Side-49.ジルベール3 -収集家の集い1
「もぐもぐ、それで今日は大河の大スライム退治でいいんだな?」
朝ご飯を食べながらオズが尋ねてくる。
「うんー、わざわざ大河を下って遠回りするより、スライム退治の方が早いからねー」
「問題は、その大スライムが倒せるかなのなの」
「それは大丈夫ー。けんちゃんー、大河の大スライムは倒せるよねー?」
私はキューちゃんの代わりに首に掛けている賢者の石のけんちゃんに聞く。
『是:大スライム、正式名称・グランスライム。全長10m以上のスライムの名称。スライム特有の物理衝撃緩和、酸性攻撃などが挙げられるが、体積を上回る衝撃や火属性による攻撃は有効。弱点は、通常のスライムに無い中心にある核を破壊すれば倒すことが出来る』
けんちゃんは、お気に入りの皆が(ふーちゃんを除く)が居なくなってから新たに手に入れたお気に入りの十番目。
皆を取り戻すために新たな力が必要だったため、有名な錬金術師に作ってもらったのがけんちゃんだ。
賢者の石は、本来なら卑金属を貴金属に変えたり、不老不死をもたらす存在の石だけど、それはあくまで伝説で、錬金術において術式増幅器として扱われている石だったりする。
私もお気に入りの皆が居ない状態で、戦う術がないから何かしらの手段を求めて見つけたのが賢者の石だ。
尤も、【ストーンコレクター】のスキル持ちとしては石と名が付くものを求めたのは当然だったりする。
で、流石に1人では作れないと1年ほど材料集めなどから協力して賢者の石を造ってもらった訳だけど、私がコレクション――それもお気に入りに加えたら、みんなの様に話すようになったのだ。
けんちゃんの本来の能力――術式増幅に加え、賢者と名がつくことからこの世のあらゆる事柄を知ることが出来る知識の石として覚醒したみたい。
ただし、大スライム――グランスライムの説明をしたように、どうも事務的な会話しかしないみたい。
しないというか、出来ないというか、そういう性格?だからかな。
ふーちゃんなんかは会話のキャッチボールが出来ないから『つまんない奴』と言って、あまりけんちゃんとは話したがらない。
私も、きゅーちゃんの様にもっと気安く話してほしいんだけど、贅沢な悩みなんだろうか。
こうしてけんちゃんを見ると、きゅーちゃんはいろんなことを教えてくれる存在でもあったけど、父親のような兄のような頼れる存在だったんだね。
因みに、けんちゃんの声は私だけじゃなく皆にも聞こえるようになっている。
「ふむふむ、てーことは、俺の出番って訳だな! 早速手に入れたメダルが役に立ちそうだ」
「どんな力を持っているか分かったのですです?」
「まぁな! 伊達に毎晩遅くまで文献をあさってたわけじゃないよ」
オズのスキルは【メダルコレクター】。
普通であれば収集系はただ集めるだけのスキルと言われていたけど、私を筆頭に、集めるだけのスキルじゃないと言われ始めている。
オズの【メダルコレクター】も類に漏れず、集めたメダルから力を引き出すことが出来る能力を兼ね備えていた。
そのメダルにまつわる歴史から力を引き出し様々な特殊能力を使うことが出来るのだ。
『オズだけじゃないよ! 僕も居るからスライム如きに負けないよ!』
「うんー、マックスも当てにしているよー」
「それじゃあ、早速行きますなのなの。早いとこ大河の向こうに渡らないと、何時まで経っても目的を果たせないですです」
ララクレットが皆の朝食を食べた後の食器を片付けて、早速スライム退治に行くように促す。
私たちは準備を終えて家から出て、さらにもう一つの出口へと向かう。
家の周りには円柱状の透明な壁に囲まれており、円柱の先には一回り小さな円柱状の出口がある。
全員がもう1つの出口から出た後、ララクレットは透明な壁に囲まれた家をもとの姿に戻す。
ララクレットの手には、中に精巧な家がある透明なボトルがあった。
彼女スキルは【ボトルコレクター】。
ボトルを集めることに長けたスキルだ。
そして私の【ストーンコレクター】と同じく、集めたボトルにそれぞれ付加能力を与えることが出来るスキルでもある。
例えば、ヒールポーションが入っていたボトルにただ水を入れたとしても、その水はヒールポーションと同じ効果を持つボトルになるのだ。
他にもキュアポイズンの効果を持つボトルや、気配察知の効果を持つボトル、鷹の目の効果を持つボトルなど汎用性があるボトルを持つことのできるスキルだ。
特に今目の前で展開していた、ボトルハウスボトルは野外活動をする冒険者にとっては垂涎の効果を持つボトルだったりする。
ボトルシップと言って、空き瓶の中に精巧な船を造る工芸品があるけど、ボトルハウスはその家版だ。
で、ララクレットのスキルに掛かれば、ボトルハウスは実際に住むことが出来る家へと変わるのだ。
おまけにボトルそのものがバリアの効果を発揮し、外敵を寄せ付けないというおまけ付き。
中への出入りはララクレットの許可が無ければ出来ないからセキュリティも万全だ。
【ボトルコレクター】はそれほど戦闘能力は高くはないけど、パーティーには欠かせない存在でもある。
「敵だ」
アベルが周囲を見渡して、自分の収納空間から剣を取り出す。
どうやら展開中のボトルハウスを警戒して、モンスターが取り囲んでいたようだ。
アベルはそれに気が付き、自分のスキルである【ソードコレクター】から剣を取り出したのだ。
アベルの【ソードコレクター】は私やララクレットの様に、剣に付加能力を与えるわけでもなく、オズの様にその剣にまつわる歴史から力を引き出すようなものではない。
【ソードコレクター】のただ1つの能力は、どんな剣でもアベルは扱うことが出来るという点だけだ。
そう、例え呪われた剣だろうと、勇者しか扱えない聖剣であろうと。
多分だけど、アベルならアル君の流聖剣アクセレーターをコレクションすれば、その能力を全開することが出来るんだろう。
単純だけどその分強力な力を発揮するスキルでもある。
だからこそ、アベルは剣を扱うために【剣】スキル無しで剣術を学び、地道に力を付けてS級冒険者にまで上り詰めたのだ。
アベルはあっという間に私たちを取り囲んでいたフォレストウルフを切り捨てる。
「お疲れですです」
「大したことない」
「いえいえ、それでもありがとうなのですです」
アベルはララクレットの労いに若干照れ隠しでぼそぼそと答える。
うむうむ、前よりはアベルも答えてくれるようになったね。
いい傾向だ。
もうお気づきだろう。
そう、このパーティー全員は収集系スキルの持ち主なのだ。
パーティー名は『収集家の集い』
尖ったスキルの集まりだけど、かなり強いと自負しているよ。




