Side-75.ジルベール29 -魔大陸再び
「さて、最南端へ来たわけだが、これからどうするんだ?」
アル君は海を挟んだ向こう側の大陸を見つめ、私に聞いてくる。
ここは2年前に勇者パーティーで魔大陸に向かった時の沿岸だ。
丁度船が泊まれるような桟橋が作れる砂浜となっている。
新勇者パーティーが2度目の魔王退治で再び魔大陸に渡ることになったのだが、魔大陸へ渡る手段をどうするかと議論が上がった。
2年前なら私の【ストーンコレクター】――つまりかめちゃんで船を運んで渡ったけど、今の私にはかめちゃんが居ないからその手段が使えない。
だが、魔大陸に渡ることに関しては『収集家の集い』の面々は心配していなかった。
だから魔大陸に渡ること――船に関しては私たちに任せてもらう事で納得してもらい、現場に着いたアル君は早速どうするか聞いてきたわけだ。
「それはこうするんだよー。ララクレットお願いー」
「はいはい。任せてなのなの」
そう言い、ララクレットは【ボトルコレクター】のボトル空間からボトルシップボトルを取り出す。
ボトルに入った船は確かに作りものだけど、そこは【ボトルコレクター】の特殊能力が発揮し、海に浮かべたボトルシップは瞬く間に通常の船のサイズへと変化した。
ついでにボトルシップの入ったボトルもそのまま大きくなったけど。
ボトルシップの出現にアル君たちは唖然としていた。
「姉さんの【ストーンコレクター】も普通じゃなかったけど、これもまた普通じゃねぇな」
「……ですね。まさか船そのものを実体化させるとは思いもよりませんでした」
アル君とパトリシアは並んで海に浮かぶボトルシップを眺めている。
「ララクレットの【ボトルコレクター】はジルの【ストーンコレクター】より汎用性が高いな」
ディーノが言っているのはこのボトルシップの他にもストレージボトルの事を言っているのだろう。
私がかめちゃんを使えなくなって勇者パーティーの物資の運搬をどうするかとなっていたけど、そこはララクレットのストレージボトルが活躍した。
まぁ、名前からわかる通り、ララクレットのストレージボトルはかめちゃん同様、無限収納&時間停止能力が付いたアイテムボックスだ。
なので、今回の新勇者パーティーの物資はララクレットのストレージボトルへと仕舞っている。
後、1つのアイテムボックスに纏めて入れるのはララクレットに何かあった時に不具合が生じる為、前回同様3つほどに分けている。
アル君のアイテムボックスと馬車に設置されたアイテムボックス、ララクレットのストレージボトルに。
「船の操縦はどうするんだ?」
「それは大丈夫なのなの。あたしの思い通りに動かせるから操縦は不要なのなの」
「……そいつは便利だな」
あれ? アル君が若干呆れている?
「ついでに言えば、ボトルのまま大きくなったのは、そのボトルが外敵から守るためでもあるぜ。こう見えてちびっ子は俺らの縁の下の力持ちなんだぜ」
「何故オズがドヤ顔をするのですです?」
パッと見、ボトルシップがそのまま大きくなったので、外敵はそのボトルに阻まれて中にまでは入ってこれないのだ。
しかも外敵どころか、海の嵐すらもボトルの中の船には影響がないときている。
ボトルシップだから暴風にも影響せず、ボトルの中で常に水平を保つから転覆の危険性もない。
……うん、私もよく規格外だと言われるけど、ララクレットのボトルシップボトルも規格外だよね。ボトルシップボトルだけじゃないけど。
因みに、今この場に居る勇者パーティーの面々はアル君、パトリシア、私、アベル、オズ、ララクレット、ディーノ、リュキ、マックスの8人と1匹だけだ。
だからこそアル君は船の操縦をどうするか聞いてきたわけだ。
ララクレットの許可で私たちはボトルシップに乗り込み、魔大陸を目指す。
向かう先は2年前に上陸した場所だ。
あの時は船が上陸する場所無かったからきゅーちゃんが【土魔法】で簡易港を造ったけど、今回はララクレットのボトルシップボトルなのでそのまま沿岸に乗り付ける。
きゅーちゃんが作った簡易港は魔族に利用されるのを恐れて魔大陸に上陸した後に取り壊していたけど、2年たった今よく見てみると微かな名残が見える。
アル君はその時のことを思い出していたのか、懐かしそうに海を眺めていた。
「今度は……今度こそ勝ちましょうね」
パトリシアも同じ思いをしていたのか、アル君の隣に立ち決意を新たにアル君に声を掛けていた。
「ああ、ブラストールの兄貴やヒビキ、クーガーの為にも今度こそ魔王を倒す」
私たちは2年と言う雌伏の期間を経て再び魔大陸に上陸した。




