225.魔王の娘
名前:エーデリカ・エーデルヴァルト
種族:魔族
状態:嫉妬化(魔王の欠片)
スキル:剣士Lv91
二つ名:閃光
備考:魔王の娘
ほわぁぁっつ!?
魔王の娘っ!? しかも魔王の欠片持ちっ!?
勇者一行は突然の来訪者を迎えるために、警戒をしながらも馬車のドアを開けて外で対面を果たす。
馬車の外に居たのは頭に山羊の様に下向きの角を生やした妖魔族の女だった。
俺はすぐさま【鑑定】を行いこの女の正体を暴いたのだが、結果は思わぬ答えが出てきたのだ。
「魔王の娘ー?」
「あら、流石はこれまで魔王軍に手痛い目を合わせてきたS級冒険者ね。あたしの正体は一発でお見通しってわけね」
俺がジルにエーデリカの正体を伝えたことで思わず出た言葉に、感心した目でジルを見ていた。
と言うか、魔王の娘ならそこは感心するとじゃなく恨みがましく見るところじゃね?
そしてジルの言葉にアルベルト達も驚きを隠せないでいた。
「魔王の娘が俺たちに何の用だ」
「いや待て。それよりもどうやって俺っちたちの居場所が分かった」
警戒しながらもアルベルトはエーデリカにここに来た目的を聞くが、それを遮ってブラストールがどうやってここを割り出したのかと、警戒を強めながら尋ねる。
「ふふふ、その警戒心は当然よね。でも、そう簡単に手の内を晒すと思う? たとえ敵同士じゃなくても」
いや、魔王の娘と言うだけで既に敵同士だと思うぞ?
まぁいいか。
大よそだがエーデリカがどうやってここを割り出したのか見当が付く。
おそらく魔王の欠片の能力だろうな。
黄金地竜は魔王の欠片で憤怒化の影響で他の地竜よりも強化されているように見えた。
黄金化ももしかしたら憤怒化の産物かもしれない(超サ〇ヤ人みたいな?)。
シーザも暴食化の影響で、幾らでも食べれる能力を付加されていたんだろう。
マックスやジョージョーは欠片の影響がないように見えるが、何かしらの能力が付加されていると思われる。
ジョージョーは強欲化で、もしかしたら何かしらの収集能力――マジックボックス的なものが与えられているかもしれない。
マックスは傲慢化だが……うむむ、どんな能力が付加されているかイマイチ不明なんだよな。
一応、一度【鑑定】や【解析】で視てみたんだが能力までは判明しなかった。
そして道具にまで魔王の欠片が与えられた怠惰の剣。これは能力がはっきりしている。
切り付けた傷にスキルや能力が及ばなくするというものだ。
で、肝心のエーデリカの嫉妬化は他者の居場所を突き止めるってところか?
「魔王の欠片の能力でしょー?」
「……むぅ、そこまで見通されるとやりにくいわね。そうよ、魔王の欠片――嫉妬化の能力で貴方達を見つけてここに来たのよ」
ジルの指摘にあっさりと能力をばらすエーデリカ。
しかし、結構厄介な能力だな。
これではどんなに上手く潜んでいてもエーデリカには丸見えって訳だ。
奇襲などの隠密行動は出来なくなったと思っていいだろうな。
と、思っていたのだが――
「安心していいわよ。別に魔王軍には貴方たちの居場所を告げ口するつもりはないから」
「どういうことですか? 貴女は魔王の娘――魔王軍の味方じゃないんですか?」
「あら、あたしは魔王の娘とは言ったけど、魔王軍に所属しているって言ったかしら?」
パトリシアの問いにしてやったりした笑みを浮かべ答える。
「ま、それがあたしがここに来た理由でもあるんだけどね」
「どういうことだ?」
「あたしは、お母さんを止めて欲しくて貴方達に協力しに来たのよ」
いや、普通はそんなこと言われても信じられないぞ。
と言うか、魔王って母親――女なのか。
信じられないアルベルト達に、エーデリカはその理由を語った。
魔王はスキルを授かった当初、進んで人族を殺したり支配したりするようなことはしなかったそうだ。
魔族の王族――アルダーコール王家が魔族社会を管理していたことから、敢えてその現状を破る必要はないだろうと。
だが運命なのか、スキルの影響なのか、世界はそれを許さなかった。
魔王の幼馴染であり婚約者である男が人族に殺されたのだ。
その人族は当時の勇者で魔王を倒すために魔大陸に渡り、魔王を討とうとしてそれを庇った幼馴染が犠牲になった。
当然魔王は激怒した。
怒りのままに【魔王】のスキルを振るい、勇者を返り討ちにする。
それだけでは魔王の怒りは収まらず、その矛先は人族に向く。
それがおよそ40年ほど前。
そうして魔王の力による支配が始まった。
手始めに魔王の慣習に則ってアルダーコール王家から魔族の支配権を奪い取り、魔王軍を結成して西大陸に渡り蹂躙した。
今でこそ落ち着いて魔王城に籠っているが、当時は自ら西大陸に乗り込んで【魔王】の力を発揮したらしい。
西大陸で最初に犠牲になったのが魔大陸に最も接していたドワーフの国――ボードランプ国だった訳だ。
それが30年ほど前。
そうして少しずつ西大陸を侵略し、人族を虐殺及び支配を行ってきた。
エーデリカはそんな戦時中に生まれ、当然魔王の娘と言うことで人族を支配または虐殺するように教育されてきた。
当初はそれを当然と受け入れていたらしいのだが、ある日人族牧場にてある人間の少女と友達になってから価値観が変わったらしい。
まぁ、ここ辺りの話は前世で良くある話だから簡略させてもらうが(仲良くなった少女は殺されてしまう)、お約束の様にエーデリカは魔族の在り方に疑問を持ち、次第に人族たちに密かに味方するようになった。
そして未だに復讐の念や憎しみに捕らわれている魔王――母親を止めたいと願い、唯一の対抗者である勇者アルベルトに接触しに来たと。




