Side-94.ジルベール48 -VSアルダーコール王家2
「自己紹介が遅れたな。俺様はアルダーコール王家の第7王子、ズクリュウ・ドライバ・アルダーコールだ。スキルは見た通り【竜化】だ」
いきなり飛んできた竜が魔族に変わったと思ったら、実は魔族王族の第7王子だった。
「何をしに来た、ズクリュウ」
「当初の予定じゃ、勇者を連れてくる手はずだったろ? 随分と遅いから様子を見に来たんだよ。このままじゃモズコが来ちまうとこだったんだよ。アイツ、ジンの兄貴にべったりだからな。今回の作戦にはモズコの配置は決まっているから他に動かせねぇのはジンの兄貴も分かっているだろ」
「……ちっ、勇者は今【契約】して連れて行くところだ。少し待っていろ」
「あれー? 【契約】したけど、【契約】は破られたんだよねー? また【契約】するつもりなのー?」
おっと、思わずジンと会話しちゃった。
「ぶはっ! ジンの兄貴、折角結んだ【契約】を破られたのかよ。くはは。いいぜ、俺様も力を貸してやるよ」
「ならば、そこの剣士の人間を始末しろ」
「了ー解」
ズクリュウは両腕を【部分竜化】してアベルに襲い掛かろうとする。
「させるか!」
それをオズが体当たり気味に阻止する。
「うおっ!?」
おそらく【竜化】により力負けをするとは思わなかったんだと思う。
ズクリュウはオズの超パワーに押し負け、そのまま建物の壁へ押し付けられる。
「ふっ、人気者だな」
「……男は御免被る」
「それは俺も同感だ。さて、本格的にやりあうためにも自己紹介と行こうか。俺はガルア・ミルグ。アルダーコール王家に仕える剣豪であり、【言霊使い】のスキル持ちだ」
剣士の魔族――ガルアが仕切り直しとばかりにアベルに自己紹介をする。
それにアベルは応えて名乗りを上げる。
「俺の名はアベレージ・アトランダム。アベルと呼ばれている。S級冒険者『天剣』。【ソードコレクター】のスキルを持っている」
ああ、アベルも馬鹿正直に【ソードコレクター】のスキルをばらしちゃった。
と言うか、【言霊使い】ってスキルは聞いたことないな。
どんなスキルかって思ってけんちゃんに聞こうとしたけど、その前に【言霊使い】の効果が直ぐに分かった。
「『動くな』」
ガルアの【言霊】にアベルの動きが一瞬止まる。
アベルだけじゃない。
私たちの動きも一瞬止まってしまった。
その隙を突いて、ガルアはアベルに斬りかかる。
ジン、ズクリュウ、小声の魔族も私たちの動きが止まった隙を突いてそれぞれ攻撃を仕掛けてくる。
アベルは辛うじて一瞬の硬直から抜け出しガルアの剣を交わす。
お返しとばかりにアベルは死々蜘蛛剣の鍔から無数の蜘蛛の糸を吐き出しガルアを絡め取ろうとする。が――
「『落ちろ』」
ガルアを絡め取る直前で、蜘蛛の糸は力なく地面に落ちる。
「『動くな』」
そして再びアベルや私たちの動きを止める。
ほんの一瞬だけの硬直だが、戦闘面においてはその一瞬が命取りになりうる。
再び蜘蛛の糸を吐き出しガルアの剣を絡め取って追撃をかわすアベル。
「おっと、剣を取られちまったな。『戻れ』」
だけどガルアの【言霊】で剣はガルアの手に戻る。
「それが、お前の【言霊使い】の力か」
「ああ、言葉に魔力を込める事で【言霊】と化し、万物に作用する力を得るスキルだ。尤も【言霊使い】のレベルは12だから一瞬程度しか効果が無い。だが、その一瞬で十分だよ。戦闘においては」
これって結構ヤバ目のスキルじゃないのかな?
かなり自由度が高い上に、人だけじゃなく物にも作用するんだから。
ただし、スキルレベルが低い所為か、長時間の作用は難しいみたい。
それ以外にも強力な分、使用条件がありそうだけど。
存外、思いがけない強敵を前にアベルが苦戦している。
「……自己紹介。ゾルティ・ドッグ。【紋様使い】……」
ガルアに倣ってか、小声の魔族――ゾルティも名乗りを上げる。
それに対するのは、オズ――はズクリュウの相手をしているね。残ったのはララクレットとパトリシア。
パトリシアは他にも回復の支援の目を向けている為、実質ララクレット1人での相手だ。
「あ、あたしはララクレットですです。【ボトルコレクター】スキル持ちなのなの。ってオズさん! 前衛の貴方があたしをほっぽいてどうするんですかなのなの!」
ララクレット1人でもやれないことはないだろうけど、流石に1人じゃ厳しいね。
「アル君ー、ここは任せてもいいー?」
「ああ、こいつは俺が相手するよ。姉さんは彼女を頼む」
「マックスー、アル君を助けてあげてー」
『うん! アルベルト、一緒に戦うよ!』
私はジンの相手をアル君とマックスに任せてララクレットの助っ人へ行く。
「おっとー。貴方の相手は私もよー。私の名はジルベールー。S級冒険者で二つ名は『幻』って呼ばれているよー。スキルは【ストーンコレクター】ー」
私はララクレットとゾルティの間に割って入りハルバードをゾルティに向かって構える。




