Side-18.リュキュルシア1
私の名前はリュキュルシア・キ・ド・シンジドラゴン。
勇者アルベルト様のメイドです。
そしてミラーワルド王国の第3王女で、第13王位継承者でもあります。
何故、第3王女でありながら第13位王位継承者なのかと言えば、ミラーワルド王国の王位継承が独特だからです。
王子王女として生まれると、王玉と言う宝石が3つ与えられます。
今代王が退位し、次代の王を決める時にその王玉を多く持っている者が次代の王となります。
但し、王の子の数だけ王玉を持っているのが最低限のルールとなっております。
今代の王は子を13人設けており、故に次代の王になるには13個の王玉が必要となるのです。
ここまで言えばお分かりの通り、私は1つも王玉を持っておりません。
それ故に最下位の第13王位継承者なのです。
そう、私は王位には興味がありません。
私が成りたいのはメイドです。
何故、王女でありながらメイドを望むのかと言えば、母の影響でしょう。
私の母は、元はミラーワルド王国の王宮に努めるメイドでした。
そこで陛下に見初められ、側妃として王族の一員となったそうです。
幼い頃の私は、そんな母に羨望の眼差しを向けていました。
下級貴族の出自から、王族になるまでのサクセスストーリーに心を躍らされたものです。
ですが物事の分別が付く頃になると、そうではなかった事に気が付きます。
母は、最初は妾として陛下に囲われ、兄を身ごもった事で側室になったと言う事を。
そうして王族の一員となった母でしたが、それは決して夢物語に出てくるような、優雅な生活ではなかったそうです。
まぁ、考えれば分かる事ですが、母の他にも数人の側妃や正妃が居る訳ですので、所謂後宮の権力争いに巻き込まれたわけです。
そんな泥沼の権力争いを母は苦しいながらも乗り切り、陛下の2人目の子――すなわち私を産みました。
そして母は、私を王位継承の争いに巻き込まれない様にと、メイドの教育を施したのです。
幼いころからメイドとして教育を受けた影響もあるでしょうが、私は人に仕える事に喜びを覚え、進んでメイドの道を選びました。
そうなると、王玉は持っているだけでも王位継承の争いに巻き込まれる火種なので、リュカロロス兄上――リュカ兄に王玉を3つとも渡しました。
リュカ兄は母も目を剥くほど王族として目覚ましい成長をしていたので、私からの喜んで王玉を受けとり、更には他の王玉を偵入れるなどして第4王位継承者にまでなったのです。
リュカ兄曰く、ある程度の王位継承者であればそれなりに権力が使え、極端に命を狙われることが無いそうです。
まぁ、全ての王玉を渡し、最下位の打13王位継承者に成った私には関係のない話ですが。
そうして私は王位継承を放棄し、メイドとして生きるためにオリジャル・バトラーメイド養成学校に入学しました。
そこで優秀な成績を修めた私は首席で卒業し、その縁から勇者として魔王を倒す旅に出るアルベルト様の世話係のメイドとしてお仕えすることになったのです。
私はこれを天命と受け取り、喜びに打ち震えました。
アルベルト様や姉君のジルベール様、聖女のパトリシア様や聖騎士のブラストール様など、勇者パーティーのお世話をするのはこの上なく充実し、楽しい日々を過ごせました。
ですが、私に流れるミラーワルド王国の王族の血がそれを許してはくれませんでした。
王玉を持たないはずの私に、勇者に仕える事になった事で“価値”が生まれたのです。
それが面白くなかったのが、尤も王位を狙っているオウシャ・アサク・ラ・タケシスネイク兄上です。
そしてオウシャ兄上の画策で今、私の目の前に立っているのがダイガディン・ト・ウジョ・ウサトルタイガが私を批難しています。
彼は正義を愛し、愛しすぎるが故に周りを省みずに正義を押し付けるきらいがあります。
おそらくそれをオウシャ兄上に利用されたのでしょう。
私が第5王女の第10位王位継承者のシーザ・ス・ドウマ・サシキャンサの命を殺め、王玉を奪ったと言うのです。
少し考えれば不可能であり、そうする理由が無いのですが、正義に目がくらんでいるダイガディンは私を“悪”と決めつけ、正義の裁きを下そうとしています。
「さぁ! 正義の王の裁きを受けよ!」
まだ王にもなっていないのに、正義の王を名乗るとは……
それ程自信があるのか、あるいは只の自惚れなのか。
ダイガディンは白馬に備え付けたバトルアックスを手に取り、私に向かって振り下ろします。
アルベルト様やブラストール様が私を庇おうと動こうとしますが、私はそれを制し、スカートの中から太腿に忍ばせた短剣を手に取りダイガディンと対峙します。
私はダイガディンのバトルアックスの攻撃を僅かに動く事で躱しつつ、【姫騎士】のスキルで白馬に乗ったダイガディンの背後を取り、首筋に短剣の柄を当てて気絶させます。
「殺さなかったのか?」
「殺す必要はありません。それに私はメイドです。命を奪うのが仕事ではありません」
アルベルト様は分かってはいますが、敢えて私に聞いてきました。
「確かにな。リュキはメイドだ。主人の世話をするのが仕事だ」
そう言いながらアルベルト様は笑います。
そうです。
私は誰が何と言おうが、オウシャ兄上が王族として命を狙おうが、他の王子王女が王族としての責務を迫ろうがメイドです。
勇者アルベルト様に仕えるメイドなのです。




