028.韋駄天
冒険者ギルドの宿泊施設に一泊して翌朝。
ジルは朝一番に依頼ボード向かう。
「(わぁー、昨日と違っていっぱいあるねー)」
『ああ、ミニィさんの助言に従って稼げそうなのを選ぶぞ!』
張り出された幾つもの依頼を見ていくと、一際目を引く依頼があった。
その依頼内容は、コカトリスの卵の採取。
報酬は大銀貨2枚とかなり割高だ。
おまけに討伐依頼は無いが、コカトリスの素材もかなり高額で引き取られるので1つで2つ美味しい依頼とも言える。
だが、俺達は1つ大事な事を見落としていた……
「(C級の依頼だってー。どうしよー)」
『ジルはこの間冒険者になったばっかだからE級なんだよな。受けれる依頼は一つ上のDまで。って、これ受けられねーじゃん! ぐぁ~~! 冒険者ランクを考慮し忘れてた!』
冒険者ギルドでは生存率を上げる為、無茶な依頼を受けない様にと適正ランクの1つ上までしか依頼を受けれない様になっている。
別に実力を備えていれば適正ランク外のモンスターも狩ってもいいのだが、金になるのはモンスターの素材のみで何のために冒険者登録をしたのか意味が無くなってしまう。
おまけに、実力を備えていても適正ランク外のモンスターと戦った事により冒険者ギルドから厳重注意を受けることになるだろう。
『くそ、仕方がない。適正ランクの一つ上、D級の依頼を捜そう』
「(うんー、でも、あまりいいの無いよー?)」
そうなんだよなぁ。
D級は一般的に一人前になったランクと言える。
だが、あくまでE級の初心者を脱したと言うことでそれ程強力なモンスターを狩る依頼は無い。
D級で受けれるのは四つ手熊やスタンプボア、ちょっと変わったところでビックポイズントードなどの討伐依頼があるが、報酬の方は大体銀貨1枚~大銅貨5枚くらいだ。
まぁ、銀貨1枚でも今のジルには大金なのだが、渡航費用と時間を考えるとなぁ……
そうジルと2人で依頼ボード前で悩んでいると、声を掛けられた。
「へぇ、コカトリスの卵か。結構な大物狙いだな、お嬢ちゃん」
「あ、昨日のおにーさん」
そう、声を掛けて来たのは昨日のテンプレ3人組から助けてもらったイケメンだった。
「よ、また会ったな。それでどうしたんだ? 俺の見立てじゃお嬢ちゃんにはそれ程難しい依頼じゃないと思うが?」
「うんー、これ受けたいんだけどー、冒険者ランクが足りないのー」
ジルはまだ冒険者登録をしたばかりでE級だと告げる。
「あー、そっかー。幾ら実力があっても冒険者になったばかりじゃなぁ。よし、だったら俺とパーティーを組んでみるか? そうすればこの依頼は受けれるぜ。俺はB級だからな」
一応、冒険者ギルドの規則では、パーティーを組めばその中で一番高い人のランクまで依頼を受けることが出来る。
まぁ、高ランクに寄生する輩や、低ランクを奴隷扱いするパーティー、パワーレベリングする為に高レベルの冒険者を集めたりする貴族などが居たりするから、大抵はほぼ同ランク同士でパーティーを組むのが普通だ。
そう言った事を考えれば、このイケメンは何か裏がありそうなのだが……
「(きゅーちゃんー、どうするー?)」
昨日はテンプレ3人組から守ってくれたし、悪い奴じゃない……と思う。
『ジル、これから俺が言う事を聞いてみてくれ』
俺はこのイケメンの真意を探るべく、ジルに2・3個ほど質問させる。
「私とパーティー組んでもおにーさんの方に何もメリットは無いよー?」
「困っているレディを助けるのはナイト役目だろ?」
「私に何か悪いことしようと考えてるー?」
「直球だな! むしろ逆だな。お嬢ちゃんを守る為でもあるんだぜ」
「私、守られるほど弱くないよー」
「確かにお嬢ちゃんは強いだろうけど、まだ子供だろ。子供を守るのは大人の役目なんだよ」
うーむ、このイケメン、一つも嘘を言ってないな。
嘘感知の魔法【センスライ】を使ってジルに質問をしてみたんだが、反応は全くなかったのだ。
何か裏がありそうな気はするが、ジルの為の行動だと言うのは信じられそうだ。
となれば、後はイケメンの実力だが……ソロ冒険者でB級。文句のつけようもない実力者だ。
ただ……ジルの【ストーンコレクター】によるお気に入りはかなり秘匿性が高い能力ばかりだ。
まぁ、悔しいが良い奴っぽいからジルのスキルの秘匿を頼んでも信用は出来るだろう。
問題は、ふーちゃんの移動速度についてこれないと言う事だ。
ふーちゃんは1人乗り。
どう考えてもこのイケメンは置いてけぼりになってしまう。
あ、待てよ。そう言えばこのイケメン、確かスキルが……
俺はもう一度、このイケメンに【鑑定】を使う。
名前:マックス
種族:ヒューマン
状態:超健康
二つ名:韋駄天
スキル:韋駄天Lv2
冒険者ランク:B
備考:最速のソロ冒険者
【韋駄天】スキル。これは高速移動できるスキルだ。
ははっ、何だよ。ジルにおあつらえ向きな冒険者じゃないか。
もしかしてこれも何かの天命なのかもしれない。
『ジル、この男とパーティーを組もう』
「(分かったー)」
「お、俺とパーティーを組むのを考えてくれた?」
「うんー、よろしくねー。昨日も言ったけど、西大陸に行くのにお金いっぱい必要だから協力してねー」
「おう、任せておきな。俺に掛かればあっという間に稼がせてやるぜ」
ジルとイケメン――マックスはパーティーの結成を期して互いに握手をする。




