244.水流のマーマー
「そうか」
魔王はそう一言いうだけで、それ以上何も言わない。
「え? マジ?」
俺は思わずジルの方を見ては事実か確認する。
「うんー、ユーユーはヒビキとブラストールが倒したけど、2人とも別の魔族にやられちゃったのー。ジージーはおじーちゃんと戦ってから2人とも行方不明ー。ルールーはクローディアがその身を犠牲にして1000年前に時空波紋の魔道具で連れて行ったのー」
おおぅ……
2年前の決戦でそんなことが起こっていたのか。
そうか……ブラストールとヒビキはやられちまったか。
クローディアはルールーを道ずれに。
ジジイは……どうでもいいか。
寧ろジージーを何とかしたと思われるのでよくやったとだけ思っておこう。
ふむ、つーことは、今は魔王四天王はジョージョーだけか?
「それで魔王様、事後承認になりますが、私の判断で新たな四天王を選任しております」
……まぁ、そう簡単にはいかないか。
「よい。妾が不甲斐なくこやつらに封じられている間、苦労を掛けた」
「勿体ないお言葉です」
「それで、今すぐにでも魔王様をお守りするためにお呼びしたいのですが」
「うむ、妾の身を守ることを認めよう」
む、新四天王を呼ばれてしまうか。
何とかして邪魔をしたいところだが……
「はっ、残念だったな。四天王の混沌のコーコーと完璧のパーパーは俺たちが既に倒しているぜ」
え? 何その面白い名前の四天王は。
俺はアルベルトの言葉に思わず心の中で突っ込みを入れてしまう。
「そうか、どうりでコーデリアの奴と連絡が取れないわけだ。ああ、パートリッジの奴はあいつはどうでもいい。ただの数合わせだからな。まぁ、コーデリアも数合わせと言うか実験の意味合いがあっただけだし。本命は……マーブルシュッドだ」
そう言いながら、ジョージョーは時空波紋を起こし1人の女性を呼び出す。
見たところ人間と同じ姿の妖魔族っぽいな。
髪は床まで届くかと言うほどの緑色のストーレートロングで、スレンダーで胸はほどほど。
装備は両腕に手甲を付けているくらいで、ほぼ布製の防具布だ。
「いきなり呼び出すとは何事ですか。事前に連絡くらい寄越してください」
「いや、すまんな急に。だが勘弁してくれ。何せ魔王様が復活して、尚且つ勇者どもも目の前に迫っているからな」
急に呼び出されたことに不満をぶつけるマーブルシュッド?だが、ジョージョーの魔王復活の言葉に跳ね上がる様にして振り向き、魔王を確認しては直ぐに跪いた。
「魔王様、2年に渡る封印からの復活お祝い申し上げます」
「お主が、新たな四天王か。ほぅ……、なるほどな。ジョーカー、お主面白い人材を発掘したな」
「はっ、ありがとうございます。しかしながら、他の2名は数合わせと言うか、実験の為にそろえたことをお詫びいたします」
「よい。この者が居れば些細な事だ」
え? 何? こいつそんなに凄い奴なのか?
「貴方方が勇者パーティーですか。初めまして、と申しておきます。私の名は、マーブルシュッド・マーメイド。魔王四天王の1人、水流のマーマーです」
水流のマーマー。
えーっと、新しい四天王は完璧のパーパー、水流のマーマー、混沌のコーコー。
何の冗談だ? パパ、ママ、子って。
この時まで俺は新四天王の事を軽く考えていた。
だが、ジョージョーや魔王が言うように、このマーブルシュッドだけはまるっきり別の意味で冗談だと言えた。
「魔王様の復活は喜ばしい事ですが、それを邪魔する無粋な輩は遠慮していただきたいです。聞き入れないのであれば、力尽くでも排除いたします」
マーブルシュッドが両手を構えてアルベルト達と対峙する。
すると足元から水が湧き出し、幾つもの水流の柱がマーブルシュッドに絡み付くかのように周囲を漂う。
……あれ? こいつ、呪文を唱えたか?
何か【第六感】が警鐘を鳴らしているぞ。
俺は【鑑定】を使ってマーブルシュッドを観てみる。
名前:マーブルシュッド・マーメイド
種族:魔族
状態:正常
スキル:水魔法Lv999
二つ名:水流
備考:新四天王。神域に片足を踏み込みし者。
………………………………………………………………は?
え? いや、見間違い、か?
…………見間違いじゃない。
ちょっ!? 何だよ【水魔法】Lv999って!?
通常、スキルLvは99までだ。
それを超えると化け物やら規格外、天才などと呼ばれる存在になる。
S級冒険者の『暴風』のモレッツァや、かつて魔王軍最強と呼ばれていたらしい『深海』のディーディーの様にLv199がそうだ。
だが、マーブルシュッドはそのLv199すらも霞んで見えるほど有り得ないレベル表示だった。
魔王の【魔王】Lv5も特殊系の中の称号系の中でも有り得ないレベルだが、マーブルシュッドはなまじレベル表示で判断できる技能系スキルなだけに、その凄まじさがありありと分かってしまう。
「きゅーちゃんー、どうしたのー?」
「あ、ああ。あの魔族の女――マーブルシュッドの強さにちょっと、な」
「うんー、あの人が強いのは物凄く分かるよー。フツーじゃないっぽいしー。でも、私たちはここまで来て逃げることは出来ないよー」
まぁ、そうだよな。
2度目の魔王退治。
今更逃げるなんて選択肢なんてない。
「おい、きゅーちゃん……だよな? 2年間魔王を封じて置いて、今更怖気づいたとか言うなよ。魔王たちが強いのは最初から分かっていた事だ。後はどうやって勝つか、だろ?」
まさか、子供のアルベルトに励まされるとは。
はっ、いいぜ。
こうなりゃあとことんやってやるよ。
俺の【森羅万象】とマーブルシュッドの【水魔法】Lv999とどっちが上か、見せてやろうじゃないか。




