190.撤退
こちら側で無事なのは、アルベルトとパトリシア、ジルとジジイの4人だけ。
他のメンバーは命は無事とは言え、満身創痍だ。
「パトリシアー、ヒビキ達の怪我の具合はー?」
「回復はしますけど、効果はゆっくりです。完治にはしばらくかかりそうです」
ふむ、【覇道剣】には治癒疎外の効果があるのか?
まぁ、向こう側もまともに動けるのはユーユーただ1人だが。
金ぴかは死亡。ジージーは行動不能。
ユーユーを倒すのにチャンスなのだが、ジルは迷わず撤退を決めた。
当初の目的である、王都ドワルコフ中心部に何があるのかの原因が分かったからな。
その原因の保護も完了しているし。
解決策はこの後見つければいいのであって、今すぐって訳じゃない。
だから今は撤退するのが正解だ。
「ここは一旦引くよー。おじーちゃんは殿をお願いー」
「向こうの様子からすれば心配する事は無いが、用心に越した事はないじゃろう」
「ちょっと待ってよ、姉さん。今、ユーユーを倒すチャンスじゃん! 俺と姉さんと爺さんとで掛かれば倒せるよ!」
ただ、アルベルトはこの撤退には反対だった。
パッと見ればチャンスにしか見えないからな。
「くっ、ヴィスキーはやられましたか。ジージー、Youは無事ですか?」
「無事とは言い難いわい。命に別状はないが、少なくとも戦線復帰には時間が掛かるぞ」
「追撃のチャンスなのですが、仕方ありませんね。どうやら向こう側も引いてくれそうですのでこちらも引きますよ」
「了解じゃ」
向こうの様子を伺えば、どうやらあちら側も撤退を決めているようだ。
「ダメよー。ここは引く場面なのー。チャンスのようにも見えるけど、実はこっちの方がピンチなんだよー」
「このまま押しきれないのか……?」
「無理だねー。けが人が多いのはこっちだし、ユーユーの【覇道剣】を喰らえば一気に私達も戦闘不能になっちゃうよー」
「ぐ……」
【覇道剣】の威力を間近で感じたアルベルトとしては、そう言われれば納得せざるを得なかったみたいだ。
それに、敵はユーユーだけじゃないからな。
「どうやらお困りのようだね? ユーユー」
「相変わらず絶妙のタイミングで現れますね、ジョージョー」
気が付けば、ユーユー達の傍には四天王の1人であるジョージョーが立っていた。
相変わらず奇妙なポーズでその存在感を出している。
そして神獣の森から連れ出した“世界の覇者”の神兵ゴーレムも連れている。
ジョージョーと“世界の覇者”が現れたのは突然だ。
無論警戒しており、俺の【気配探知】や【索敵】に引っかかった覚えはない。
おそらく、時空波紋で移動してきたのだろう。
「ここは魔族が居なくなっちゃったけど、まだ敵地だからねー。警戒しておくに越した事はないよー」
「分かった。今は皆の方が大事だからな。撤退しよう」
ようやく分かってくれたアルベルトは、怪我した皆と未だ腹減ったと叫んでいるシーザをマックスへ乗せて撤退する。
ジルはパトリシアをふーちゃんへ乗せて、マックスの左右をジルとアルベルトで警戒しながらディーノ達の待つ馬車へと向かう。
ジジイも新たに増えたジョージョーを警戒しながらも殿を務めながら撤退する。
馬車までの道のりは、追撃を警戒していたが何事も無く無事に辿り着いた。
無事に辿り着いたのだが……
「ちょっ、あれ、襲撃を受けてないか!?」
「うむ、どう見ても襲われておるのぅ」
まだ距離はあるが、アルベルトが馬車の方を指さして、待機していた馬車が襲撃されていると叫ぶ。
ジジイが指で輪を作って望遠のように見て、間違いないと言うが、こちらは距離があってその様子はまだ見えない。
ちっ、今の王都ドワルコフの様子から無いとは思っていたが、戦闘部隊が離れた隙を狙って後方支援を襲ったか。
俺は慌てて【気配探知】や【魔力探知】【索敵】を走らせ後方支援部隊を襲っている連中の情報を調べる。
……ん? 襲っているのは1人、か?
もう1人は様子を伺っている、だけ?
しかも襲っている1人は、あった事がある人物だ。
ジル達が馬車へ近づくと、馬車は新たに設置した魔道具のバリアにより守られており、バリアの外ではリュキとフレイドの2人が戦っていた。
どうやらクローディアはまだ戻ってきていないようだな。
戦えないクーガーとディーノは馬車のバリア内で2人の戦っている様子を伺っている。
リュキとフレイドの2人と戦っていたのは、何と追い返したはずのダイガディンだった。
もう1人は建物の影から様子を伺っているようで、姿は見えない。
「正義の名のもとに、リュキュルシア、お前を討つ!」
「人の話を聞かない人が正義を語らないで下さい」
「正義の味方を名乗るのなら、まずは魔族に奪われたドワーフの国を解放しろよ!」
フレイドが真正面からダイガディンの攻撃を受けて、サポートとしてリュキが援護していた。
フレイドが炎を纏った大剣を振り回し、ダイガディンはそれに臆して攻めあぐねている状態だ。
リュキの時も思ったが、ダイガディンって思ったよりも大したことない……?
それともリュキとフレイドの2人が思った以上に戦えたのか?
「シーザの仇は俺が討つ! 大人しく裁きを受けろ、リュキュルシア!」
「あたしの名前、呼んだ?」
ダイガディンとの戦闘に参加しようと、まずは馬車のバリア内に怪我人等を批難させていたが、名前を呼ばれたシーザがダイガディンに思わず話しかける。
突然聞こえてきた声に、ダイガディンがそちらに目を向け思わず目を剥いて動きが止まる。
「シ、シーザ!? 何故シーザが生きている!?」




