Side-46.アルベルト9
「【ボルテックスランス】!」
「喰らうッス!」
ファイの【水魔法】とゴダーダのクリティカルダンスの大弓の一撃が魔王を襲う。
初めから効かないことは分かっている。
これは俺が攻撃をするための目暗ましと意識を散らすための攻撃だ。
だが、魔王は事も無げに2人の攻撃をいなしていた。
2つの光が魔王の周囲を漂い、それぞれの攻撃を防ぐ。
いや、防ぐというより無効化と言った方が正確か。
この光は最初から魔王の周囲に浮かんでいたが、気にしていなかった。
ただの見栄えの為の装飾の様にしか見ていなかったからだ。
だが今なら分かる。
これも【魔王】スキルだ。
【魔王】スキルの何のスキルかは分からないが、攻撃を無効化したのが何よりもの証拠。
「ちぃ、ただでさえ攻撃が通じにくいのに厄介なスキルを使いやがって。
――【トライデントエクスプロージョン】!!」
俺は2人の攻撃の合間を縫って【火魔法】を放つ。
三又の鉾の形をした炎が3つ、魔王に襲い掛かる。
そして着弾と同時に大爆発を起こした。
爆炎に紛れ背後に迫り〝アクセル″の加速を利用して【剣】スキルの突きを放つ。
「【ドラゴンファング】!」
「剣と魔法は申し分ないな。だがまだ甘い」
……魔王は3つの【マジックシールド】で【トライデントエクスプロージョン】を防ぎ、背後からの突きを背中に回した片手で指で挟んで止めていた。
おいおい、あの【トライデントエクスプロージョン】は魔法で防げるタイミングじゃなかったはずだ。
魔王がゴダーダ、ファイに魔法を放った直後にぶち当てたんだから。
おまけに【ドラゴンファング】を背後に手をまわして指で挟んで防ぐだと?
どんだけバケモンなんだよ。
しかも魔王は未だに玉座に座ったままだ。
「……む」
これまで魔王は無表情のまままるで人形の様だったが、今一瞬だけ表情が動いた。
魔王の周囲に漂う光が1つ増えたのだ。
…………? 今の表情からすると自分の意思で出した、って訳じゃないのか……?
「なるほど、面白い」
面白いんならもう少し面白い表情を見せろよ。
「【サンダーストーム】」
魔王が片手を薙ぎ払うように振るい、謁見の間に雷の嵐が巻き起こる。
俺は【シールド】を張りながら〝アクセル″を使って雷の嵐を避けまくる。
パトリシアも自分とゴダーダに【バリア】を張り、ファイも【アクアバリア】の水の膜を張って雷の嵐をやり過ごす。
「【サンダーストーム】」
って、連続かよ!
「【サンダーストーム】」
ちょ……!
「【メイルシュトローム】」
………………っ!!
「【サンドストーム】」
…………もう、言葉もねぇよ。
魔王の放った連続魔法で俺たちはあっという間に瀕死状態だ。
「……え・【エリアエクストラヒール】」
パトリシアが放った範囲高回復魔法により、俺たちは辛うじて立つことが出来るまで回復する。
彼女は【聖女】スキルの効果で余程のことが無い限り死ぬことが無い。
だから彼女が生きている限り俺たちも死ぬことは無い。
だが……
「これは、キツいっス」
「……うん」
「諦めないでください。諦めたらそこで終了です。それに、アルベルト様がまだ諦めていないのに私たちが先に諦めるわけにはいきません」
パトリシアの期待が重たいぜ。
だけど、確かに勇者たる俺が真っ先に諦めるわけにいかねぇ。
魔王に一撃を与えることが出来るのは【勇者】スキルを持つ俺だけなんだ。
そうだ、俺は勇者だ! 勇者アルベルトだ!!
そして俺の想いに応えるかのように、流聖剣アクセレーターが輝く。
「まだ立つか。主等では妾は倒せぬ」
「それはやって見なければ分からないぜ!」
俺は無謀ともとれる真正面からの防御なしの攻撃を魔王に仕掛ける。
「気が狂ったか。【ダークフレイム】」
魔王から放たれる漆黒の炎。
その炎が俺を舐めるように襲う。
……が、その炎は俺に触れるとそのまま魔王へと跳ね返り逆に魔王を襲う。
「む」
同時に俺の一閃が魔王に決まった。
漆黒の炎は魔王を玉座から弾き飛ばし、俺の一撃は魔王の体に一筋の切り傷を刻む。
ようやく、魔王に一撃を与えることが出来たぜ。
そして魔王を玉座から引きずり出すことも出来たぜ。
一呼吸遅れたように魔王の体から血が溢れる。
「【ヒール】」
傷を付けられたにもかかわらず、魔王は無表情のまま傷を癒す。
「アルベルト様、今のは……」
「ああ、聖剣の2つ目の能力だ。〝反射″が解放された」
少しは聖剣も俺を認めてくれたって事かな。
「さぁ、勝負はこれからだ。とことん付き合ってもらうぜ!!」
俺と、俺たちと魔王の長い戦いの幕開けだ。




