186.暴食の生贄
「放してー! はーなーしーてー! おーなーかーすーいーたー!」
魔法の鎖に捉われているシーザが喚くも、ユーユーもジージーもまったく取り合わない。
「いいもん、いいもん、だったらこの鎖を食べちゃうもん!」
そして業を煮やしたシーザはあろうことか、魔法の鎖を食べ始めた。
自らを縛っていた鎖を総べて食べ終えたシーザは、満足するどころか益々お腹を空かせたらしく、自由になった途端に駆け出して食べ物を捜しに行こうとする。
「あ、こら、大人しくしてなさい。【チェーンバインド】」
だが、直ぐにユーユーが魔法の鎖で再びシーザの身柄を拘束する。
「放してよー! いーやー! 何で私を縛るのー!?」
「いやいや、何でと聞かれれば、お主のその底なしの食欲の所為じゃろうて。何でも食べてしまう暴食は野放しには出来ないのでのぅ。現に、王都の城が更地になるくらい食べたじゃないか」
「だってお腹すいたんだもん!」
そんなやり取りを、アルベルト達は呆然として眺めていた。
いや、一応、ユーユー達四天王を警戒はしているが。
「ちょっと待て。あれが、もしかして魔王の欠片保持者なのか?」
流石にシーザが魔王の欠片を持っていることに気が付いたアルベルト。
「そうみたいでござるな。いやはや、まさか暴食とは。なるほど、王城があった場所が更地なのはその所為なのでござるな」
「あとー、ついでに言えば、きゅーちゃんが言うにはあの女の子はシーザだってー」
「はぁ!? シーザってリュキ殿の妹君であるミラーワルド王国の王女の? 殺されたって言われてた?」
「うんー、そうー」
まぁ、ブラストールが驚くのは無理もない。
魔王の欠片を宿したシーザが殺されたと虚偽の情報をダイガディンに与え、リュキを狙う様に仕向けながら、実はシーザを王都ドワルコフに放ち魔族にダメージを与える一石二鳥の作戦だってわけだ。
第2王位継承者のオウシャってのは、かなりの策士だな。
「うわぁ……自分の妹も己の策に利用するって……王族の業なのか、オウシャが容赦ないのか」
どうやらブラストールもオウシャの策に気が付いたようだ。
まぁ、気が付いたところでシーザを排除しない事にはこのままだと王都ドワルコフの崩壊は免れないからどうにかしないといけないのだが。
つーか、オウシャはどうやって魔王の欠片を手に入れた?
どうやってシーザに与えたんだ?
……考察は後だな。今はとにかく現状を何とかしないと。
「Youは今は大人しくしてなさい。我々はこれから勇者一行と剣を交えないといけないのですから」
「そうじゃな。儂はあの気味が悪いほど儂に似ている爺さんに聞きたいこともあるしの」
そう言ってユーユーとジージーはそれぞれの武器を構える。
ユーユーは剣を。
ジージーは身の丈もある巨大な戦鎚を。
「まぁ、シーザって王女も気になるが、今は目の前の四天王が先だな。なぁ爺さん。あの爺さんそっくりさんは何者なんだ?」
「うむ、あれは若気の至りじゃな」
「……はぁ?」
アルベルトの尤もな疑問に、ジジイはちょっと恥ずかしげに答えた。
その思いがけない答えに一同は呆れた。
「御老人。その、若気の至りと言うのは、若い時にやらかしたと言う認識で間違いないか?」
「……うむ。その認識で間違っては無いの」
「ちょっと待つでござる。それが事実だとしても、何故ああまでそっくりなのでござるか!? 若い時はまだしも、年老いてもここまでそっくりなのはおかしいでござろう!?」
そうなんだよな。
歳の取り方は人それぞれだから、同じように老いていくは無いはずなんだが。
「そこは謎のジジイじゃから、としか言いようがないかの」
「随分と都合のいい言葉でござるな! 『謎のジジイ』って!」
半ばキレ気味で突っ込むヒビキは悪くないと思う。
「と言うか、いいのですか? もしその話が本当だとすれば、あのジージーは謎のジジイ様の御子息と言う事になりますが」
「なぁに、構わんよ。向こうは儂の血を引いておるが、魔族じゃ。人族に仇を成す輩に情けを掛ける必要はあるまい。それに……ああいった汚点を一刻も早く摘み取りたいしのぅ」
聖職者であるパトリシアだが、流石に謎のジジイの汚点と言う答えには侮蔑の視線を向けていた。
「やー! とー!」
ユーユーとジージーを迎え撃つ準備をしている所に、唐突にジルがぼーちゃんをアルベルトとパトリシアの前に振りかざし何かを叩き落とす。
「―――っ!?」
突然のジルの行動に一同は目を見張るが、直ぐにその理由に気が付く。
いつの間にか、目の前にあの金ぴか魔族が居たのだ。
その姿に反し、無表情無口のまま剣を振るう。
ジルはぼーちゃんで数回の斬撃を弾き、やーちゃんで手首を利かせたスナップスローで放つも、目の前から姿を眩ましやーちゃんの攻撃を逃れた。
「やはり我の攻撃はお主には効かぬのだな! 完璧に不意を打ったつもりだが、見事に裁かれてしまった!」
目の前にいたはずの金ぴか魔族は、今度はユーユー達の傍に現れ、今度は逆にその存在感を醸し出し皆の目を引き付けていた。
くそ! 相変わらず俺だけにはあの金ぴか魔族の【路傍石】が見破れねぇ!
「あの金ぴか魔族は私が相手するからアル君たちはユーユーをお願いー」
「なら儂はジージーの相手をしよう。儂自らの手で過ちを拭おうか」
「よし、金ぴか魔族は姉さんが、ジージーは爺さんに、俺達はユーユーを相手取る。なんとかシーザから引き離すから、パトリシアはシーザを保護してくれ。マックスはパトリシアの護衛だ」
アルベルトの指示の下、一行は四天王+αへと向かって行く。




