Side-35.クーガー1
変わり映えのしない日常だった。
そう、あの日までは。
俺の名前はクーガー・アルティ。
しがない商人兼魔具師だ。
俺は5歳の時に【魔具師】のスキルを授かった。
【魔具師】が作る魔道具は、当たれば大金を稼げるスキルとだ。
その為、【魔具師】スキルを持つ魔具師は一発屋スキルとも言われている。
ただ、普通に【魔具師】スキルで魔道具を開発しても、稼げることなど稀だ。
なぜなら、魔具師が開発した魔道具は商人ギルドに登録しなければ販売できず、その販売利益は魔具師2割、その魔道具を販売した商人が4割、商人ギルドが4割と理不尽なものだったりする。
魔具師は魔道具を開発しても販売能力は当然商人に劣るので、自分で全く売れない商売をするよりは、販売を商人ギルドに委託して魔道具開発に時間を当てた方が儲けに繋がるから。
それに、魔具師は儲けは二の次で魔道具の開発をするのが好きな輩が多いから、2割の割り当てもそんなに気にしていないのだ。
ただ、俺はそれが嫌で【魔具師】スキルを持っているが、魔具師ではなく商人として商業ギルドに登録している。
無論、俺のほかにも似たように他のスキルを持っているが、商人としてギルドに登録している奴もいる。
まぁ、だからと言って、それで儲けているかと言えば、それはその人の腕次第だ。
そして、魔具師としての生き方を嫌い商人として生きた俺はと言えば……それほど腕のいい商人ではなかったのか、儲けはイマイチだったりする。
普通であれば魔具師としての2割、商人としての4割が儲けになるのだが、肝心の商品が売れなければ儲けにならないからだ。
で、俺は毎日売れない魔道具を開発して変わり映えしない日常を過ごしていたのだが、あの日、友人のディーノが持ってきた話が俺の日常を変えた。
ディーノはライダーギルドに所属しているドライバーだ。
その為、商人との繋がりがあり、俺も商品を運んでもらったり、魔道具の素材を取り寄せてもらったりとして次第に友として仲を深めていった。
そのディーノが持ってきた話と言うのが、街でも噂になっていた勇者パーティーへの誘いだった。
何でも商人ギルドから紹介された商人が不正を働いていたということで、勇者パーティーへの加入が取りやめになったというのだ。
その商人と言うのがアキンドーで1番のゲゲル商会のクロキだと言うから驚きだ。
で、その空いた勇者パーティーの商人枠に俺がディーノによって紹介されたと言う訳だ。
最初は当然拒否をしていたが、話をするうちに勇者の姉であるというジルと言う女性から(実は大人の女性に見えてまだ10歳だというから驚きだ!)俺の開発した魔道具に理解を示していたから嬉しくなって盛り上がっているうちに勇者パーティーへの加入を承諾してしまっていた。
「良かったじゃないか、これでアルティ商会も有名になれるじゃん」
「ディーノ……そう簡単な話じゃないのは分かって言っているよな?」
はぁ……確かに勇者パーティー付き商会として名を広めることは出来るだろう。
だが、それは名前が有名になるというだけで、扱っている商品が優秀とは限らないのだ。
あ、無論俺が作る魔道具はどれも優秀なのは間違いない。
間違いないのだが、ジルのように1部のマニアックな輩にしかヒットしない商品ばかりだったりする。
ともあれ、俺は勇者パーティーの一員として魔王退治の旅を供することとなった。
それからと言うもの、体験するのはこれまでじゃあり得ない事ばかりだった。
魔王四天王の1人に遭遇したり、魔王軍との最前線に駆り出されたり、モンスターの巣窟と言われている神獣の森に突入したり(あ、俺たち後方支援部隊は入り口までだが)、魔族に支配されていたドワーフの国を開放したりと波乱万丈と言えるほどの体験だった。
そして、いよいよレフトウイング大陸――魔大陸に上陸して魔王軍との戦いも過激さを増していく。
俺たちは同じ魔族でも人族を憎まない魔族を救いながら、魔族に飼育された人族牧場を訪れた。
それが間違いだったのか、今となっては分からない。
運が悪かったのか、それが運命だったのか、今日、人族牧場を訪れたその日に魔族の王族が来る日だったのだ。
アルベルト君と魔族の王族が交渉したが、当然と言うべきか交渉は決裂し、勇者パーティーは魔族の王族軍に包囲されるという窮地に立たされた。
【魔王】スキルに唯一ダメージを与えられるのが【勇者】スキルと言われている為、ここで勇者アルベルト君を亡き者にされるわけにはいかない。
よって、殿をブラストール、ヒビキさん、ファイちゃん、ジルに任せて、俺たちは僅かな戦闘部隊に連れられこの包囲網を突破し逃げ出すことに成功した。
しかしながら敵も更なる包囲網を敷いていたらしく、俺たちは行く手を阻まれてしまった。
と言うか、俺たち勇者パーティーが人族牧場に来るのは偶然だったのに、よくもまぁ逃走した者への追撃の部隊を事前に逃走経路に用意できたものだな。
いや、今はそんな事を言っている場合じゃない。
俺たちはどうなってもいい。
勇者であるアルベルト君をなんとしても逃がさなければ。
……ははっ、しがない商人兼魔具師である俺がその身を犠牲にしても勇者の礎になろうとしているよ。




