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この石には意志がある!  作者: 一狼
第8章 レフトウイング大陸・決戦編
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215.牧場

「牧場ですね。あれは」


「…………は?」


 …………は?


 クローディアの言葉に俺とアルベルトの言葉は思わずシンクロした。


 【気配察知】や【索敵】に人間の反応があった場所へクローディアを偵察に行かせたのだが、返ってきた答えは思いもよらぬものだった。


「えーと、クローディア殿。人間が住む村を確認しに行ったのだよな? それが何故牧場?」


「あ、もしかして沢山の家畜を飼われていたのでしょうか?」


 いや、パトリシア。それは無い。


 俺が【気配察知】や【索敵】で確認している。


 居るのは人間と魔族だけだ。


「いえ、牛も羊も馬も豚も家畜は一切確認されておりません」


「……それなら何故牧場なんだ?」


 クローディアの牧場発言にアルベルトたちはより一層困惑を隠せないでいた。


「あーー……何となく分かったでござる」


 ただヒビキだけは牧場が何を指しているのか理解できたみたいだ。


 うん、俺も最初は何を言っているか分からんかったが、よくよく考えれば確かに牧場に当てはまる状況だ。


 魔族は10人程度、人間が50人以上。


 地球……と言うより、日本のサブカルチャーであるマンガアニメに出てきそうな条件がそろっていやがるし。


 ……ん? アニメではあまり見かけないか?


 まぁ、どっちでもいいか。


 要は、魔大陸には人族を飼育している所謂〝人族牧場″が存在しているということだ。


「牧場は牧場でも人族の牧場でござろう。相違ないな、クローディア殿」


「ええ、飼われているのは人間です。何の疑問もなく魔族に従っていました」


 クローディアの言葉にヒビキはやっぱりと深いため息をつく。


 ヒビキは意外と冷静だな。


 逆にアルベルトやパトリシアは激高して怒りをあらわにしていた。


「マジ……か。許せねぇな。人族を何だと思っていやがる!」


「人族を家畜のように従わせるなどと、女神Alice様を冒涜しています! 今すぐ、捕らわれている人族を開放しに行きましょう!」


「うんー、許せないねー! 早く皆を助け出さないとー!」


 って、ジル! お前もか!


「待て待て。ちょっと落ち着けお前ら。クローディア殿、確認するが牧場……の人間たちは大人しく魔族に従っていたんだな?」


「はい」


「……これはちと厄介かもしれないな」


「どういうことだ? ブラスの兄貴」


「普通であれば人族と魔族は互いに争いあう生き物だ。それが大人しく魔族に従ているっていうことは……人族としての価値観がない可能性がある。

 ……そうか、だから牧場か。クローディア殿はそこまで〝観て″きたんだな?」


 ブラストールの問いに、クローディアは静かに頷いた。


 そうかー、クローディアはそこまで見ちまった訳だ。


 人族を牧場として機能させている姿を。


 と言うか、ブラストールはよくそこに気が付いたな。


 伊達に人生経験を積んでいないってか。


「ああー、そういうことッスか。ひどい言い方になるッスけど、いわゆる純魔大陸産の人族って訳っスか。だから魔族に大人しく従う、と」


「なるほど。生まれながらにして〝教育″が施されている訳だな」


 ブラストール以外にも人生経験があるゴダーダとフレイドも牧場の内容に気が付いたみたいだ。


「え? え? どういうことだ? 説明プリーズ!」


 置いてけぼりのアルベルトが喚きたてるが、うーん……今更だが齢7歳の子供に説明してもいいものやら。


 ……本当に今更だがな!


 ブラストール、ゴダーダ、フレイドの大人チームがこの先にある〝人族牧場″の詳細な説明をアルベルト達ヤングチームへとする。


 魔族が人族を育てている。


 それも一から。


 即ちそれは人族を繁殖させているということ。


 そこに本人たちの意思があるかどうかは不明だが。


 まぁ、魔族に〝育てられて″いる時点で本人たちの意思はないだろうけど。


 そして赤ん坊から育てることで人族の価値観ではなく、魔族の都合のいい価値観を刷り込んでいることを説明した。


「ちょっ! なんだよそれ! 人族を何だと思っていやがる! それじゃあ本当に家畜じゃないか!」


「ああ……! 私が本当に救うべき者はこの地に居たのですね。女神Alice様、私に彼らを救う力をお貸しください……!」


 悪ぶって大人びているが実際はまだお子様なアルベルトと、女神Alice神教の〝勇″の枢機卿であり聖女でもあるパトリシアは案の定〝人族牧場″の存在に激怒していた。


 他のヤングチームのクーガー、ディーノ、リュキは怒るのは怒っていたが、2人程ではなく、どこか納得した感じでもあったみたいだ。


 ファイは……もともと感情の起伏が無く、エルフの長寿の価値観もあってかまだよく分からない顔をして首を傾げていた。


 ……そう言えばジジィも居たな。


 奴は何故か皆を孫を見るような温かい目で見ててが。


 こういう時は大人しくオブザーバーしやがって。


 そしてジルは……さっきまでの怒りは鳴りを潜め、やたら神妙に頷いてたりする。


『おーい、ジルさんや。さっきまで怒っていたのにどうした?』


「(うーんー、話を聞いたら妙に納得しちゃってー。確かに人族として許せないことだけど、確かに効率的に魔族に有用な人族を育てるのにはうってつけだと思っちゃってー)」


 あー……、そういやジルの価値観も割と微妙だったりするからなぁ~。


 ただでさえ、20年も迷宮大森林に閉じ込められていたからちゃんとした教育は無いに等しいんだよな。


 一応、俺やあいつらが教育を施したが、俺の異世界の価値観や、あいつらの中と外の価値観が微妙にずれていたりするし。


「それで、どうするんだ?」


「どうするって?」


「あーっと、〝人族牧場″の奴らを助けるかどうかだな。あそこに居る奴らは自分たちの置かれた環境に疑問を感じないし、それが当たり前だと思っている。寧ろ今の環境が変わることで不満が生じる可能性がある。それでも〝助ける″か?」


「助けるに決まっているだろ!」


「ここで見捨てるなんてあり得ません!」


 ブラストールの助けるか?質問に即答するアルベルトとパトリシア。


 2人ならそう言うだろうと思ったよ。


 まぁ、助けた後のことはその時考えればいいか。












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― 新着の感想 ―
[一言] それは人族を繁殖させている、アルに見せない方が良いのでは(R指定的な意味で)
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