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この石には意志がある!  作者: 一狼
第3部 「神乙女」 / 第9章 収集家の集い・参集編
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Side-82.ジルベール36 -感情の強み

「……邪魔が入らないように周りに人払いの魔道具を敷いていたはずです」


「ああ、これか? ったく、相変わらず魔族の魔道具は人族の1歩先をいっているな」


 そう言いながらアル君は右手に持っていたものを掲げる。


 アル君が持っていたのは苦無で、その先には3㎝程の球体が刺さっていて煙を上げていた。


 おそらくその球体がコーデリアの言う人払いの魔道具なんだろう。


 どうやら苦無が刺さって機能を果たしていないようだ。


 そのお陰で私はアル君たちが近づいてきているのが分かったから、コーデリアの放った【カオスプロ―ジョン】から慌てることはなかったんだけど。


 アル君たちも直ぐ近くに居たみたいで、人払い魔道具が壊れた瞬間に私たちを認識し慌てて来たんだろう。


「パトリシアー、シローの回復をお願いー。【混沌魔法】は【聖魔法】じゃなきゃ治せないみたいなのー」


「分かりました。【セイクリッドハート】!」


 パトリシアの【聖魔法】の治癒を受けて、意識が混濁していたシローが正気を取り戻した。


「うぁ……? オイラは」


「良かったー。シローはコーデリアの【混沌魔法】を受けていたんだよー」


 私の言葉にシローはコーデリアと相対していたことを思い出し、慌てて落としていた剣を探しながらコーデリアを見据える。


「パトリシアー、よく【混沌魔法】に【光魔法】が効くって分かったねー」


「勘……でしょうか? あの魔法からは光と相対する属性を感じましたので」


 うーん、流石は聖女。


 初見でありながら悪しき?力に反応したと言ったところかな。


「さぁて、けったいな魔法を使うみたいだが、どうやら効かないみたいだぜ。どこのどいつか知らねぇが、大人しくお縄になった方がいいんじゃねぇか?」


「アル君アル君ー。その娘、魔王四天王だよー」


「なぬっ!?」


 私の指摘にアル君はコーデリアを思わず二度見する。


「へぇ……だったら尚更逃がせねぇな。と言うかお縄に付けなんて温いことは言えねぇな。ここできっちり討伐させてもらうぜ」


 アル君は流聖剣アクセレーターを構えて切っ先をコーデリアに突き付ける。


「……大人しくやられるとでも? 悪あがきはさせてもらいます。

 ――【カオスショック】! 【カオスペネトレイト】! 【デフレクションカオス】!」


 抗う姿勢を見せたコーデリアだったけど、彼女の放つ【混沌魔法】は何1つ発動しなかった。


「残念ですけど、この【エンジェルラダー】が発動しているこの場には、光属性によって貴女のその【混沌魔法】は発動できませんよ」


 パトリシアの言葉に悔しさの表情を滲ませながらも、最後まで争う姿勢を見せるコーデリア。


 【混沌魔法】は使えずとも、体の変化を更に増幅させてもはや人の姿を成さず、魔獣――竜の頭部に竜・鹿の角を生やし、体は魔熊、腕はクリスタルドラゴンの鱗とファイアドラゴンの爪に炎を灯し、下半身は魔狼の脚に、背中には魔亀の甲羅のようなものに被膜と羽の2対四枚の翼を生やした姿になり、四つん這いの姿勢で私たちを威嚇する。


「さぁ、ここで仕留めさせてもらうぜ」


「待ってくれ。ここはオイラにやらせてくれ」


 アル君がコーデリアに止めを刺そうとするが、それをシローが待ったをかける。


「こいつはオイラがやらなければならない。オイラの為にもこいつの為にも」


「……ふーん、詳しい事情は分からんが、そこまで言うんだ。きっちり引導を渡してやりな」


 どこか感じるものがあったのか、アル君はあっさりと引き下がりシローへバトンを渡す。


 シローは手にした剣をもってコーデリアへ向かう。


 極限まで体を変化させたコーデリアであったけど、【エンジェルラダー】の影響か、思ったほどの威力を発揮せずに、シローとの互角の勝負を繰り広げ、最後にはシローに胸を貫かれて倒れた。


「……ごほっ、裏切者と罵ったものに止めを刺される、ですか」


「オイラが手を下すのはせめてもの情けだ。……今度生まれてくるときは、ちゃんとした魔族だといいな」


「ふふ……、魔族はもう、お断りです」


「そっか。だったら人族の方がいいか?」


「そう、ですね。そっちの方が楽しいかも、しれません」


「そりゃあ、楽しいだろうさ」


 シローは私たちを見ては楽しそうに笑う。


「……最後に、貴方の目覚めたスキルは、何なのでしょうか? 私の【混沌魔法】にも劣らない凄いスキル、なのでしょう」


「あー……、オイラのスキルは【感情】だよ。大したことのない、ただの喜怒哀楽が良く分かるだけのスキルだ」


「は、ははは……そうですか。凄いスキルを手に入れたのですね、貴方は」


 コーデリアはその言葉を最後に息を引き取った。












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