Side-73.ジルベール27 -連合軍の現状把握
「うむ、皆そろっているようだな」
「お、ジルじゃねぇか。久しぶりだな。それにパットとディーノも」
アル君の屋敷に訪れてきたのはハルコ軍団長と、ハルコ軍団長と同じ十二乙女騎士団の天蝎騎士団団長のスコルピオだった。
「なんでスコルピオが居るのー?」
「いちゃ悪いのかよ。つーか、あたいの今の担当地区がここなんだよ」
「ほえー、もしかして出世したー?」
「うん? 出世か? まぁ、2年前に比べたら激戦続きなのは確かだが」
と言うか、激戦続きなのは2年前に神銀都市ミスリータルを開放した時からじゃないかな? それって。
「積もる話もあるだろうが、まずは第2次勇者軍魔王討伐作戦の詳細を話し合いたい」
ハルコ軍団長の主導で、アル君たちとの魔王討伐の作戦を話し合う。
まずは現状把握と言う事で、連合軍が今置かれている状況をハルコ軍団長が説明する。
「先日もあった通り、魔王軍との衝突は度々起きているが、都市に侵攻されるまでには至ってない。それと言うのも、現在西大陸唯一の魔族の町である港町ポートテンを重点的に監視しているからだ」
「で、その港町に一番近いこの炎鍛冶都市フレイムタンが今の連合軍の最前線基地って訳だ」
ハルコ軍団長の説明にスコルピオが捕捉する。
そこへ、オズが疑問に思ったことを質問する。
「ちょっと待てよ。なんでわざわざポートテンを放っておいているんだ? 魔族の町なんざ潰しちまえばいいじゃん。今の連合軍の戦力なら可能だろ?」
「可能か不可能で言えば可能だろう。だがそれはわざとだ。敢えてポートテンを残していることで、魔族は西大陸に出軍するとすれば必然的にポートテンに集まることになる。連合軍としても見張りやすくなる」
珍しくアベルがすらすらと長文の会話をしてきた。
普段の口数の少なさを知る私とオズとララクレットはポカンとしてしまった。
その事を知らないハルコ軍団長は、アベルの説明を肯定しながら連合軍の配置状況や兵站状況などを説明する。
「彼の言う通り、敢えて魔王軍の拠点を西大陸に作らせている。これが何もない状況だと、魔王軍は西大陸のどの地点から攻めてくるか予想がつかないからな。まぁ、だからと言って各地域に戦力を置いてないわけではない」
ハルコ軍団長の説明によれば、西大陸の南沿岸地区の各都市や町に連合軍第1軍――通称正規軍である十二乙女騎士団をそれぞれ配置しているらしい。
最前線であるここには処女騎士団と天蝎騎士団と獅子騎士団が常駐しているとか。
獅子騎士団と言えば、確か【ゴーレムマスター】のリオが団長だったはず。
おそらくマックスの親フェンリルから譲り受けた神兵の〝星の金貨″を従えているから戦力として最前線に配置されているんだろう。
「なるほどね。その気になれば魔王軍の拠点の1つや2つは簡単に潰せるって訳か」
「いや、そう簡単にはいかないんだよ。何せ港町ポートテンには新たな魔王四天王の『水流』のマーマーが居るからな」
「げっ、それマジか? アイアンメイデン」
オズのアイアンメイデン呼ばわりにハルコ軍団長がギロリと睨みつけるが、オズはどこ吹く風で、新四天王に意識を向けていた。
「新しい魔王四天王は強いのでしょうか?」
「何とも言えないね。あたい達は直で戦ったことが無いからどれくらいの脅威かは判断が付かねぇ。ただ、聞いた話によれば、『水流』は集団戦に長けた戦いをするらしいぜ」
パトリシアの質問にスコルピオが答える。
「アルベルト殿は一度手を合わせたらしいが……」
「そうなのー? アル君ー」
ハルコ軍団長がアル君に目を向けるが、アル君は腕を組んで少し言い淀む。
「手を合わせたと言うより、はぐらかされたって言った方がいいのか? 俺が奴と戦場で会ったのは、連合軍が奇襲を受けている報を受けて助っ人に向かった時なんだ」
アル君曰く、先日みたいに連合軍と魔王軍がぶつかっているときに、背後からマーマーによる奇襲を受けたらしい。
その知らせを聞いたアル君は直ぐに単独で救助に向かったんだけど、マーマーはアル君が来たと同時に直ぐに撤退していったとか。
ただその際に、アル君を足止めする役をマーマーが担い、まともに戦うことなくアル君の攻撃をいなすことに集中していたのでちゃんとした実力は今のところ未知数っぽい。
「まぁ、そんなわけで、今のところ港町ポートテンを襲い、西大陸から魔族を追い払うことはない現状だ」
「ま、魔王が居なくなればその限りではないけどな」
魔王と言う旗頭がなくなった魔族は、勢いがなくなるみたいだしね。
ハルコ軍団長とスコルピオの説明で港町ポートテンの状況は分かったし、続けて説明される連合軍の戦力や武具や消耗品の備品状況も知れた。
連合軍の状況は大体わかったけど、肝心の魔王軍の状況はどうなんだろ?
「魔王軍かー。今の魔王軍はちょっとわけわかんない状況らしいんだよな」
アル君は頭を掻きながら困った表情でそう答える。
ハルコ軍団長も渋い顔をしながらアル君の言に追従する。




