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この石には意志がある!  作者: 一狼
第2章 勇者・召喚編
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024.転移迷宮の謎

 転移迷宮が処刑用の迷宮か……


 確かに転移トラップで地下深くの迷宮に送り込んでしまえば、あとは強力なモンスターが始末してくれるから処刑用としては有用されるだろうな。


 だが、ここで1つ問題点が出てくる。


 それはジルも思ったらしく、クォンにその問題点を突く。


「でも処刑用だと、出口の転移魔法陣があるのは可笑しいのー」


「確かにな。処刑用なら出て来れない様に出口なんてない方がいいからな。だから俺は元々出口なんか無く、入り口用の転移トラップしかなかったと考える。だがその無数の転移トラップが出口を作ることになったんだと思う」


「どういうことー?」


「さっきも言ったように、この転移迷宮は時空が歪んでいる。その原因が無数の転移トラップが集中している為だと考える。その結果、集まりすぎた時空の歪みは外へ出て行こうと出口用の転移魔法陣が出来たんだと思う」


 なるほどな。


 おそらくそれ以外にも出口が出来た要因があるんだろう。


 例えば、転移トラップで送り込まれた空気や物質。これらが転移迷宮に蓄積していけばいずれ許容限界量が超えるのは見えている。


 それを防ぐために自ずと出口用の転移魔法陣が出来たのだろう。


「とは言っても、まぁ、たった4つの出口用の転移魔法陣しかないわけだが。しかも使用すれば転移魔法陣は別の場所に設置されるし、使用しなくても一定期間が過ぎれば自動的に設置場所が変わるときたもんだ」


 世界中に散らばる無数の入り口用の転移トラップに対し、出口用の転移魔法陣が4つか。


 多いのか少ないのか。


「今は1つ出口用の転移魔法陣が判明しているから、お嬢ちゃんにはそいつを使ってもらう」


「んー? でもいいのー? 私がその転移魔法陣を使ったら、おじさん出れなくなるよー?」


「はっはっは、こんなおじさんを心配してくれるのか。やさしいねぇ。言ったろ、『今は』って。俺は研究者だぜ。当然出口用の転移魔法陣については真っ先に研究したさ。出現パターンに出現位置。ほぼ網羅しているぜ。だからお嬢ちゃんは心配する必要はないよ。それにこれはミノタウロスの肉の対価だからな」


 まぁ、そりゃあそうだよな。


 研究の為に迷宮に入って出れませんでしたじゃ話にならないからな。


 出口を確保しているのは当然だ。


「さてと、ここが俺の研究室だ。ちょっとまってな、今現在の出口用の転移魔法陣が書かれたメモを……」


 クォンは迷宮の一室を研究室に使用しており、部屋の中はあちこちに書類塗れであった。


「ふぁー、凄い研究の量だねー」


「はっはっは、凄いだろう。俺の長年の研究の成果だよ。この書類1つ取っても外では一財産にはなるぜ」


「お金には興味ないよー。今は出口が先ー」


『いやいやいや。確かに今は出口が先だけど、お金も大事だよ』


「(そうー? お金はその気になれば直ぐに稼げると思うけどー。冒険者にもなったし、ギルドで討伐依頼を受ければ直ぐだよー?)」


『ギルドでの討伐依頼は命懸けだろ。普通はそう簡単にはいかないもんだよ』


「(ふーんー、そうなのー?)」


 うーむ、幼いながらに強くなり過ぎた弊害か?


 お金を稼ぐことの大変さが分かってないぞ。


 あ、いや。聡いジルの事だ。分かった上での発言か?


