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この石には意志がある!  作者: 一狼
第8章 レフトウイング大陸・決戦編
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219.包囲網

「くそっ、嫌らしい手を使ってきやがる! 来るなら一気に来いってんだよ!」


 そう言いながら聖剣を振るうアルベルトだが、思ったよりもキレがない。


 悪態をついているアルベルトだが、本当のところは別の事で憤っていたりする。


 怒り、悲しみ、などの感情がごっちゃになって自分でもどうしていいか分からないんだろう。


 思ったよりも動揺しているみたいだな。


 無理もない、今アルベルトたちが相手しているのは魔族だけじゃない。魔族と人族――主に獣人による混成部隊だったからだ。


 おそらく、他の牧場で飼育された獣人だろう。


 獣人たちは魔族の命令に忠実に従い、そこに疑問は持たずにアルベルト達を魔族の敵と認識し、敵意をもって襲ってきている。


 これにはアルベルトとパトリシアが動揺し、戦意が鈍ってしまった。


 パトリシアは兎も角、アルベルトも動揺したのはちょっと意外だった。


 普段の不遜な態度からすれば、向かってくるのが人間だろうが獣人だろうが敵なら容赦なく倒すように見えたんだが、どうやらアルベルトは根っこはやはり心優しい子供だということなんだろう。


 逆に、ブラストールやヒビキ、ゴダーダ、ファイたちはシビアに第1王子の兵たちを屠っていく。


 無論、公式年齢10歳だが実質年齢27歳であるジルも魔族と獣人たちを容赦なく倒している。


 そしてアルベルトが憤っている理由はそれだけではなかったりする。








 ヴァインの指定した1時間経つ頃、ヴァインの部下と思しき魔族が牧場に来てこちら側の答えを聞いてきた。


 まぁ、当然アルベルトたちは商品――牧場の人間たちを差し出すような真似はしなかった。


 使者がヴァインの元へ戻って程なくして、牧場を囲んでいる第1王子の兵から攻撃が始まった。


 無論、この1時間黙って待っていたわけではない。


 牧場の人間たちに害が及ばないように、牧場の地下に避難室を俺の【土魔法】などで作ってそこに牧場の人間たちを避難させていたりする。


 少なくともこれで地上での被害や護衛の事を考えずに戦闘に集中することが出来たわけだ。


 攻撃は最初は牧場の北東から。


 この時は魔族だけの少数部隊だったので、アルベルトを筆頭にブラストールとヒビキが対応したが、少し間をおいて今度は西と東の2方向からの挟み込む攻撃だった。


 すぐさま対応する人員を選出し迎撃に当たったのだが、ここで獣人の混成部隊が出てきたのでアルベルトとパトリシアの戦意が鈍り、撃退には時間を要した。


 そして直ぐに3方向からの攻撃が始まった。


 動揺しながらもアルベルトとパトリシアは迎撃に向かい、これを何とか退けた後に問題が発覚した。


「アルベルトさん、やられました。申し訳ありません。地下に避難していた人たちが全滅していました」


 クローディアの報告に、アルベルトだけじゃなく全員が驚愕した。


「……はぁっ!? ちょっと待て、俺たちの迎撃をすり抜けて中に侵入した奴が居るっていうのか!?」


「いえ、そうではないようです。状況からの判断によりますが、おそらく最初からこの牧場にヴァインによる手の者――この場合、ヴァインの息のかかった人間ですね――が一緒に避難した人間たちを皆殺しにしたようです」


 やられた!


 もともとここの人間たちは魔族の思考に染まった人間たちだ。


 こちらの価値観とあちらの価値観はまるっきり違うって分かってたのに!


 ヴァインの奴もこんなところで役に立つとは思わなかっただろうが、初めから牧場の人間の中に自分の思考を植え付けた、と言うより魔族に忠誠を誓う人間を紛れ込ませていたのだろう。


 魔族からだけの教育じゃなく、同族からの洗脳をさせるために。


 そしていざと言う時は、魔族に命をささげるために皆殺しにしろとでも命じられていたのだろう。


 と言うか、ヴァインは商品である人族を買いに来たのに皆殺しにするとは……


 それほどアルベルトが気に入らないのか、一度でも人族の思考が混ざった商品はいらないのか知らないが、確実にこちらにダメージ(主に精神攻撃)を与える手を使ってきやがる。


「……見方を変えよう。これで俺っちたちが守るべき者は居ない。ここにとどまる必要はなくなったわけだ」


「ブラスの兄貴!」


 ブラストールの言葉にアルベルトが胸ぐらを掴んで詰め寄る。


「アルベルト殿――いや、アル、割り切るんだ。俺っちたちは今戦争をしているんだ。犠牲が出るのは仕方ない。無論、最小限にとどめるのに越したことはないが、どうやったって犠牲は出るんだ」


 ブラストールに胸ぐらを掴んだ手を下ろされ、諭すように言う。


「ぐっ……分かっているんだ。分かってはいるんだが……」


「アル君ー。キツイ様だったら、後方で控えていてもいいんだよー?」


「……っ、いや、大丈夫だ。すまねぇ、情けないところを見せた。俺がするべき事は落ち込むことじゃなねぇ。魔王を倒す事だ。そして世界を救う事だ。今を生きている者たちの」


「うんうんー。アル君ならそう言うと思ってたよー。なら最後まで頑張らないとねー」


 敢えてジルはアルベルトに逃げるように促して、それを蹴って奮い立たせるようにハッパをかけたわけだ。


「それで、どうするでござるか? ヴァインの兵を殲滅させるまでここで粘るでござるか?」


「……いや、撤退だ。この包囲網を抜けてこの場から脱出する。ブラスの兄貴の言う通り、もうここにとどまる必要はなくなったらからな」


 流石にこのままこの場にとどまっての戦闘はヤバいからな。


 ヴァインも各部隊の兵をローテーションしながらの各方面から波状攻撃を仕掛けてきている。


 そうしてこちらが消耗した時、総攻撃を仕掛ける狙いだろう。


 そうなってからでは撤退は遅いからな。


 ただ、今の状態でもこの包囲網を突破できる戦力があるかどうかが問題だが。











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