Side-90.ジルベール44 -思いがけない再会
日が落ちて辺りが大分暗くなってきた頃、私はそれを感じた。
空気がひりつくと言うか、乾くと言うか、緊張を孕んだのが分かった。
これは――――来る。
ドーーーン………!!
館から離れた場所で爆発が起きる。
パートリッジた策に用意した時間よりも少々早いけど、およそ予定通りの時間帯に魔族王族が攻めてきたみたい。
「よし、予定通り俺たちは魔王城へ向かおう」
ジンたち魔族王族が攻めてくるのは分かっていたけど、私たちは一応代わり番を立てて時間まで休憩を取っていた。
アル君は全員が目覚めていることを確認し、この騒ぎに乗じて魔王を倒すため魔王城へ向かう事を告げる。
皆は頷いてアル君に続いて館を出て暗闇の通りを魔王城へ向かう門へ向かって行く。
「クロノス、居るか?」
『――ルートはそのまま。突き当りを右へ――』
先行して偵察していたクロノスは思った通りこの辺の地図も調査済みで私たちを先導してくれる。
「今頃あのアホ痴将は俺たちが居なくて大慌てかもな」
「なのなの。そのアホ顔が見れないのが残念ですです」
オズとララクレットが悪だくみが成功した子供の様に顔をにやけさせている。
「ですが、先ほどの敢えて隙を見せて罠に嵌める一面があります。これもその作戦の一環かもしれません。油断なさらないよう」
「そっかー? 俺は本当にアホに見えたけど」
パトリシアが気を引き締めるよう注意を促すが、アル君は大丈夫だと一蹴する。
うん、これは私もアル君に賛成かなぁ。
とは言え――
「油断しない事は間違ってないからねー。それにパートリッジだけが魔王軍じゃないしー。他の魔族に気を付けるのに越したことはないよー」
そう、パートリッジに気を取られて他の魔族や四天王(動けるのはジョージョーだけだけど)にバックを取られちゃ折角侵入した意味がなくなるからね。
『――残り300mほど。ほぼ直進ルート。門、障害物3。いや待て! 右通路より魔族と人族・計4!――』
もう少しで魔王城へ向かう門へ辿り着こうと言う時、右側の路地より4つの人影が現れる。
「おっと、こんなところで会うとは奇遇だな。勇者」
「ジン・ドニク・アルダーコール!」
4つの影の1つは、私たちに最初に共闘を持ちかけてきた魔族王族の第2王子のジンだった。
そしてそれよりも私たちの目を引いた人物が居た。
魔族の中に混じって人族が1人。
そしてそれは私たちにも見覚えがある人物だった。
「ファイちゃんー!?」
「……」
そう、私たちの勇者パーティーの仲間、エルフのファイちゃんだ。
だけど様子が変だった。
私たちを前にしても無表情だったのだ。
ファイちゃんはもともと感情を表に出すことが苦手な子だったけど、それは感情が無い事とは違う。
かつてのファイちゃんは無表情ながらも柔らかい顔をしていた。
けど、今目の前に居るファイちゃんは本当に感情が無い無表情だった。
私の呼び声にも一切反応せず、ただ黙って真正面を見つめているだけ。
「どういうことだ? 何故ファイがお前らと一緒に居る? ……偽物か?」
『ふんふん! この匂いは間違いないよ。本物のファイだよ』
アル君は一瞬、偽物を疑うが、マックスが匂いを嗅いでファイちゃん本人であることを確認する。
「ああ、言い忘れていた。彼女は先んじて我らに協力を申し出てくれたんだ。どうだ? 貴様らも我と手を組みたくなったんじゃないのか? 今からでもいいぞ。供に魔王を倒そうではないか」
「偽物じゃないのなら操られている可能性が大か」
ジンの問いに一切構わず、アル君はファイが操られている可能性を疑う。
「ですが、大魔導士でもあるファイさんを操るなんてあり得るのでしょうか?」
「【魅了】系の魔法スキルは魔力の強弱が影響するからねー。でもそれ以外のスキルだと可能性があるかもー」
パトリシアの言う通り、【大魔導士】のスキルを持つファイちゃんは魔力が人一倍高い。
だから【魅了】系の魔法スキルは効かないはず。
可能性があるのは私たちの全く知らない未知のスキル。
こういう時に頼りになるのは――
「けんちゃんー。ファイちゃんがジン側に付いている理由、現在掛かっているスキル効果を教えてー」
『答:現在ファイには【契約】のスキルの効果が掛かっております。ジン・ドニク・アルダーコールと【契約】を結んでいる為、ファイはジン・ドニク・アルダーコールと行動を共にしています』
【契約】? 聞いたことのないスキルだ。
だけどこれで原因がはっきりした。
ファイちゃんは自分の意思でジンに協力している訳じゃない事が。
「おっと、もうバレてしまったか。流石勇者パーティーは優秀だな。そっちの予想通りファイは我と【契約】を結んでいる。あ、【契約】は我のスキルな。だから言ったろ? 近い将来、我と供に戦うって」
それはつまり、ファイちゃんを取り戻したくばジンと手を組めと言う事か。