 俺の疑問を余所に、クォンはジルが出口を急ぐことに少し疑問を抱いたようだ。


「そう言えば、さっきから転移迷宮の外に出ることを急いでいるようだな。何かあったのか? いや、そう言えばお嬢ちゃんは何処の転移トラップからこの迷宮に来たんだ?」


「話してもいいけど、出口に向かいながらでもいいー?」


「了解。出口の転移魔法陣は1階だ。着くまで少し時間が掛かるから道中に話してくれればいいぜ」


 メモを見つけたクォンは再びジルを引きつれ目的地の出口用の転移魔法陣に向かう。


 そしてその道中でジルはこの転移迷宮へ飛ばされた経緯を語る。


「あ~~~、アリスティラ大神殿の転移トラップからの転移か~~~。厄介なのに目を付けられたな、お嬢ちゃん」


「厄介なのって、あのおばーちゃん枢機卿のことー?」


「ああ、ありゃあAlice神教の闇の一部だ。腐敗と言い換えてもいい。組織が大きくなり過ぎる弊害だな。組織が大きくなると派閥が出来る。Alice神教には強権派と穏健派があるんだよ」


 クォンの話によれば、世界中に発言権を持つが故に権力に奢れ己の欲を満たすために権力を振るう強権派と女神Aliceの教えを愚直に推奨すし争いを好まない穏健派の2つに分れていると言う。


 尤も、穏健派の数は強権派に比べ遥かに少ないとみたいだが。


 そもそも王都教会はほぼ強権派の巣窟で、地方教会も大半が強権派と言うことを考えれば穏健派の数もたかが知れている。


 で、あのクソババァは強権派の一角で、勇者を担当する権利を得ていると言う。


 その勇者担当の権利を振るい己の欲を凝らしている典型的な権力者らしい。


「あのババァはもう何年も枢機卿の地位についているし、お嬢ちゃんの話だと勇者が見つかったとなればあのババァに逆らえる者はほぼいないだろうな」


「むー、そんな人にアル君が連れて行かれたのー? アル君が心配ー」


「お嬢ちゃんの心配は確かだぜ。下手をすれば勇者はあのババァに使い潰されるだろうな」


「そんな事はさせないもんー!」


「にしても……まさか真正面からあのババァに食って掛かるとは……くくく、いいぜ。俺も陰ながら力を貸してやるよ」


「おじさんも教会と何かあったのー?」


「昔ちょっと、な」


 そう言いながらクォンは1階層の主――ゴブリン・キングをワンパンチで倒して出口用の転移魔法陣を目指していく。


 って、強いな! まさかのワンパンとは。


 クォンのスキルは【研究者】なのは間違いない。


 【研究者】でボスクラスのモンスターを倒すとは。


 おそらく両手に嵌めたグローブの力だろう。


 見たところ魔道具らしい。


 気配を断つ魔道具と言い、マジックボックスの魔道具と言い、ワンパンでモンスターを倒せる魔道具と言い、もしかして研究の成果なのか?


 中々侮れないな、【研究者】


「よし、着いた。ここが外へ出る転移魔法陣だ。ただ一つ注意がある。確実に迷宮の外へ出る事にはなるが、何処に出るかは分からない」


「構わないよー。外へ出られるのならー」


『ふーちゃんが居るからな。また王都へ向かうのはタイムロスになるが、ふーちゃんの速さがあれば王都までひとっ飛びで着くしな!』


「(うんー、皆が居れば怖いものないよー)」


 この場合の皆はぼーちゃんやめーちゃんらのお気に入りの事だな。


「そうか、ならいいが。そう言えば名乗るのが遅れたな。俺はクォン。クォン・タ・エルブレイド。今後Alice神教絡みで困った事が有ったら転移迷宮に来な。力になってやるぜ。尤も転移迷宮には来ない方がいいんだがな」


「おじさん、ありがとー。私はジルベールって言うのー。ジルって呼んでー」


「おう、ジルお嬢ちゃん。あのババァはこの転移迷宮から出れないと思っているからそこを突け。上手くいけば一泡吹かせてやれるだろう」


「任せておいてー」


 そう言ってジルはクォンにサムズアップしながら転移魔法陣を起動させ転移迷宮の外へ出た。












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