229.立ち塞がる者たち2
「何を、言っている。1人でユーユーを倒すつもりか?」
「そう言っているでござるよ。アルベルト殿は唯一魔王を倒す事の出来る勇者でござる。こんな所でこんな奴相手にして疲労することは無いでござる」
突然のヒビキの物言いにアルベルトは咎めるが、逆にヒビキはアルベルトを説得してきた。
ユーユーへの挑発のおまけつきで。
「ここが魔王城目前でなければ一緒に戦ってもよかったでござるが、今はもう目的である魔王の前にアルベルト殿を全力を出せる状態で連れて行くのが拙者らの使命でござる。だから、行くでござるよ!」
確かに、わざわざユーユーの相手をして消耗する必要はないからな。
足止めできるのならそれに越したことは無い。
だが、流石にユーユー相手にヒビキ一人ではちと厳しいと言わざるを得ない。
これまでのユーユーとの戦闘経験が豊富なヒビキだが、ボードランプ国で見せた(実際には俺は見ていないが)ユーユーの実力に敵うのか?
ヒビキのこれまでの成長や、フレイドが仕上げてくれた『グランホワイトの角ステーキ』による身体能力の上昇があるとは言え、どこまでユーユーに食い下がれるか。
……いや、足止めと言う点で言うなら、捨て駒と言う点で言うならヒビキ1人で当たるのは戦術に適っているだろう。
だからと言って、ヒビキをこのまま1人でユーユーを相手させるわけにはいかない。
そう思ってジルを通じて口を出そうとしていたのだが……
「なら俺っちも残って2人でユーユーを相手するよ」
「ブラスの兄貴!」
「ブラストール殿!?」
まさかのブラストール参戦の宣言だった。
「何を言っているでござるか! ブラストール殿はアルベルト殿を守る楯でござろう!? こんなところで捨てていい命ではござらん!」
まぁ、確かにアルベルトを守る盾役が居なくなるのは痛いが。
「おいおい、ヒビキ殿はこんなところで命を落とすつもりなのか? それは認められねぇなぁ。アルが言っていたじゃねぇか。〝死ぬな″って」
「……死ぬつもりはないでござるよ」
「本当か? まぁ、俺っちも死ぬつもりはないよ。それに……」
ブラストールはいつものおちゃらけた雰囲気を抑え、真面目な顔でヒビキを見つめる。
「惚れた女くらい守らせてくれや」
「……ほぁ?」
うぇぇっ!? ちょっ、えっ、マジか……!!
まさかの告白に間抜けな声を出したヒビキは、次第に何を言われたか理解して顔を真っ赤にしていく。
パトリシアやエーデリカはブラストールの突然の告白にキャーキャー騒ぎ、ジルとファイは地味に驚いていた。
ゴダーダや謎のジジィの男衆もブラストールの男気に感動すらしている。
ただ、アルベルトとマックスはちょっと男女の好き嫌いは分かっているが、なんでこんな時に言うのか良く分からない顔をしているな。
「なななななななななな、何お言っているのぉっ!? ここ、敵地! しかもみんな見ている前で!」
動揺しすぎていつものござる口調じゃなくなっているな、ヒビキ。
「今だからこそ言うんじゃねぇか。このまま言わずじまいってのも俺っちの主義に反するからな。そう言う訳だから、行け、アル! ここは俺っちらに任せな」
「兄貴……だけど」
ブラストールに促されるアルベルトだが、兄貴と慕ってたブラストールやヒビキを置いて行くことに躊躇していた。
「アル君ー、行くわよー。ここでブラストールの覚悟を無駄にしないでー」
「姉さん。……分かった。ブラストール、ヒビキ、ここは任せた! だけど死んだら許さないからな!」
覚悟を決めたアルベルトはユーユーを2人に任せて先に進むことにした。
「やれやれ、茶番は終わりですか? いいでしょう。youたちの相手は私がしましょう」
「きょ、今日こそ長年の因縁に決着をつけるでござるよ!」
「さて、覚悟を決めた男はしぶといぜぇ。容易く打ち取れると思わない事だ」
ブラストールとヒビキがユーユーとの戦闘が始まるのを背に、アルベルト達は駆け出す。
勿論、門番がそれを邪魔しようとするが、魔王の娘であるエーデリカも居る事から躊躇いが見え、その隙を突いて昏倒させて魔王城へ上る道を駆け上がる。
その道中、未だに興奮が収まらないのか、エーデリカは顔を真っ赤にさせてうわーうわー言っていた。
「まさかブラストール様がヒビキ様に想いを寄せていたとは……。全くそんな素振りは見せていなかったのに」
パトリシアの言う通り、全くだ。普段から酒ばかり飲んでおちゃらけていたおっさんだったのに。
……と、恋愛話に浮かれるのはここら辺にしておかないと。
【気配察知】と【索敵】に反応があった。
基本、アイファサから魔王城へ向かう山道は一本道だ。
その一本道のど真ん中で待ち構える人物が居た。
「ここから先は通さん。通りたければ儂を倒して征け」
「……なっ!? お前は、ヒビキが倒したはず……! なぜ生きている、ジージー!」
そう、そこに居たのはヒビキが命懸けで倒したはずの鉄槌のジージーだった。
「ふん、儂の死を確認したのか? しっかり相手の死を確認しないうちは生きていると思うことじゃな」
まぁ、確かに死んだと思っていたら生きていたというのは漫画や物語で良くあることだ。
それに、この世界には魔法と言うものがある。
死ぬ直前に【治癒魔法】を掛ければ助かるかもしれないし、死から蘇らせる【蘇生魔法】もあるしな。
おそらくジージーもそういった類のもので死ななかったんだろう。
「ちぃ、だったらもう1回殺してやるよ!」
「いや、それには及ばん。儂が相手をしよう」
そう言ってアルベルトが前に出るのを抑えたのは、これまで散々言っていたことはどうしたと突っ込みを入れたくなるが、予想通りの人物――謎のジジィだった。




