237.油断
「はぁ……はぁ……姉さん、何か手があるのか?」
「うんー。今からアル君にとびっきりの【付与魔法】を掛けるから、それで魔王に一撃入れてきてー」
ゴダーダとファイが魔王を抑え、パトリシアがそのフォローに回っている。
3人が魔王を空いていしてる間にアルベルトはジルの傍へと来て最後の一撃に備えてもらう。
流石に魔王相手に厳しかったようで、息が上がっていた。
俺はアルベルトに掛かっていた【付与魔法】を【ディスペル】する。
パトリシアによる強化がされていたが、これからかける魔法はそれ以上の強化になるから、元々の強化はかえって邪魔になるからな。
『よし、行くぜ。【アルティメットブースト】!』
「うぉっ!?」
アルベルトは突然かかった究極強化の【付与魔法】に驚きの声を上げる。
「アル君ー、直ぐに動かないでねー。1分ほど体に馴染ませてからじゃないと、体に負担がかかるってー」
「スゲェ……これなら、やれる! あの魔王に一撃を決められる!」
この魔法はまさに究極と言っていい強化法だ。
だったら何故今まで使ってこなかったかって?
そりゃあ、反動が大きいからだよ。
あまりの強化に体が着いてこれず、逆に使用後には体を壊してしまうからな。
あー……ドラ〇ンボールの界〇拳みたいなものだな。
限界を超えての強化だから体に来る反動が大きいのだ。
「アル君ー、その【付与魔法】の効果は3分しか持たないのー。だから後2分しか時間が無いよー」
「はっ、2分もあれば十分だ」
よし、ならばアルベルトが一撃を振るえる隙を作るぞ。
「ゴダーダー! ファイちゃんー! 避けてー!」
『行くぜ! 【リアクターブラスト】!!』
俺の放った【無魔法】による原子炉クラスのエネルギーが魔王へ襲い掛かる。
魔王は【魔王】スキルで無傷だろうが、エネルギーの奔流に飲まれ、まともに身動きがとれまい。
まぁ、威力がありすぎて謁見の間が半壊状態になってしまったが。
もともとファイの魔法攻撃でボロボロだったからいいだろ。
敵地だし。
「喰らえーーー!! 【ブレイヴストライク】!!!」
俺の放った【リアクターブラスト】と同時に魔王に迫るアルベルト。
エネルギーが晴れる前に突っ込んだため、アルベルト自身にもダメージがいっていたが、そんなことはお構いなしにアルベルトは最後の一撃を放つ。
余波によるエネルギーと粉塵が晴れつつあり、最後に立っていたのはアルベルトだった。
魔王は左肩から袈裟切りにされ、右の脇腹に抜けて上下に分断されている。
残った下半身からは血が溢れ、上半身は地に伏し完全に息の根を止めていた。
憎たらしいことに魔王は死んでも無表情のままだった。
少しくらい驚いた顔を見せやがれってんだよ。
まぁ、そんな暇がないほどの一撃だったんだろう。
「やっ……た。やったぞ……やったぞ――――――――――――!!!」
「やりました……。女神Alice様、我々は使命を果たしました」
「ははっ、凄いッス。凄いッスよ!」
「……勝った」
「アル君ー! やったねー! 流石アル君だよー!」
皆が皆、魔王を倒したことに、喜びに酔いしれていた。
そう、ジルや俺たちお気に入りですらも。
だから、油断していた。
残心が重要なのが分かっていたのに。
ズンッ
アルベルトの胸から漆黒の剣が生えていた。
「………………え?」
アルベルトの後ろには、死んだはずの魔王が立っている。
その手には漆黒の剣が握られていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! アルベルト様―――――――!!」
「アル君―――――――――――――――――――――――――――!!」
馬鹿なっ!!?
確かに魔王は死んでいたはずだ!
名前:エーデルファルカ・エーデルヴァルト
種族:魔族
状態:半不死化
スキル:魔王Lv5
二つ名:魔王
備考:歴代最強の魔王。不死の魔王。復讐の魔王
改めて【鑑定】で見てみると、文字化けしていた部分が読めるようになっていた。
…………半不死化、だと!?
不死身って事かよ!?
いや、『半』不死化ってことは完全な不死って事じゃないはずだ。
半不死化:魔王スキルを7つに分割することで不死の特性を得た状態。
スキルは魂と密接している為、スキルの分割は魂の分割に等しい。
分割されたスキルが存在している限り、本体の魂は死ぬことは無い。
全ての分割したスキルの存在がなくならない限り、本体に統合されることは無い。
半不死化をさらに【鑑定】してみると、そこで驚愕の事実が判明する。
これって、ハ〇ーポ〇ターのホー〇ラッ〇スと同じって事じゃねぇか。
いや、魔王が直ぐ復活したことからこっちの方が性能は優秀だ。
ってことは……あの魔王の周囲に漂っている光は、魔王の欠片が魔王の元に戻ろうとしている状態なのか。
確か、魔王の欠片を破壊したのは3つ。
シーザ(暴食化)
怠惰の剣(怠惰化)
エーデリカ(色欲化)
……っ!? そうか、だからエーデリカたちはジルの前から逃げたのか!
万が一にも自分の中の魔王の欠片が破壊されれば魔王の半不死化状態が解ける可能性があるから。
つまり、魔王の欠片が存在している状態で魔王に挑みかかっても勝つことはあり得ない。
アルベルト達は、最初から勝ち目のない戦いに挑んでいたことになる。




