Side-84.ジルベール38 -誘い
「さてと……ようやくここまで来れたな。2年前のリベンジだ」
「問題はどうやって町の中に入るのかですが……」
魔王城の麓の城塞都市アイファサ。その近隣に生い茂る森の中。私たちはそこに潜んでいた。
魔大陸を横断して辿り着いたこの場所は、奇しくも因縁の場所でもある。
特にディーノとリュキにとっては。
森のこの場所は、クローディアを失い逃走を決意させた場所だ。
まぁ、クローディアはしぶとく生き延びていたけど。
「前に使っていた変装用魔道具はダメなのか?」
「魔王軍がいつまでも対策をしていないって楽観的になれるのならな」
オズの提案をアル君がばっさり切り捨てる。
そもそもエーデリカが用意してくれた魔道具は2年前のものだし、連合軍でも解析複製できないか研究をしていたけど、2年ばかりじゃそこまでは技術的にも追いついていない。
「と言うか、『収集家の集い』の方がこういった侵入に適したものを持ってるんじゃないのか?」
アル君の返しを受けてオズとララクレットが唸る。
「俺のメダルはそこまで万能じゃないからなぁ。どっちかってっとクーガーのベルトで戦闘用に力を引き出す方だし」
「あたしのボトルにも流石に人族魔族を誤魔化す能力は無いですです」
そうなんだよねぇ。
どうやっても人族や魔族は一目見ただけで見分け出来ちゃうし。
そう考えればエーデリカが用意した人族魔族を誤魔化せるほどの変装魔道具は凄く優秀だったんだよね。
さて、目的地を目前にしてどうしたものか。
「ならば我が力を貸そうじゃないか」
そう言って現れたのは魔族の男が1人。
パッと見は人族と変わらない外見を持つ妖魔族っぽい。
私たちは警戒を怠った訳じゃないのに、その警戒網を抜けて現れた魔族に驚きながらも構えを取る。
距離を無視して移動するやり方はジョージョーの時空波紋を直ぐに思いつくけど、突如現れた魔族は魔王軍か……?
どう見てもジョージョーじゃないし、雰囲気が魔王軍のそれとも違うように感じる。
「おっと、警戒しないでくれ……って言うのも無理な話か。まぁ、ぶちゃけ我の正体はジン・ドニク・アルダーコール。アルダーコール王家の第2王子だ」
アルダーコール王家!
男の正体――ジンの名乗りで私たちの緊張が一気に高まる。
特に元勇者パーティーの面々が。
当然、私も。
魔族王族の、第1王子ヴァインが原因でクーガーが死んでしまったことは、忘れようとしても忘れられない出来事だ。
「ありゃ? 余計警戒が上がったな。我としてはこれからの交渉に余計な感情を持ち込まれると厄介だから落ち着いて欲しいんだがな」
「2年前、てめぇらがやったことが恨まれていないって思っているのか? お目出たい脳みそをしているな」
挑発ともとれるジンの言葉にアル君は恨みをぶつける様に答える。
「あ、あー……ヴァイン兄貴のあれか。確かにあれは失策だったな。上手く交渉すれば味方に引き入れたものを、下策で敵対しちまうんだからな」
「でー? 恨まれているって分かってまだ尚さっきの交渉をするつもりー?」
「んー……そうだなぁ、2年前の恨みを忘れろとは言わないが、このままじゃ先にも進めないって分かっているだろ? 我の力が要るんじゃないのか?」
魔族の町に侵入するのには魔族の力が必要となる。
確かにこのままじゃ強引にアイファサに突撃するしか手が無いのが現状だ。
それに、魔族王族は魔王軍とは敵対しているとの情報も。
特にこの2年でそれが顕著になっているらしい。
これらの状況を踏まえれば、業腹だけどジンの手を借りるのも――――と思っていたのだけど、アル君が即決する。
「断る。お前らの力は借りねぇよ」
「――ほぅ? 自分たちの力だけでアイファサに侵入できるとでも?」
「少なくともてめぇら魔族の手を借りて行おうとは思わねぇよ」
「くくくっ……2年前には我と同じ魔族に手を借りたのにか?」
「エーデリカの奴はその考えに一考の余地があったからな。だがてめぇはダメだ。俺たちを騙す臭いがする」
「騙すなんて人聞きが悪い。我は提案をしているだけだ。まぁ、当然我々にもメリットがあるからだけどな」
「人の弱みに付け込んでの提案か? とんだ提案だな。メリットデメリットなんか関係ねぇ。てめぇそのものが胡散臭くて信用ならねぇんだよ」
「悲しいねぇ。我ほど信用が服を着て歩いているものは居ないって言うのに」
交渉は決裂した。
黙って大人しくジンが引き下がってくれればいいんだけど。
アル君とジンの様子を固唾を飲んで見守っていると、また別の魔族が現れる。
ジンに注意を向けていたので周囲の警戒を怠っていたのは迂闊だった。
「よろしい。ならば俺たちと手を組もうじゃないか!」




