180.プチ世界樹
【プレッシャーキューブ】は超高水圧の塊だが、水であることには間違いない。
俺はそこに目を付けた。
水であるなら、吸収してしまえばいいのではないかと。植物で。
勿論、普通の植物で1万mもの水を吸収できるわけがないので、それ相応の植物が必要になってくる。
まぁ、普通であればそんな植物は無いのだが、ここはファンタジーの世界。
あるんだよ、それ相応の植物が。それも飛び切りの。
俺は蔦を呼び出し拘束する魔法の【ソーンバインド】を【森羅万象】で改良し、【プレッシャーキューブ】を吸収できる植物で拘束する魔法を創り上げる。
『ジル、待たせたな! こっからは俺達のターンだ!
――【イグドラシルバインド】!!』
ジルやマードックたちに襲い掛かろうとしていた【プレッシャーキューブ】は、突如地面から生えてきた樹の根によって阻まれた。
【プレッシャーキューブ】は水圧で押し潰そうと根をキューブの中に取り込むが、逆に【プレッシャーキューブ】が根に吸収されて、どんどん小さくなり終いには消えて無くなってしまった。
「なっ……!? 馬鹿なっ! 妾の【プレッシャーキューブ】が消えて無くなったじゃとっ!? あり得ぬ。どんな絡繰りを使えば【プレッシャーキューブ】を消し去れると言うのじゃ!!?」
「見て分かる通り、樹の根に【プレッシャーキューブ】の水を吸収させたんだよー。もうこれで貴女の【水魔法】は攻略済みだねー」
「何を言う……! 普通の樹に【プレッシャーキューブ】の水を吸収できるはずが無かろう。あれの水量はお主らの想像を超えた水量なのじゃぞ!」
怒りを顕わにジルを睨みつけるディードリッド。
まぁ、この世界の住人じゃ深海1万mの水圧や水量なんかを想像できないだろうからな。
「けど現に、こうして樹の根がキューブの水を吸い込んでいるよー?」
「何なのじゃ……この樹の根は……!」
「きゅーちゃんが言うには、イグドラシル――世界樹の根だってー」
「は……?」
そう、ファンタジーの定番中の定番。
俺が【ソーンバインド】に組み込んだ植物は世界樹だ。
世界樹なら、深海1万mの水すらも吸収できるだろうさ。
なんたって世界樹だからな!
「ふ、ふざけるでない! 世界を支えると言われている世界樹を魔法に組み込むじゃと!? あり得ぬ! どれだけの技術と時間があれば可能だと言うのじゃ! それをほんのわずかな時間で成し遂げるじゃと? お主は化け物か……?」
それが【森羅万象】なら出来ちゃうんだよなぁ。
まぁ、簡単に、とはいかなかったけど。それなりに苦労はしてるんだよ?
だからジルに少しの間時間を稼いでもらったわけだし。
呆けていたディードリッドは一転して、【イグドラシルバインド】に驚愕し、ジルを化け物だと脅威の目を向ける。
「(むぅー。きゅーちゃんがやったって言ってるのに、この人話聞かないよー。何で私が化け物なのかなー)」
『あー、化け物じゃないけど、お嬢も良く規格外と言われるから似た様なものじゃないか?』
「(規格外と化け物じゃイメージが違うよー)」
『そうよ! 女の子に向かって化け物は失礼じゃないの!』
『客観的に見ても、ジルベールさんは立派なレディです。化け物は風評被害に当たりますね』
『はーちゃんは乙女心が分かってないな! 姐さんだって化け物言われれば傷つくんだぞ』
『お、おぅ、すまん』
はーちゃんのうっかり発言で、お気に入りの女性陣にフルボッコにされていた。
『さて、キューブも水玉も粗方片付いたから、今度は本丸を攻めますか』
「(きゅーちゃんー、やっちゃえー!)」
俺は【イグドラシルバインド】の根を操り、ディードリッドの足下から生やして拘束させる。
「くっ! ならば、それ以上の水を喰らわせるまでじゃ! 【プレッシャーキューブ】!!」
世界樹の根に拘束されたディードリッドは、更に追加の【プレッシャーキューブ】を幾つも呼び出すが、世界樹の根は何のその。
逆にどんどんキューブの水を吸い込み、ディードリッドを縛り上げて行き、遂には完全に根の中に取り込まれ姿が見えなくなってしまう。
それどころか樹の根から新たに芽が芽吹き、どんどん成長していき、遂には太さ10m高さ50mもある一本の巨大な樹に成長してしまった。
え……? これスケールは小さいけど、間違いなく世界樹……だよな。
これは後日談になるが、このプチ世界樹は解放されたミスリータルの新たなシンボルとして観光名所となったらしい。
それにしても……幾らファンタジーとは言え、あれだけの水量を吸収してしまえる世界樹って……改めてファンタジーだな!
「(きゅーちゃんー、ディーディーはどうなったー?)」
『おう、ちょっと待ってな』
俺は【スキャン】と【解析】でプチ世界樹に取り込まれたディードリッドを観てみる。
プリ世界樹の中心にディードリッドが押しつぶされて、魔力を吸われて干からびた姿を発見する。
うん、完全に死んでいるな。
キューブの水だけじゃなく、ディードリッドの魔力も吸い上げた事でプチ世界樹が急成長したんだな。
ディードリッドの魔力も水属性だったから相性が良かったんだろう。
間違いなくディードリッドは魔族最強だったんだろうが、相手が悪かったな。
ジルも人族最強に相応しい強さだったが、ジルが所持している俺との相性がディードリッドにとっては最悪だったって事だろう。
『ジル、間違いなくディードリッドは死んでいる。俺達の勝利だ』
「(わぁー! 流石きゅーちゃんー!)」
よし、後はマードックたちの手当てをして、アルベルト達の援護に向かわないと。
この鉱山都市ミスリータルを支配している魔族スコールを倒せば作戦は一気にケリがつくからな。




