183.正義の王
どうやって王都ドワルコフへ侵入しようか作戦を立てていると、俺の【気配察知】や【索敵】に反応があった。
王都からではなく、反対側からだ。
『ジル、誰か来る』
ジルは俺の言葉に誰かが来る方角に集中して気配を感じとり、皆に注意を促す。
「皆ー、誰か来るよー。移動速度からして馬かなー?」
戦闘要員であるアルベルトとブラストール、ゴダーダ、パトリシアは直ぐに馬車の外得出て警戒態勢を取る。
他のメンバーも馬車から出て戦闘要員の後方から様子を伺っていた。
暫くすると、白馬に乗った男がアルベルト達の前に姿を現した。
「ようやく追いついたぞ! さぁ! 覚悟するがいい、リュキュルシア!」
……はぁ?
え? こいつの目的ってリュキ?
そういや、リュキはミラーワルド王国の王位継承問題の渦中の人物だったな。
ってことは、この白馬の男はリュキを始末しに来たって事か? 白昼堂々と。
白馬に乗った男は10代半ばの青髪でイケメンフェイスの好青年に見えるが、白馬の上からなのか、どうも見下した態度が気に食わない。
いやいや、決してイケメンだからって訳じゃいぞ。
「ダイガディン……何を言っているのですか?」
リュキは敢えてアルベルト達の前に出て、ダイガディンに何を言っているのかを問いただした。
「ふん、いい訳か? 見苦しい。お前がシーザを殺して王玉を奪ったのは分かっているんだぞ!」
…………はぁ?
リュキはずっとアルベルト達と一緒に居たからそんな事は不可能なんだけど。
と言うか、リュキは王位継承を放棄しているから(実際には本人の意思だけで継承権は残っている)王玉なんて1個も持ってないんだけど。
「ダイガディン……何を言っているのですか?」
うん、リュキも2度目の同じセリフがでました。
「リュキは私達と一緒に居たからそのシーザって子を殺すことは出来ないよー?」
「そもそもリュキは継承権を放棄したから王玉を1個も持ってないぞ」
ジルとアルベルトの言葉に、ダイガディンは馬鹿にしたように口を開く。
「勇者アルベルトか。ふん、勇者も地に落ちたな。まさかリュキュルシアのシーザ殺害計画の片棒を担ぐとは。勇者の名があれば無実に出来ると思っていたのか? そうはさせん。この私が! ダイガディン・ト・ウジョ・ウサトルタイガが正義の王の名のもとに裁きを下す!」
開いた口が塞がらないとはこの事だろうな。
アルベルトもパトリシアも、誰もがダイガディンの言葉に呆れかえっていた。
「(きゅーちゃんー、この人、私達の話聞いてないよー)」
『あー、こう言った輩に正論をぶつけるだけ無駄だ。なんせ自分の事しか考えてないからな』
ダイガディンは自分の価値観の正義だけで物事を計る、自己中正義の味方だろう。
何処で仕入れた情報かは知らないが、まずシーザって子をリュキが殺したと決めつけている時点で自分の中の正義で凝り固まっている。
後はそこから芋づる式に、リュキにかかわった奴らは悪なんだろう。
だから勇者であるアルベルトが何を言おうとも、アルベルト達もリュキに味方する悪となる訳だ。
自分が正しい、自分に逆らう奴は悪だと。
「リュキ、シーザってのは王位継承者なのか?」
「はい、王玉を1個しか持たない10歳になる第11位王位継承者の王女でございます」
ダイガディンに聞こえない様にアルベルトがリュキに小声で尋ねる。
他の王位継承者が、ほぼ王位継承権が無い奴を殺して王玉を手にし、それをリュキに擦り付けたってところか。
「私がシーザを殺したと言う証拠は有りますか? そもそもその情報は何処から入手したのですか?」
「オウシャ兄上から全て聞いた。優秀なオウシャ兄上が間違った事を言うはずがない。リュキュルシア、お前がシーザを殺したんだ」
あー、確か第2位王位継承者だったけ? オウシャって。
こいつが犯人か。
つーか、間違った事を言うはずがないって、思いっきり間違った事を言ってますよ。
ダイガディン、がっつり利用されてるじゃん。
「はぁ、何故オウシャ兄上が間違った事を言わないと言い切れるのですか? 貴方思いっきりオウシャ兄上に利用されてますよ?」
あの完璧メイドのリュキがため息ついたよ。
「オウシャ兄上が優秀だと言うのはリュキュルシアも知っているだろう。だから私が利用しているのだ。利用されているのではない、私がオウシャ兄上を利用されているふりをして情報を仕入れたのだ!」
「でしたら、私を標的にするのではなく、オウシャ兄上を相手にすればいいじゃないですか」
「何を言う。今の私がオウシャ兄上に敵うはずが無かろう。だからお前の様な悪を相手にして実力を付けていずれオウシャ兄上に挑むのだ。だから私の糧となれ! そして正義の王となる私の裁きを受けろ!」
うわぁ……
こいつトップには敵わないから弱い者いじめして力を付けますよって宣言してるよ。
正義の王を名乗っているのに。
自分の実力を正確に把握している優秀な人物だと言うべきか、それとも弱い者しか相手にしない屑と呼ぶべきか。
「私は貴方に裁かれる謂れはありません。証拠も無いわけですし。第一、シーザは王位継承戦を乗り切るだけの力が無かっただけの事ではないのですか? それで私が責められるのは間違っているような気がしますが」
「証拠はオウシャ兄上の証言だ。それにシーザは確かに王位継承戦を乗り切るだけの力が無かったと言えよう。だからと言って人を殺していい訳がない」
「ですから、私はやってないと……はぁ、幾ら言っても無駄ですね」
「(うわー、きゅーちゃんの言う通り、あの人聞いているようで聞いてないねー)」




