204.臆病者の村
魔族の少女――ディスティに案内されながらアルベルトたちは彼女の村へと向かう。
一応、先行させてクローディアに村の様子を見てきてもらったが、ディスティの村はごく普通の村の様だった。
「標準の魔族の村がどういったものか分かりませんが、わたくしが見た限りでは人族の村のように穏やかな村に見えましたね」
「変わり者の村と言うくらいだ。標準な魔族の村に当てはめるのも違うだろう」
「だが、人間は怖いから近づくなって言う注意をディスティは受けているぞ。それって人族と敵対しているからじゃないか?」
「自衛の為の注意ってこともあるよー。子供には危ないことに近づくなってー」
ジルさんよ。お前がそんなことを言っても説得力がないぞ。
だがまぁ、ジルの言い分が正しいような気がするな。
ブラストールが言うように敵対している可能性もあるが、どちらかと言うと争い事から逃げている節を感じるな。
もし、好戦的な魔族だったらこんな僻地にある村だろうが、村の様子も物々しいはずだ。
クローディアが見てきた限りじゃそんな風には見えなかったらしいので、アルベルトたちはまっすぐにディスティの村へと向かっている訳だ。
「あ! 見えてきたよ! あそこがあたしの村、ガダム村よ! ね、アル君をおじいちゃんに紹介したいから早く行こ!」
ディスティは自分の言葉に顔を真っ赤にしながら、アルベルトの手を引っ張って村の中へ走っていく。
「ちょっ、ちょっと待って下さい! いきなり私たちが村の中へ入るのは危険です! 一端、入り口で事情を話しておかないと……って」
パトリシアがディスティに注意をしようとするも、舞い上がっている所為かパトリシアの声が届かずそのままアルベルトを連れて村の中へと入って行ってしまった。
「かかか、恋する乙女は盲目だねぇ。俺っち、そんな女は嫌いじゃないが、流石にこの状況じゃマズいかもな」
「そうッスね。早いところアルベルトを追いかけないといけないッス」
アルベルトが村の中へ入ったことで、村の魔族が徐々に騒ぎ出していた。
「一応、ディーノたち後方支援部隊は村の外で待機しておいてー。安全が確認されたら呼ぶからー」
一応、非戦闘部隊である後方支援部隊はいざという時の逃走経路確保のため、村の外で待機だ。
因みにマックスは犬サイズまで小さくなってアルベルトたちに付いてきてもらっている。
流石に8mを超える巨体のままじゃ怯えさせるからな。
と思っていたんだが……
「人族だ……人族がいるぞ!!」
「逃げろ! 人族が攻めてきたぞ――――!!」
「きゃ―――!」
「うわぁ――――! こ、殺される―――!」
……あれ? 思っていたのと反応が違うぞ!?
あ、いや、変わり者の村だと言うから普通じゃない反応があるとは思っていたが、まさか魔族が人族に怯えて逃げ出すとは思わなかったぞ。
「これは予想外でござるな。いくら変わり者の村とはいえ、我々人族を見れば敵視さえると思っていたでござるが……」
「……本気で怯えてる」
正確には、逃げ出そうとしているが、あまりの怯えっぷりに足がすくんで思うように逃げられていなかったが。
「ちょっ、ちょっと待って皆ー! この人たちはいい人族だよ! あたしを助けてくれたんだから怖がらなくてもいいよ!」
ディスティが自分のしたことがマズいと感じ、慌てて言い訳をしながら大丈夫だと安全を訴えるが、村人はパニックを起こしディスティの声は届いていなかった。
『おいおい、こいつら本当に魔族か? 腰抜けっぷりもいいとじゃねぇか』
『確かにこの怯えっぷりは魔族らしくありませんね』
『何かあたい、イライラしてきた。曲がった奴も嫌いだけど、腰抜けすぎるのも嫌いだな』
『でも、僕は、この人たちの、気持ち、分かるょ。だって、怖いものは、怖いもの……』
へきちゃんは小心者だからなぁ。
逆に姉御肌のめーちゃんや闘争心の塊のはーちゃんは、この魔族の姿は面白くないのだろう。
ぼーちゃんは冷静に分析しているね。
まぁ、俺もだけど。
見たところ、悪魔族が8割、妖魔族が約2割、ほか種族が若干名と言ったところか。
人族に人間、エルフ、ドワーフ、獣人と言ったように、魔族にもいろいろな種族が存在する。
魔族の7割が悪魔族で、見た目が人間と同じだが身体能力や魔力が人間とは桁違いの種族だ。
悪魔族は人間よりも優れた種族だとプライドを持っており、なまじ人間と見た目が同じことから、人間より下に見られるのが死ぬほど嫌がる。
そう言った種族感情が人族と魔族の戦争の一因となっていたりする。
次に多いのが、妖魔族で魔族の2割を占めている。
妖魔族も見た目は人間と同じだが、特徴として角や悪魔の翼と言った人外の外見をしている。
俺としてはこっちの方が悪魔族って名乗った方がいいよう気がするんだがな。
こっちの種族も人間に近い所為か、人間をひどく毛嫌いしている。
残りの1割には牛魔族や天魔族、降魔族と言ったレア種族がいる。
牛魔族は見た目が牛の魔族だ。
ミノタウロスとか想像してもらえれば分かりやすいだろう。
何代か前の魔王が牛魔族で、自分の種族を優遇した結果、魔族内でもそれなりに地位を確保しているらしい。
似たような種族では馬魔族、山羊魔族、蛇魔族なんかが居たりする。
天魔族は魔族の中でも激レア種族で、人族で言えば龍人のような存在だ。
あらゆる魔族の中で全てにおいて頂点に立つ種族だ。
それ故に、他種族のことに関心がなく、人族との戦争にもあまり興味を示さずに、奥地で隠れ住んでいるらしい。
降魔族も激レア種族で、変身種族だったりする。
普段は人間のようにひ弱な体をしているが、変身すると竜種や巨人種、魔人種と言った強靭な肉体を持つという。
この変わり者の村――ガダム村は一般的な魔族の種族が住まう村のようだが……あまりにも悪魔族や妖魔族の姿とはかけ離れているな。
村人がパニックになり、ディスティが事態を納められずに目に涙をため始めた頃、騒ぎを聞き駆けつけてきた1人の中年くらいの魔族が一括して場を納める。
「皆さん! 落ち着いてください! 見てください、彼らは我々を襲おうとはしていません! 武器も構えてません! 我々と冷静に話し合うために来ているのです!」




