Side-92.ジルベール46 -指切りげんまん
「アルベルト様を元に戻しなさい!」
パトリシアがジンに詰め寄る。
「それは無理な相談だな。勇者を取り戻したくば、我と新たな【契約】を結ぶか? 勇者を元に戻す代わりに貴様が身代わりになるとか」
「出来るわけないでしょう! 貴方のような胡散臭い輩の言う事を信じられるわけありません!」
「ははっ、所詮貴様の忠誠心はその程度って訳だ。真の従者ならどんな形と言えど、勇者に付き添うもんじゃないのか?」
「ちっ、違います!」
あー……、口の巧さはジンの方が上手だね。
下手をすれば、逆にジンに新たな【契約】を結ばれる可能性があるね。
「パトリシアー、それ以上は口を聞いちゃだめだよー」
「ジルベール様! ですが!」
「いや、巨乳の言いう通りだ。こいつの口車に乗ったら思うつぼだ」
オズの言葉により、パトリシアは渋々これ以上の口は開かなかった。
「おっと、いいのか? 勇者は我が連れて行くぞ? まぁ、尤も魔王を倒せば帰してやるよ。無事にとは約束できないがな」
「…………っ!!」
ジンお言葉にパトリシアが再び掴みかかろうと飛び出そうとしたので、ララクレットが慌てて抑え込む。
「ねぇ、けんちゃんー。【契約】のスキルは契約主かスキルの持ち主が死ねば契約者は解放されるんでしょー?」
『是:【契約】スキルは所有者が死亡することで、全ての【契約】は解除される』
その言葉を聞いてパトリシアだけでなく、アベルやオズたちが一斉に戦闘態勢をとる。
「そう来るか。勇者、魔王を倒す前に障害を排除しろ。ファイ、仲間を拘束しろ」
「了解」
「……【バインド】」
アルベルトがジンの前に出て流聖剣アクセレーターを構え、ファイちゃんが後ろから私たちを【バインド】の魔法で拘束しようとする。
ファイちゃんの【バインド】をとっさに躱したのは私とアベルの2人だけだった。
【メダルコレクター】の変身をしていなかったオズとパトリシア、ララクレットの3人は【バインド】で蔦に縛られ拘束される。
「ちょっと仲間同士で戦うなんて思いもしなかったなー。さてどうしよー」
『ジルちゃん、どうしようと言いながら焦ってないでしょ。何か策でもあるの?』
「(ううんー、特には無いよー。だけどねー、何とかなるとは思ってるー。女の勘ねー)」
そう、私の勘は捨てたもんじゃない。
動いてくれたのはアベルだった。
「まさかこんなところでこいつが役に立つとはな」
アベルは今までに見たことが無い剣を剣空間から取り出した。
刀身は細目で片刃で刀のような剣だ。
鍔の部分は幾つもの糸が絡みついたような形にしており、柄の部分にも赤い糸の房が付いている。
「縁切剣ユビキリゲンマン」
アベルは縁切剣をヒュウっと軽く一振りしてそのままアル君へと向かう。
アル君はジンの命令通りアベルを迎え撃とうと流聖剣アクセレーターを発動させようとしたが、アベルの方が一足早かった。
と言うより、アル君の剣の間合いに入る前に、アベルの縁切剣の一振りがアル君を切り裂いた。
えー! 縁切剣が伸びたー!?
もともと細かった剣がさらに細くなり、糸の様にしなやかな剣となりアル君にまで届かせた。
そして切り裂かれたと思ったアル君は全くの無傷だった。
「あ……れ……? 俺は何を……」
「アル君ー!」
「アルベルト様!」
アル君が元に戻った!
「バカなっ!? 我が【契約】が破られた!?」
「縁切剣は人と人の縁を切り繋がりを希薄にする剣。通常なら人との仲を切り裂く剣だ。だがこの剣は約束をも切り裂くことが出来る。つまり【契約】にも効果があると言う訳だ」
アベルは縁切剣を今度はファイに振りぬきながら剣の効果を説明する。
縁切剣に切られたファイもいつもの無表情へと戻る。
「……ありがとう」
【契約】が破られたジンはと言うと。
「やってくれたな。まさか【契約】スキルがそんなくだらない剣によって破られるとはな。その剣は我にとって天敵なわけだ。ある意味こうして巡り合えたのも運命かもな。今ここで貴様ごとその剣を闇に屠ってやる」
「無駄だ。お前には俺だけではない、勇者パーティーの誰にも敵わないだろう。口先だけの小物にはな」
「貴様……! この我を小物だと!? しかも口先だけと!」
おー。アベル、珍しく煽る煽る。
ジンは【契約】で人を見下すことはあるのに慣れているけど、逆に下に見られることには慣れていないせいか、意外と沸点が低そう。
「……【サイレント】」
「…………!! …………!! …………!!」
「……これ以上口を開かれると隙を突いて【契約】を結ばれる可能性があるから黙らせた」
「ファイちゃんナイスプレー」
拘束を解かれたオズやパトリシア、ララクレットもそれぞれ戦闘態勢に入り、ジンたち3人と対峙する。




