022.ミノタウロス・ロード
ジルは何の怯えも無く目の前のミノタウロス・ロードへ向かって行く。
幸いと言っていいか、ミノタウロス・ロードは武器を持たない素手だった。
『BUMOOOOOOOOOッ!!』
ミノタウロス・ロードは両腕を振り回しジルを殴ろうとするが、ジルは巧みな足捌きでミノタウロス・ロードの攻撃を紙一重で躱していく。
そしてミノタウロス・ロードの隙を突いてはーちゃんで一撃二撃と攻撃を当てていく。
ちょっ、本当にこの子マジでミノタウロス・ロードと戦う気だよ。
ええいっ、こうなったら仕方がない。
持ち主がやる気なんだ。
所有物である俺がサポートしてやらんでどうする。
『ジル! えんちゃんで受けようとするな。全部躱せ! どうしても躱しきれない時だけえんちゃんでガードしろ!』
「うんー!」
『後は脚を重点的に狙え! 機動力を奪うんだ』
尤も、ジルの身長さじゃ脚しか狙えないが。
だが、こう言えばジルは俺の言いたいことを理解してくれるはず。
そして俺の狙い通り、ジルは脚のある一点――膝の裏を集中的に狙いだした。
『よし! ジルはそのまま! 【チェーンバインド】!』
地面から幾つもの鎖がミノタウロス・ロードに絡み動きを封じる。
だが、ミノタウロス・ロードは鎖なんかお構いなしに力任せに引き千切る。
まぁ、引き千切られるのは予想範囲内だ。
少しでも動きが止まればいいんだよ。
ジルはふーちゃんを出して機動力代わりにし、ミノタウロス・ロードの周囲を旋回しながらひざの裏を集中的に攻撃する。
おおぅ、流石と言うべきか、規格外すぎると言うべきか。
ふーちゃんは確かに移動力は凄い。
但し、それは直線的な意味合いでだ。
ふーちゃんを足場にした小回りなんかは普通そう簡単には出来ないぞ。
考えてみるといい。
スケボーに乗って目標の周辺を小刻みに移動し続ける様なものだ。
出来るか? 俺は出来ん。
あ、今もふーちゃんに乗ったままロールしてミノタウロス・ロードの攻撃を躱した。
あー……、うん。ジルが脅威度Bだろうと怯まないはずだよなぁ……
おっと、感心している場合じゃない。
こっちも援護しないと。
『【アイシクルランス】!』
至近距離から、しかもジルがふーちゃんで躱している機動力を生かしての死角からの攻撃だ。
『BUMOOONNっ!!?』
俺の氷の槍の攻撃は見事、ミノタウロス・ロードの右肩を貫いた。
「やあぁぁぁぁー!」
右脚、左脚とジルの攻撃がミノタウロス・ロードの膝裏を斬り裂き遂には膝を付く。
『BUMOMOMOMOMOMOMOッ!!!!』
たかが小さな人間如きに倒された。そんな風に怒りを顕わにしミノタウロス・ロードは両腕を振り回し無差別に攻撃を仕掛ける。
『ジル、一旦離れろ!』
ふーちゃんを使ったバックステップでジルはミノタウロス・ロードから距離を取る。
つーか、本当に器用だな。
『よし、今のあいつは直ぐにはこっちには向かって来れない。今の内にありったけの遠距離攻撃で仕留めるぞ』
「わかったー」
ジルはやーちゃんとめーちゃんを取出し放つ。
『【チェーンバインド】! 【サンダーボルト】! 【ウインドランス】! 【ウォーターアロー】! 【ブラックニードル】! 【リープスラッシュ】!』
一応の保険の意味を兼ねて【チェーンバインド】で動きを封じてからの魔法のラッシュ!
これで仕留めたと思いきや、攻撃の余波の粉塵が収まるその中心には今だ息のあるミノタウロス・ロードが居た。
おいおい、タフだと言っても程があるぞ。
だが、あの攻撃を耐えたとはいえ、ミノタウロス・ロードは虫の息だった。
おそらくやーちゃんに貫かれた左肩や、体中のあちこちに傷や火傷の後があるので、後一押しで倒せる状態だ。
『ジル、止めだ』
「わかったー。ぼーちゃんー!」
え? ここでぼーちゃん?
俺はてっきりやーちゃんで止めを刺すのだとばかり思ったのだが、ジルが最後に選択したのは打撃武器のぼーちゃんだった。
「ぼーちゃんー、伸びろー!」
突きの様にぼーちゃんを構え、狙いを定めてぼーちゃんを伸ばす。
一瞬で間合いをゼロにし、如意棒の如く伸びたぼーちゃんはミノタウロス・ロードの目を貫いてそのまま頭の反対から突き抜ける。
うっわぁ……ジルさん、結構容赦ないのね……
「ビクトリー」
ぼーちゃんを元の長さに戻してミノタウロス・ロードの頭から引き抜き、完全に絶命したミノタウロス・ロードはそのまま地面に倒れ込む。
本当に脅威度Bに勝っちゃったよ、この子。
本当に7歳児?
中身は俺と同じように転生者だったと言われても信じるぞ。
それにしても、ぼーちゃんにあんな使い方があったとはな。
伸ばして打撃武器として使うんじゃなく、その伸びる速度を利用した突き攻撃とは。
どれくらい伸縮速度があるのか分からないが、ある意味石の弾丸だな、これ。
『取り敢えず目の前の脅威は去ったな。こんなのが居るんじゃ一刻も早くこの転移迷宮を抜け出さないと』
「そうだねー。アル君の事も心配だし、あのおばーちゃんも懲らしめないとー」
おう、ヤル気だねー、ジルさんや。
確かにあのクソババァには一泡吹かせたいな。
「取り敢えず、この牛さんを仕舞うねー。かめちゃんー、かむひあー」
ジルはかめちゃんを石空間から取出し、ミノタウロス・ロードの亡骸を入れようとする。
まぁ、普通ならこんな小さな甕に入るはずはないんだが、流石チートと言うべきかめちゃん。
どんな大きなものでもしゅるっと入るんだよな。
ジルがかめちゃんへミノタウロス・ロードを仕舞おうとした時、唐突に声が聞こえた。
「驚いたな。階層主が暴れているので見に来たら、まさかこんな小さな女の子が倒してしまうとは」




