Side-67.ジルベール21 -親愛なる黒姫
『親愛なる黒姫』。
プラチナナイト帝国近辺を根城とする情報屋。
なんでも100年以上も前から生きているらしく、当時のプラチナナイト帝国に大きく関わっていて単なる一情報屋の枠を超えている存在。
その為、代々の皇帝と顔見知りらしく、と言うか、その情報力をもって帝国に協力しており、彼女には逆らえない帝国の裏の支配者と言う噂も。
そして100年も生きていることから情報屋としての実力も凄まじいらしく、帝国内で知らないことが無く、裏表どの組織にも影響力があり支配していない組織の数は皆無と言われている。
現在ではほとんど表立って人前に姿を現すことはなく、その姿を見た者はほんの数人だとか。
帝国を支配する影響力、表立って顔を見せない、100年以上を生ける伝説など、そんな彼女の本名を知るものは居らず、親しみと畏怖を込めて『親愛なる黒姫』と呼ばれている。
と言うのが、商人ネットワークから仕入れたオズから聞いた黒姫おばーちゃんの噂話なんだけど……
「黒姫おばーちゃんがクローディアってどういうことー?」
「うふふ、ジルベールさんに驚いていただいたのなら、名前を明かした甲斐がありましたね」
黒姫おばーちゃんことクローディアは、年老いたにも拘らずかつて私たちと旅をしたように上品に笑う。
むー、様になっている。
私も年老いたらこうなりたいなぁ。
「発言よろしいでしょうか。黒姫様のお名前がクローディアとはどういう事でしょうか? 確かクローディアと言えば、2年前の勇者パーティーの諜報員として参加していたと記憶していますが」
総司令官が少々クローディアに遠慮しながら言葉を発する。
今、私たちが居るのは皇城の一室だ。
流石にあの場所で話の続きをするわけにはいかず、総司令官が密談をするための部屋へと連れ立った訳だ。
ただでさえ、人前に出ないはずの『親愛なる黒姫』が現れただけでなく、更には本名を明かして(別に本人は秘密にしていたわけじゃないらしいけど)一時プチパニック状態に陥ってしまったから。
総司令官はその場にいた者に箝口令を敷いて、クローディアの本名を広めないようにした。
で、主要人物である私と私のパーティーであるアベル、オズ、ララクレット、マックス。あと総司令官――この場合は皇帝と言った方がいいかな?――、参謀のジャン・ジ・メイトの2人が部屋に集められて、クローディアの詳細が語られる。
「そうですね、まずは2年前にわたくしが紅蓮のルールーと相打ちになったのはご存じでしょうか?」
「うんー、フレイド達に聞いているよー。なんでもクーガーが作ってあった時空波紋を発生する魔道具でルールーを道ずれにしたってー」
「連合軍側でもそのように報告を受けております」
「クーガーさんはジョージョーの起こす時空波紋を居たく気にしてたらしく、その魔道具を造ろうとしていました。ですが完成するまでには至らず、その為自爆用の魔道具となっていたのです。後方支援部隊ではルールーを倒せないと判断し、その自爆用魔道具でルールーを道ずれにしました」
当時の勇者パーティーの活躍を詳しく知らないアベルたちは興味津々に私たちの話を聞いていた。
そこでオズが気が付いたようにアッと声を上げる。
「そうか、魔道具が原因か」
「どいう事ー?」
「いや、なんで巨乳が分からないんだよ。かつて自分も時空波紋に巻き込まれた口だろう」
オズにそう指摘され漸く気が付いた。
そうか、私の場合は時間移動は無しで場所移動だったけど(飛ばされた場所も場所だったけど)、クローディアの場合は時間移動も加わった訳だ。
「そうですね。オズさんの言う通り私は過去に飛ばされたのです。最初は600年ほど前に」
「600年……」
「600年前と言えば、帝国の前身であるパラディウム帝国の建国時期だが……まさか!?」
「え!? この人パラディウム帝国の建国にもかかわっていたのですです!?」
流石にこれには私たちだけでなく、皇帝も参謀のジャンも口を開けてあんぐりしていた。
「まぁ、わたくしがルールー達と時空を跳んだ所為でその当時の幾つかの王国が滅ぶ原因になった訳です」
ルールーとデッド、エンドを道ずれにした所為で、唐突に魔族が600年前の西大陸に出現した訳だ。
そこからいろんな騒動があって、クローディアもルールー達との戦闘、各王国の王族たちとの共闘、幾つもの物語を経てパラディウム帝国の建国となったらしい。
「恥ずかしいお話ですが、そのお陰で初代パラディウム皇帝に嫁ぐことになったのですよ?」
え? それって、パラディウム皇后って事!?
「ええええええええええええっーーーーーーーーーーーーーーー!!!?」
いきなりのクローディアの爆弾発言に一同は驚愕の大声を上げる。
と言うか、驚かない方が無理だよ!




