Side-43.フレイド2
「流石に今のは冷や冷やしたぞ」
ルールーの【メガフレア】を避けることが出来ず防がねばならなかった訳だが、ダメージ覚悟で【火魔法】スキルで迎撃しようとしたところ、馬車に設置されたバリア装置が発生して儂らを守ってくれた。
尤も、このバリア装置は未完成で範囲も強度も不十分だったはず。
儂は隣のリュキを見てはクーガーの思いの強さを知った。
死してなお惚れた女を守るなんて、男気溢れる野郎じゃないか。
「フレイド! リュキ! 逃げる準備が出来たぞ!」
「よし! 早く出せ!」
儂は迎撃で用意していた【火魔法】を放ちながら馬車へと駆け寄る。
リュキも素早く馬車に乗り込んで、それを確認したディーノは直ぐに馬車を発進させた。
この場に居ないクローディアは……心配いらないだろう。
と思ったら、彼女はとんでもないところから現れた。
「逃がすわけないでしょ!」
「ケケケ、に、逃がすか」
「おっと、それは面白くないな」
やはり儂が放った【火魔法】は足止めにもならず、ルールーやデッド、エンドが儂らを逃さまいと【風魔法】や【死霊魔法】【召喚】で反撃しようとしてきた。
だが―――
「【サイクロンバース……】って、え?」
ルールーの胸から剣――いや、刀が生えていた。
そう、ルールーの背後にクローディアが居て、彼女を攻撃していたのだ。
「このまま彼らを見逃して下さるのなら、これ以上攻撃はしません。どうしますか?」
「ふざけんじゃないわよ! 逃がすわけ―――ぐふっ!?」
「残念です」
ルールーが従わないと言った瞬間、クローディアは躊躇いもなく刀を捻り胸の傷を抉る。
と言うか、クローディアが刺した場所って、心臓だよな。
けっこうエグイことをやりおる。
あれなら【治癒魔法】でも治すに時間がかかるだろう。
「ああ、言い忘れてましたが、刀には毒が塗ってあります。毒だけでなく他にもいろいろとね。早く治すことをお勧めしますよ」
そう言いながらクローディアは胸を掻き毟る様に喘いでいるルールーを蹴飛ばし儂らの馬車の屋根へと飛び乗る。
流石【くノ一】。
ルールーたちの背後を取っただけじゃなく、攻撃にも毒なんかの別手段も用意しているとは。
「ちっ! ユニコーンオーガ! お嬢を癒せ!」
エンドが慌てて召喚したユニコーンオーガにルールーを治す様に指示を出していた。
儂らはそれらをしり目に、今のうちにとばかりに一目散に逃げだす。
「クローディア! 助かったぞ! まさか四天王が来るとは思わなかったからな」
儂は追撃を警戒して馬車の側面――正確には連結部分の間に張り付いて、屋根に乗ったクローディアに語り掛ける。
「すいません、わたくしの予測不足でした。少し考えれば魔王軍の幹部クラスが来てもおかしくなかったのです」
「それにしても、この場所が知られていたのはやはり魔王の娘――エーデリカが関係しているのでしょうか?」
同じく後方の追撃を警戒して扉を開けっぱなしにして、そこから半身を乗り出しているリュキがこの襲撃を疑問に感じていた。
確かに、ルールーは〝情報通り″って言っていたな。
やはり、エーデリカは罠だったか。
となれば、それについていったアルベルト達がちと心配だが……
「アルベルトさんたちは心配いらないでしょう。ジルベールさんや謎のジジイさんが一緒ですから。それよりも、今はこちらの心配をした方がいいでしょう」
だな。少なくともルールーを巻いたとしても、奴らに見つかった以上、逃走ルートの難易度が跳ね上がったのは間違いないし。
「尤も、刀には麻痺毒や猛毒、幻覚毒、白死病を引き起こすウイルス、接触感染する血咳病の血、後は毒の種類じゃない興奮剤から作られた媚薬を塗ってますから、そう簡単には癒せないはず。暫くは時間が稼げるでしょう」
クローディアがさらりと凄いことを言う。
えー……毒や病だけじゃなく、媚薬なんてエゲツないものを使ってたのか。
クローディア、恐ろしい娘……!
「おい! 逃走ルートはどうする!? プランCか!? それともFか!?」
馬車を操るディーノからどこへ逃げるか指示をくれと声が飛ぶ。
「そうですね。それではこのまま進んでプランFを―――っ避けてください!」
クローディアがはっと気が付いたように後方を見て叫ぶ。
もの凄い勢いで熱閃が向かって来ていた。
「避けろと言われても、こんな道じゃぁ――くそったれ!」
今馬車が走っている場所は、森の中。
つまり、もともとこの森には馬車が通るような道などなく、アルベルト達が城壁都市アイファサに近づくために作った簡易道なのだ。
なので、1本道であるこの通りには避けるという行動は出来ない。普通であれば。
流石勇者パーティーに選ばれたメンバーと言う事なのだろう。
ディーノは巧みに馬車を操り二連結と言う馬車にもかかわらず、木々の間を縫うようにして簡易道を外れ後方からくる攻撃を躱す。
ズガンッ!!
だがディーノの腕をもってしても2台目の馬車まで躱すことは出来ず、後方から来た熱閃がバリアに接触する。
「何かに捕まれぇぇぇっ!!」
ただでさえ森の中を走破するという無茶を強いられた馬車は、この逃走劇の間にダメージが蓄積していた。
そして止めの熱閃による攻撃。
車輪が外れ、2台目の馬車が転がり落ちる。
それに引きずられる様に1台目の馬車もひっくり返った。
儂は馬車から飛ばされながら破損した馬車を見る。
これまでは儂とクーガーが、と言うか主にクーガーが馬車の整備をしていたが、クーガーが居なくなったことで馬車に限界が来ていたのだ。
もし、まだクーガーが生きていたのなら馬車は何とか踏ん張れていたのではないか?
そう思えば、クーガーは戦闘では力になれてなかったが、縁の下の力と言うことでまだまだ彼は必要だったのだろう。
何故死んでしまった、クーガーよ。
「気を付けてください、来ます!」
クローディアは華麗に着地、儂とリュキは転がりながら直ぐに立ち上がり、ディーノは転がったまま木にぶつかり悶えていた。
もしかしたら儂もそっちに行くかもしれん、クーガー。




