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この石には意志がある!  作者: 一狼
第8章 レフトウイング大陸・決戦編
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Side-42.リュキルシア2

 私はアルベルト様たちが向かわれたドンモアイダ山を見つめます。


 ああ、アルベルト様たちは無事に魔王城に辿り着いたのでしょうか?


 アルベルト様の武威を以て魔王を倒してしまわれたのでしょうか?


 心配は募るばかりです。


「あいつらはやってくれるよ。だからそんな心配そうな顔をするな。折角の綺麗な顔が台無しだぜ」


「フレイド様……」


 私と同じように隣に並び立ち、ドンモアイダ山を見つめるフレイド様。


「そうそう。少なくともS級冒険者が2人も付いて行ったんだ。あいつらなら必ず魔王を倒してくるさ。俺たちは俺たちの出来ることをしようぜ」


 馬車の御者台からディーノ様が、フレイド様と同じように心配している私を元気づけようと声を掛けてくれます。


「ええ、アルベルト様ならきっと、きっと魔王討伐を成し遂げて戻ってきます。……そうですね。アルベルト様たちが戻ってきたときに直ぐにでも撤退できるように準備をしておきましょう」


 そうです。私の今すべきことは、アルベルト様を心配することではありません。


 アルベルト様が目的を果たした時、その激闘で傷ついた体を休めながら安全に撤退するための準備をすることです。


「それにしても……クローディアは遅いな。彼女らしくない」


「もしかして……何かトラブルでも起こったか?」


 今、クローディア様は逃走ルートの安全確保の為に、見回りを行っておりこの場には居りません。


 ですが、フレイド様の言う通り、いつものクローディア様でしたらもう確認を終えて戻ってきているはずです。


「トラブル、ね。もう既に起こっているって言ったら、どうする?」


 今この場には私たち3人しかいないはずなのに、別の女性の声が聞こえました。


 クローディア様の声ではありません。


 この声には私たちは聞き覚えがあります。


「ルーシー・ルージュ。魔王四天王、紅蓮のルールー……!」


 そうです。魔王四天王の紅一点であり、魔法に長けた女性魔族です。


 両隣には、彼女の部下の逞しい者と、不健康そうな者の2人の男性魔族が居ます。


「情報通り、勇者パーティーの残りが居たね。ちゃっちゃとやっつけておじ様たちへの加勢に行くわよ」


「ケケケ、りょ、了解」


「まぁ、こいつらなら楽しめそうにもないからな。賛成だ」


 思いがけない魔王軍の襲撃に、フレイド様はバトルアックスを取り出し構えます。


 私も短剣2本を取り出し両手に構えルールー達と対峙します。


「ディーノ! 逃げるぞ! 直ぐに馬車を動かす準備をしろ!」


「まっ、待ってください! この場から逃げるのですか!? アルベルト様たちはどうするのですか! アルベルト様たちはこの場を目指して戻ってくるのですよ!?」


 あろうことか、フレイド様はアルベルト様を見捨てて逃げようとしていました。


 私は敵が目の前に居るにもかかわらず、フレイド様に両手に短剣を持ったまま食って掛かります。


「ちょっ!? おい待て、落ち着け! 逃走ルートは幾つも用意してある。勿論アルベルト達もこの場の逃走ルートが使えなくなった場合の別のルートの合流視点を知っている。と言うか、リュキも聞いていただろ」


 そ、そうでした。もしもの場合に備えて、アルベルト様たちが魔王を倒した後の逃走ルートは複数用意されております。


 わ、私としたことがアルベルト様を心配するあまり、そんな基本的なことを忘れてしまうとは。


「ふーん、やっぱり別の逃走ルートもあるんだ。まぁ、どっちでもいいけど。ここであんたらを倒せばどのみち勇者も簡単には逃げられなくなるだろうし」


 そうでした。


 今ここで私たちが倒れれば、アルベルト様が魔大陸から逃げることが出来なくなります。


「やれるものならやって見な。ワシ等はちとしぶといぞ」


 フレイド様がそう啖呵を切りますが、現状では厳しいと言わざるを得ません。


 もともと後方支援部隊で正規に戦うことが出来るのは、【くノ一】のクローディア様と、S級冒険者の謎のお爺様の2人です。


 フレイド様と私も戦闘をすることが出来ますが、フレイド様の【火魔法】スキルは料理関係に使用していたため、戦闘に関しては十分な効力を発揮するとは言えません。


 私も、メイドの嗜みとして戦闘行動も出来ますが、あくまで使える主を守るための一時しのぎの護衛としての戦闘力しかありません。


 ディーノ様に至っては特殊なスキルがありますが、戦闘に仕えたとしても防衛としてしか効果を発揮できないでしょう。


「勇者も居ないのに生意気ね。いいわ、そのしぶとさを見せてもらおうかしら?」


 そう言いながら、ルールーは呪文を唱え【火魔法】スキルの【メガフレア】を放ちます。


 狙いは、私たちの後ろにある馬車。


 私たちが避ければ馬車に、避けなければ私たちに。


 今ここで移動手段を失う訳にはいきません。


 私とフレイド様は意を決し、【メガフレア】を迎え撃ちます。


 フレイド様は【火魔法】で迎え撃とうと、ルールーと同じ【メガフレア】を唱えます。


 私はフレイド様のサポートです。


 魔力を十二分に発揮できるよう、【魔力伝達向上】【属性魔法上昇】などのバフスキルを掛けようとします。


 ですが、その前に私たちを囲むように光が包み込みました。


 それと同時にルールーの【メガフレア】が私たちを襲いました。


「あら~? もう片付いちゃったわけ~? まぁ、こんなもんかな~」


「ケケケ、て、手ごたえが無さすぎる」


「ま、いいじゃないか。簡単に片付いたんだ……って!?」


 ルールー達は油断していました。


 ルールーの放った【メガフレア】は、馬車に設置されたバリアを発生させる装置が発動し、私たちを守ったのです。


 ですが、おかしいですね?


 バリアを発生させる装置――『真円防壁』の防御範囲はそれほど広くなかったはず。


 少なくともこれまで今私たちが居る場所までは届かなかったはずです。


 それに、ルールーの【メガフレア】を防ぐほどの強度もなかったと記憶しています。












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― 新着の感想 ―
[一言] 戻らないクロさん、まさかあっち側だったのか?それとも無言の帰還に? 防御には仕掛け、あの人の置き土産かな。
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