231.立ち塞がる者たち4
「ごめんねぇ。わたくし、貴方達を罠に嵌めたのよぉ。申し訳ないけど、勇者ちゃん達にはここで死んでもらうわぁ」
「どういうことだ?」
突然の豹変したエーデリカに、アルベルト達は戸惑いを隠せない。
と言うか、誰だ? こいつ。
いや、エーデリカなのは間違いない。
なのに、目の前にいるエーデリカはまるで別人だ。
もしかして、途中で入れ替わったんじゃないかと言うくらい雰囲気や仕草が違うからだ。
姿かたちはまるっきり同じなのに、さっきまでのエーデリカはギャルだとすれば、今のエーデリカはお姉さんと言っていい。
勿論、エロい意味で。
俺は入れ替わりの可能性もあって、もう一度【鑑定】を掛けてみる。
名前:エーデリカ・エーデルヴァルト
種族:魔族
状態:色欲化(魔王の欠片)
スキル:娼婦Lv99
二つ名:性女
備考:魔王の娘
むむ、目の前の女がエーデリカなのは間違いない。
……って、ええええっ!?
ちょっ!? 状態が違う!?
色欲化!?
最初視た時はは嫉妬化だったはず。
うぉっ!? スキルも二つ名も変わってる!?
どうなってんだ、こりゃあ!?
まさかの【鑑定】結果の違いに戸惑っていた俺だが、そこである可能性に気が付く。
そこで改めてもう一度、深く【鑑定】を掛ける。
名前:エーデリカ・エーデルヴァルト[色欲Ver]
種族:魔族
状態:色欲化(魔王の欠片)[嫉妬化(魔王の欠片)]
スキル:娼婦Lv99[剣士Lv91]
二つ名:性女[閃光]
備考:魔王の娘、二重人格
やっぱり……!
エーデリカは二重人格だ。
それぞれの人格に魔王の欠片が与えられているって……
2つの魔王の欠片を与えられたから二重人格になったのか、もともと二重人格だから魔王の欠片が2つあるのか。
どちらかは分からないが、二重人格の特性を利用されてまんまと俺たちは罠に嵌った訳だ。
「二重人格ー? それでさっきと雰囲気が違うんだねー」
ジルにエーデリカの正体を伝えると、流石のジルも驚いていた。
「あらぁ、良く分かったわねぇ。流石はS級冒険者ってところかしらぁ」
エーデリカは体をくねらせながらジルを褒めてくる。
「魔王――母親を止めたいという気持ちは私たちを罠に嵌めるための嘘だったんですか?」
策に嵌った事の悔しさがあるのだろうが、それ以上にパトリシアは母親を止めたいと思う気持ちを利用されたことに怒りが向いているようだ。
「いいえぇ、あの子のその気持ちは本物よぉ。ただねぇ、あの子はわたくしの存在を知らないのよぉ。自分が二重人格だということも知らないしぃ、お母様を止めるのも四天王が協力してくれているって思っているのよぉ。特にジョージョーなんかが一番の協力者だと思ってるんじゃないのぉ?」
「そういう事だ。上手くもう1人のエーデリカを利用して、魔王様の欠片の能力であんたらが近くまで来ているのが分かったからな。だからこうして万全の準備を整えて誘い出させてもらった」
「もう1人のエーデリカの能力ー?」
「魔王様の欠片を所持している者の場所が分かる能力だよ」
魔王の欠片所持者が居る場所が分かる能力か。
この場合は、マックスが目印になってた訳か。
にしても……もう1人のエーデリカは何も知らないのか。
自分が二重人格であることも、四天王が自分を利用していることも。
少なくとも、もう1人のエーデリカはアルベルト達を騙したわけじゃなかったんだな。
「さて、残念だがここで勇者パーティーは終演だ」
「魔王の欠片持ち2人相手に敵うとは思わない事ねぇ」
ネタバラシは終わりだと、ジョージョーと色欲エーデリカは戦闘態勢に入る。
「……罠の割には杜撰」
そんな時、ファイがポツリと呟く。
「……何だって?」
聞き捨てならないのか、ジョージョーが思わず聞き返す。
「……来るって分かっているのに、四天王と言う戦力を小出しにするなんて大した罠じゃない」
「言われてみれば、そうッスね。来るって分かっているんだったら、四天王総戦力で俺らを倒しに来ればいいのに」
まぁ、そうなんだよな。
戦力の随時投入は被害の拡大に繋がりやすいし。
だが、ジョージョーの視点は違うところを見ていたみたいだ。
「分かってないなぁ! 決戦には四天王が1人ずつ相手するのは定石じゃないか。そして芸術的でもあるんだよ! 1人ずつ立ち塞がることによって、次々仲間を失い絶望していくその様を見たいんだよ!」
なるほど。前世が日本人らしい発想だな。
確かにクライマックスで1人ずつ四天王とかが襲い掛かるのは〝お約束″だからな。
それだと、実際にはこっち側が有利なように見える。
さっき言ったように戦力の随時投入は各個撃破しやすい。
だが、見方を変えると、強大な敵が次々襲い掛かってくるという点では恐れを抱くのには十分だ。
しかも、狙ってやったのかは知らないが、こっちは仲間に任せて置いてきている。
これで仲間が倒れたりしていれば、精神的ダメージも与えられるし。
まぁ、これも〝あるある″だがな。
「1人ずつ当たるのはぁ、貴方達を倒せるだけの戦力があるからよぉ。尤もぉ、ここでは2人掛かりになっちゃうけどねぇ」
「寧ろそっち側に有利なんだ。まさか怖気づいたってことは無いよな?」
「あ“? そんなわけねぇだろ! お望み通り、ここでてめぇの相手をしてやるよ!」
分かりやすい挑発に乗るアルベルト。
まぁ、これまでとは違い、2人の魔王の欠片持ちが居るからここでその挑発に乗ってもいいんだが……
『待って待って! ここはボクがこいつらの相手になるから、アルベルトは魔王のところへ向かって!』
魔王の欠片には魔王の欠片だと言う事で、ここはマックスが名乗りを上げた。




