Side-33.ジョーカー6
「なんっだこりゃぁ……」
ボクはその光景を見て思わず唖然とした。
ガダム村は周囲を5mもある防壁に囲まれており、村人は手に弓や槍などをもって武装していたからだ。
おまけに……何故か人族、それも魔族にとってとびっきり厄介な勇者パーティーが居たからだ。
最初は勇者パーティーがガダム村を襲撃したのかと思ったが、よく見れば村人たちと協力して防壁の外を攻撃している。
暫く来ない間に何があった……?
「おい、村長は居るか!?」
「おおっ……! ジョーカー様ではありませんか! よもや我々は見捨てられたのかと思っておりましたが、我らのピンチを察して駆けつけてくれたのですね」
村長を探すとすぐ傍に居たのかボクの前に駆け寄ってくる。
「どういうことだ? 見捨てたって、ボクはこの村には手を出さないように指示を出していたはずだ。まさか……外で攻撃を仕掛けてきているのは魔王軍だというのか!?」
「やはり、ジョーカー様の指示ではありませんでしたか……。魔王軍の新緑軍が現れて、難民の為にこの村を接収すると。そして我々は魔族として役立たずから村から出ていくように言われました。ですが、丁度村に滞在していた勇者様たちが村を守るために手を貸してくれたのです」
うん……? そもそも村に勇者が普通に居る時点で可笑しいんだが……
いや、今はそこを気にしている場合じゃないな。
「新緑軍と言ったか。あいつらか……」
魔王軍には6つの軍が存在する。
それぞれの四天王を軍団長とした紅蓮軍、蒼天軍、黄金軍、灰塵軍の4つ。
いわばエリート軍だな。
残りの2つは暗殺などの影の仕事をする紫電軍と上級兵や下級兵を取りまとめる新緑軍だ。
紫電軍は奇襲や罠などを駆使して戦うため、他の魔族から嫌われている軍でもある。
新緑軍は有象無象の兵が大勢いる為、アクの強い魔族が居たりする。
だが、魔王軍と言えば殆どの兵が新緑軍の兵となっている。
ドワーフの国を管理していた兵も新緑軍であり、解放戦に参加していたのも大半が新緑軍の兵だ。
もしかしたらガダム村を接収しに来た新緑軍は、今まで西大陸にいたから俺が出した指示を知らないのかもしれないな。
……いや、だったらこんな僻地に村があることなんて知らないはずだ。
「ちっ、その新緑軍の魔族と一度話さないといけないな」
「話を聞いてくれるでしょうか……? 彼らは一方的に我々を非難して追い出そうとしている輩です」
「心配するな、村長。ボクはこう見えても魔王四天王の一角だぞ。誰が率いているのか知らないが、魔王軍では四天王より偉い奴は魔王様しかいないよ」
そうだ。このボクが出した指示を無視してガダム村を襲っているんだ。知らなかったとはいえそれなりの罰が必要だな。
「貴方を信じてもいいのですね」
それまで黙ってボクと村長のやり取りを見てた勇者パーティーの聖女が話しかけてきた。
傍には護衛なのか、男が3人ほど付き添っている。
見た感じ、どの男も戦闘を生業とした奴じゃないな。
かろうじて、ドワーフと思しき男が戦える感じか?
「なんであんたらがこの村を守っているか知らないが、この村はボクにとってもほっとけない村なんでね。別に信じてくれなくてもいいが、守るためには力を惜しまないさ」
「分かりました。今は互いに争う意図はないということで、一時休戦と致します」
それはこっちからも願ったりだ。
流石に負けることはないが、ガダム村を守りながらの勇者パーティーと戦うのは至難の業だからな。
聖女の言葉を信じながら、時空波紋を呼び起こし村の外の防壁の向こうへと跳ぶ。
「なっ!?」
突然目の前に現れたボクに驚愕していたのは、新緑軍の第3位エフキュー・ワンだった。
こいつか……!
エフキューは根っからの魔族主義の男だ。
ガダム村のような弱い魔族や闘争本能がない魔族をひどく毛嫌いしている。
しかも、自らの手を汚さずに大量のゴブリンを嗾けて悦に浸る支配者気取りの魔族でもある。
多分その所為か、【支配者】スキルを持つボクを目の敵にもしたりしている。
まさか、それが原因でガダム村を襲ったんじゃないだろうな。
「これはこれは、四天王のジョージョー様じゃないですか。何ですか? わざわざ我々の手助けに来たとでも?」
「今すぐゴブリンを引かせろ。この村には手を出すなとボクの指示が出ていたはずだ」
「ええ、聞いていますとも。ガダム村には手を出すな、と。ジョージョー様の指示でね」
「なら今すぐ手を引け」
「いえ、それは聞き入れられません」
「お前……四天王に逆らうのか?」
「ジョージョー様こそ何をとち狂ったことを言っているのですか? 我々はガルドドフを追われた魔族が住まう地を確保しに来たんですよ。言わば人族に負けた貴方方四天王の尻拭いをしに来たわけです」
ちっ、痛いところを突いてくる。
「そもそも手を出すなと言う指示は平時の時のもの。今は緊急時なのです。目の前に活用できる施設があるのに手を出さない方がどうかしている!」
「そこに住まう魔族を追い出してまですることじゃないだろ。魔王軍が魔族に仇をなしてまですることか?」
「魔族! あーーはっはっはっ! あいつらが魔族! 可笑しなことを言わないでください。あいつらは魔族じゃない。ただの負け犬ですよ」
「どうあっても引かないのか?」
「四天王だからと言って調子に乗るな。引いてほしければ力尽くで引かせて見せろや。魔族らしくな。ああ、ついでにここでお前を倒して俺が代わりに四天王になってやる」
先ほどまでの丁寧な態度が一変して、ついにはボクに弓を引く態度を見せる。
「そうかよ。だったら言葉通り力尽くでも引かせてやる。ボクを侮ったことをあの世で後悔しろ」
あああ、やっぱりこうなってしまったか。
だがまぁ、こっちの方が一番手っ取り早いと思うのはボクも魔族だということなのかもしれないな。




