Side-81.ジルベール35 -混沌の使者
参ったわね。
コーデリアから受けた攻撃は普通の治癒方法じゃ治せないとは。
【混沌魔法】は聞いたことが無い。
こういう時はけんちゃんに聞くのが一番だね。
「(けんちゃんー、【混沌魔法】についてお願いー)」
『(識:【混沌魔法】は様々な種族を掛け合わせて生まれたクローンによって誕生した魔法。属性魔法、毒魔法、治癒魔法などの様々な魔法が混ぜ合ったことにより、混沌の異常状態を肉体や精神に与える魔法)』
むむむ、左腕の感覚が複数あるのは混沌の異常状態の所為なのね。
「(対処法はー?)」
『(処:【混沌魔法】を防ぐには【ライトシールド】や【リフレクトミラージュ】などの【光魔法】の防御魔法、【混沌魔法】を治すには【ピュリフィケーションヒール】、【セイクリッドハート】などの【聖魔法】で治癒できる)』
なるほど。
きゅーちゃんが居れば簡単なんだけどねー。
居ないものはしょうがない。
きゅーちゃん以外で今の仲間で【光魔法】と【聖魔法】が使えるのはパトリシアだね。
この騒ぎでパトリシアが駆け付けてくれればいいんだけど、今のところはその気配はない。
時間を稼げば気付いてくれると思うけど……
「そのまま絶望の中死んでいきなさい。
――【カオスショック】」
再びコーデリアは右手を翳し【混沌魔法】を放つ。
「ぐぅぅっ!?」
先ほどより激しく頭を抱えてうずくまるシロー。
あれ? 私はまた何ともない?
「……なぜ効かない? まぁいい。このまま果てろ。
――【カオティックガトリング】」
そのまま翳した右手に色とりどりのマーブル状の球体が現れる。
そしてその球体からマーブル状の弾丸が次々に放たれた。
私はとっさにふーちゃんに乗ったままシローを拾って弾丸を躱しコーデリアの背後へ回る。
左腕が動かないのでハルバードを捨ててシローを抱えなければならなかったけど。
だけど躱したと思った弾丸は、コーデリアが右手を私たちに向けて弾丸を放ち続ける。
ふーちゃんを旋回させて弾丸を回避しつつ再びコーデリアの背後に位置する。
が、ぐりんと腕を回しながら弾丸を放ち続けるコーデリア。
ちょっ!? どこまで追いかけるの!?
「(ふーちゃんー! 回避回避回避ー!)」
『任せなさい! あたしに掛かればこんなの屁でもないわ!』
次々放たれる弾丸をふーちゃんは躱して縦横無尽に駆け巡る。
「くっ、いい加減に……当たりなさい!」
あれ……? よく見ればコーデリアの右腕、振り回されてない?
あー……、おそらく自動追尾機能が備わっているんだけど、ふーちゃんのスピードに付いて来れなくて、自動に動き回る右腕に体が振り回されていると。
「(よしー、ふーちゃんー! もっと鋭角な回避機動でコーデリアを翻弄するよー)」
『了解ー! あたしのスピードに付いて来れるかな!』
コーデリアを中心に急旋回を含む高機動を見せるふーちゃん。
ゴキュッ!
あまりにも急激な機動に追いつこうとしたため、コーデリアの右腕はあり得ない方向へと曲がってしまう。
「ああああああっ!?」
よし、取り敢えずは凌いだ。
「シロー、大丈夫ー?」
「ぐぅぅ……」
かなり【混沌魔法】の影響を受けてしまったのか、シローは私との受け答えが出来ないほど憔悴していた。
どうしよう? パトリシア達がまだ来ないからシローの回復が出来ない。
「どうやら、まだ私は貴女達を舐めていたみたいですね。最早なりふり構ってられません。先ほどのような事で逃げられるとは思わない事です」
うーん……、余裕綽々で「裏切者は始末する」って来たけど、段々メッキが剥がれて来たね。
感情が芽生えちゃった事による弊害かな?
感情が無い人形のようなままだったらここまで取り乱すことは無かったんだろうね。
「【カオスプロ―ジョン】!」
白黒赤青などの色とりどりのマーブル状の炎がコーデリアを中心に撒き散らされる。
うん、このままだと混沌の炎に巻かれて身も心も押しつぶされるだろう。
けど、大丈夫。
「【エンジェルラダー】」
夜なのに、天から陽光が私たちの居る場に降り注がれる。
陽光により、私たちを押しつぶそうとしていた混沌の炎はかき消された。
「……なっ!?」
驚きをあらわにするコーデリアを余所に、私はようやく現れた2人に文句を言う。
「遅いよー」
「待たせたな、姉さん」
「申し訳ありません、ジルベール様」
私たちの元へ現れたのは待ちに待ったパトリシアとアル君だった。




