準備をしていたからな。
「ジル! アベレージ! オズ! 離れろ!」
ジルは俺が何をするのか気が付いており、アベレージとオズも素直に俺の言う事を聞いてその場を離れる。
「喰らえ! 【イグドラシルバインド】!!」
そう、魔王軍最強ともいわれていた元四天王の【深海】のディーディーをも成す術もなくやられた俺のオリジナル魔法だ。
マーブルシュッドの足元から伸びた世界樹の枝が次々と水柱ごと絡みつき締め上げる。
「あら、これがディードリッド様を封じたと言う魔法ですか。なるほど。確かに並みの【水魔法】使いなら抵抗できずに世界樹の栄養にされてしまっていたでしょう」
余裕面していられるのも何時までもつかな。
これは例え深海の水量でも吸い上げる世界樹なんだぜ。
と、余裕面していられたのは俺の方だった。
「私の【水魔法】を舐めないでください」
水柱を吸い込み、全身に絡みついたと思われていた世界樹の枝がマーブルシュッドの言葉と供に弾け飛んだ。
「――は?」
この時、俺は間抜けなアホ面を晒していたんだろう。
「おいおいおいおい、世界樹だぞ。まだ若木と言えど、世界樹による束縛魔法だぞ。あり得ねぇ」
「ええ、ええ、ディードリッド様が封じられたのも分かります。例えどんな水量でも己の糧にしてしまう世界樹の前には【水魔法】は格好の栄養分に過ぎません。ですが、量でなく質だとしたら? 私の【水魔法】の質は世界樹には合わなかったようですね」
……っ! そうか、【水魔法】の質か!
世界樹にはマーブルシュッドのLv999の【水魔法】は過剰摂取による毒なんだ。
人に例えれば、酸素は呼吸に必要不可欠な要素だが、酸素濃度が濃ければ逆に毒になりうる。
くそ、【イグドラシルバインド】は結構期待してた切り札なんだがな。
【イグドラシルバインド】が効かないとなると、マーブルシュッドに有効な手段はなんだ?
ジルたちは俺の攻撃が効かなくても次の手段があると信じてマーブルシュッド、ジョージョーに攻撃の手を休まずに繰り出す。
ドッゴーーーーンッ!
俺が頭を悩ませていると、魔王城の謁見の間の天井が吹き飛ぶ。
天井の空いた穴から空が見え、そこから見覚えのある1人の少女が降り立つ。
そしてそのまま一気にマーブルシュッドに迫る。
マーブルシュッドはその少女を迎撃しようと新たに生み出した水柱たちから水の鞭を生やし放つ。
だが、その水の鞭たちは天井に空いた穴から放たれた矢によって吹き飛び、少女の援護を果たす。
「そいやー!」
少女の放った拳の一撃は、この戦いが始まって初めてのマーブルシュッドへの一撃となった。
「間に合ったッス! 何とか間に合ったッス! 間に合ったッスよね!!?」
そう言って穴の開いた天井から降り立ってきたのは、複数の祝福を受けし者であり、勇者パーティー随一の弓術者・ゴダーダだった。




