Side-39.ヒビキ6
なりふり構わなくなったユーユーによる斬撃【覇道剣】と砲撃【覇道剣】があたしとブラストールさんを襲う。
無論、城塞都市アイファサの町中にも少なからず被害が及んでいたけど。
「【クリスタルプリズンガード】!」
あたしの前に出たブラストールさんが楯を構え、スキルを発動する。
あたしとブラストールさんを透明なクリスタルが覆い、ユーユーの砲撃【覇道剣】を防ぐ。
尤も、完全にとはいかず、暫く防いでいたが次第に罅が入り【クリスタルプリズンガード】は割れてしまう。
だけどその僅かな時間防いでくれているだけでも十分。
【クリスタルプリズンガード】が割れる瞬間、あたしは飛び出しユーユーに【刀】スキルの居合をお見舞いする。
「【桜花一文字】!」
「させません! 【フラクタルシールド】!」
とっさにユーユーが放った小さな楯の群れに、あたしの居合が防がれる。
【覇道剣】の隙を突いた反撃だったけど、やっぱり防がれてしまった。
「まさか、youたちがここまで私に対抗できるとは思っても見ませんでした。認めましょう、youは私の好敵手だと」
「唐突に何でござるか? 負けを認めるとかでござるか?」
見下されていたユーユーから、まさかの好敵手認定。
嬉しい反面、敵に認められるとは複雑な気分だ。
「それこそまさかですよ。好敵手と認めたのは、you達へ送る最後の言葉だからです。これで、本当に決着です。youたちと言う好敵手が居たことを私は忘れません」
―っ!
とうとう最後の攻撃って訳ね。
上段に剣を構えたユーユーから【覇道圏】のエネルギーが高まり始める。
「ブラストール殿、……ううん、ブラストールさん、最後まで、あたしをちゃんと守ってね? この戦いが終わったら、ちゃんと返事をするから」
「……っ、ああ。任せな。命に代えてもヒビキを守ってやるよ」
あたしも、最後の攻撃の為に力を溜める。
今のあたしの出来る最高の攻撃。
「【覇道剣・天嶮】」
上空に伸ばした剣から砲撃【覇道剣】が出るように光の柱が立ち、ユーユーはそのまま光の柱を振り下ろす。
本当に町の被害は二の次みたい。
【覇道圏】で高まったエネルギーを砲撃【覇道剣】と斬撃【覇道剣】の同時使用での攻撃だ。
あたしはそれを真正面から迎え撃つ……ように見せかける。
「【縮地・閃】」
あれから一度も成功してなかった【縮地・閃】を再び発動させて、周囲の景色がゆっくりとなる。
直前で【覇道剣・天嶮】を躱し、振り下ろされた爆発エネルギーに紛れてユーユーへと一瞬で間合いを詰める。
取ったっ!
もうこの間合いからは逃れられない!
あたしは【砲閃華・轟】のスキルを放とうと――
「――え?」
あたしの足に鎖が絡みついていた。
これは【罠魔法】の【マインボムバインド】。
地雷の様に踏み抜くことで、【バインド】の魔法を発動させるトラップだ。
この程度の鎖なら簡単に引きちぎれるが、縮地での高速の移動だったため動きが一瞬阻害された。
そしてその一瞬で十分だった、ユーユーの本当の攻撃は。
「【覇道剣・穿】
ああ、躱しきれない。
もう駄目だと、そう思った時。
あたしの目の前に彼が立ち塞がる。
だけど、これまでどんな攻撃も防いできた彼のスキルも、凄まじいエネルギーを持つはずの彼の楯もユーユーの攻撃を防ぐことは出来ず、ユーユーの剣が彼の体を貫く。
「ぐふっ……」
「ブラストールさん!!」
「いま、だ。ヒビキ……」
彼は体を剣で貫かれながらもあたしを守ろうと体を自ら楯にし、彼は剣と楯を捨てユーユーの剣を持つ手を掴み取る。
「ちぃ、離しなさい!」
ユーユーがブラストールさんから剣を抜こうと必死に振りほどこうとするが、ブラストールさんはその手を離さない。
……あ、これは、ブラストールさんの作ってくれたチャンスだ。
ここで決めなきゃ女が廃る!!
「【砲閃華・轟】!」
あたしの刀がユーユーの心臓を貫く。
「……見事、です。この私が敗れる、ですか。ふふふ、敗れたというのに気分は晴れ晴れとしています。敗れたのがyouだから、ですかね……」
ユーユーがあたしを絶賛してくれているが、今はそれどころじゃない。
「ブラストールさん!」
ユーユーの剣を体に生やしたまま、ブラストールさんは地面へ倒れる。
致命傷だ。ユーユーの剣は正確に心臓を貫いていた。
「……やった、か?」
「うん、うん、ブラストールさんのお陰で勝ったよ!」
「そう、か。そいつは良かった。……ちゃんとヒビキを守れて、良かったよ」
「うん、うん、ブラストールさんは、ちゃんと命がけであたしを守ってくれたよ。だから、だから、こんなところで死んだら嫌だよ」
「……はは、俺っち、死なねぇよ。まだ、ヒビキの答えを、ちゃんと………………」
ブラストールさんは、それっきり。
あ、ああ、あああ、ああああああああああああっ……!!
「……なる、ほど。私はyouたちの愛の力に、敗れたのですね。ふふふ、愛の力。チープな言葉ですが、死にゆく身としては…………」
ユーユーも何か言っていたけど最後には何も言わなくなったけど、今のあたしにはそれを聞いている余裕がなかった。
まだ、まだ間に合う!
パトリシアさんに観てもらえれば、助かる。生き返らせられる!
あたしはユーユーの剣を抜き、傷を塞いでブラストールさんを背負う。
早く、一刻でも早くパトリシアさんの元へ行かないと。
ズンッ!
駆け出したあたしの体を衝撃が襲う。
「………え?」
体が動かない。
まるで地面に縫い付けられたように。
……ううん。本当に地面に縫い付けられていた。
お腹から大剣が生えて、それが地面に刺さっている。
背中を見れば、背負ったブラストールさんごと大剣が付き刺さっていた。
「………あ」
遅れて口から血を吐き出す。
………何が。
「ヒャッハーー! やった、やったぜ! ユーユー様を倒した勇者の仲間を俺が倒した! これで俺も魔王軍の幹部だ! いや、ユーユー様亡き今は、俺様が新たな四天王か!?」
あたしの背後で魔族がはしゃいでいた。
どこかで見たことがあると思ったら、最初に居た門番の1人だった。
「さぁて、確実にとどめを刺しておこう。俺の四天王入りを確実にするために」
大量の血を吐いて、意識が朦朧としてきた。
こんな事をしている場合じゃないのに。
早く、ブラストールさんを、パトリシアさんの元へ、連れて、いか、な、い、と………




