023.研究者
「誰ー?」
ジルは声のした方へぼーちゃんを向ける。
何時の間に俺の探知エリア内に入ったんだ!?
「待った待った、俺は敵じゃないよ。只のしがない研究者だ」
現れたのは如何にも研究者と言った風貌の白衣を着た眼鏡をかけたおっさんだった。
おっさんは両手を上げて敵意が無い事を示す。
俺は危険が無いかおっさんを【鑑定】で見てみる。
名前:クォン・タ・エルブレイド
種族:ヒューマン
状態:隠密
称号:研究者
スキル:研究者Lv81
発動魔道具:ステルスリング
うむ、本当に研究者だな。
スキルもだが、称号も研究者とは余程の研究好きか。
そして俺が気が付かなかったのは状態が隠密だからだな。
決して油断していた訳じゃないぞ。
ただ、これからの事を考えると、隠密状態を見破らなきゃならないな。
ジルが死んでしまってから見破られませんでしたじゃ済まないからな。
「俺はここの転移迷宮の研究をしているんだ。で、普段は研究室に籠って研究をしているんだが、階層主のミノタウロス・ロードが暴れていたんで見に来たんだ。下手をすれば研究室に被害が被るからな」
「んー、ここの迷宮に詳しいのー?」
「ああ、勿論。その為に俺はこの迷宮に何年も籠っているんだぜ。大方お嬢ちゃんも転移トラップに巻き込まれてここに来たんだろ?」
何年もって……それって自分も転移トラップに巻き込まれて出るに出れなくなったんじゃないのか?
「あー……言っておくが、ここから出られないって訳じゃないぜ」
どうやら俺の考え通りじゃなく、自分も出られないと言う間抜けなわけではなさそうだ。
と言うか、出られないわけではなく、転移迷宮を研究していると言う事は……
「もしかしてこの迷宮から出られるのー?」
ジルもその事に行き当たりクォンに尋ねる。
「ああ、勿論。俺に掛かればこんな迷宮直ぐに出れるぜ」
「ホントー!? 出口教えておじさんー」
「おじ……俺まだ29歳でおじさんと呼ばれる歳じゃ……ってお嬢ちゃんから見ればおじさんのレベルか……
ああ、いいぜ。出口を教えてやるよ。その代わり……」
む、代価を要求するか。
確かに只で教えを乞うのは虫がよすぎるしな。
何を要求されるか……それによっては出口の情報は欲しいが敵対する可能性がある。
だが、俺の心配を余所に、クォンの要求はそれ程心配するものではなかった。
「そこのミノタウロス・ロードを俺に丸ごとくれないか?」
「んー? こんなんでいいのー?」
「こんなんなのがいいんだよ。言ったろ? 俺はこの迷宮で何年も暮らしているって。そいつの肉が欲しいんだよ」
「(きゅーちゃんー、上げていいー?)」
『ああ。脅威度Bのモンスターの素材は惜しいが、今は一刻も早く地上に出るべきだからな。ジルが良いんなら構わないぜ』
「(分かったー)。おじさん持ってっていいよー。その代わり出口をちゃんと教えてねー」
「おし、商談成立。じゃあそこの肉は貰うぜ」
クォンは背中に背負ったバックの中から小さな袋を取出しミノタウロス・ロードに近づける
すると小さな袋の中にミノタウロス・ロードが中に吸い込まれた。
アイテムボックスか!
正確にはアイテムボックスの機能が付いたマジックポーチと言ったところか。
「へへ、いいだろう。こいつは俺が作ったマジックポーチだ。収納量も保存機能も世間一般に出てるものより性能が良いんだぜ」
クォンが自慢げにマジックポーチを見せるが、自慢する相手を間違えているぜ。
「んー? 別にー。私にはかめちゃんが居るからー」
「何? もしかしてお嬢ちゃんもマジックバックとか持っているか?」
「マジックバックじゃなくてー、かめちゃんー」
「ああ、スキルか。お嬢ちゃんのスキルは戦闘もこなせるしアイテムボックス機能付きとか多彩だな。機会があったら研究してみたいものだ」
「んー、余裕があったらねー。今はダメー。一刻も早く外に出ないとー」
「何かわけありっぽいな。まぁいい。一先ず俺の研究室に行くぜ。出口の場所を描いたメモがそこに置いてあるからな」
そのままクォンに案内され、研究室とやらに向かう。
そう言えば、クォンはここの転移迷宮を研究しているって言ったな。
どうせならさっきのミノタウロス・ロード――階層主とか言ったか? 後はモンスターが居ないことなど、出入り口が転移魔法陣しかないことなどをジルを通して聞いてみる。
「おじさんは、どうしてここを研究しているのー?」
「おお、よくぞ聞いてくれた! お嬢ちゃんも体験したから分かる通り、ここは転移魔法陣でしか出入りできない迷宮だ。転移でしか出入りできない地下深くある迷宮……実に不思議でならん!
俺はこの迷宮の時空が歪んでいるのが原因ではないかと考えて研究している。もしここの研究が捗れば、迷宮大森林の謎も解けるかもしれないからな」
また別の単語が出て来たよ。
迷宮大森林ってなんぞよ?
「モンスターが居ないのもその時空が歪んでいるのが原因ー?」
「うむ、それもあるだろうが、各階層に主が設置されている。おそらくその階層主に力を注ぐためモンスターは現れないのではないかと推測する」
あ、スルーされた……
まぁいいや。で、この迷宮にモンスターが居ないのは階層主が居るから、か。
有象無象を放つより、その力を1つに纏めてボスとして侵入者を排除すると言う訳か。
「強力なモンスターが1匹いるだけでも侵入者にとっては脅威だからな。しかも出口が無いとなれば恐怖でしかないわけだ」
「んーー? もしかしてこの迷宮って嫌な人とかを閉じ込めておく為の迷宮ー?」
「お、いいところに目を付けるな、お嬢ちゃん。俺は閉じ込めておくと言うより、邪魔者を始末する為の処刑用の迷宮だと思っているがな」




