159.勇者パーティー:オブザーバー5
「【シャイニングファランクス】!」
「【アポカリプスブラスト】!」
「狙い撃つッス!」
ハルコ軍団長の【光魔法】とファイの【聖魔法】、それとクリティカルダンスの大弓によるゴダーダの狙撃が、砦の見張りをしているワイバーンを先制する。
魔王軍の砦の奇襲を決行した勇者パーティーを含む連合軍は、明朝と共に進軍し砦の前に陣を敷く。
連合軍が魔王軍の砦を見張っているように、当然魔王軍もこちらの砦を見張っている。
それを俺が【索敵】や【魔力探知】等で探り、無効化してからの進軍だったので魔王軍側は対応が遅れていた。
魔王軍が対応する前に砦の破壊を決行する為、まずは見張り役として周囲を警戒しているワイバーンを片付ける。
で、遠距離攻撃が可能なハルコ軍団長とファイ、ゴダーダが先だってワイバーンを攻撃し、続いて魔導軍の魔導師たちがワイバーンを撃墜する。
勿論、砦の周りにはワイバーンだけでなく、砦に入りきらない大型のモンスターなども居る訳だが、それらを遠距離魔法で攻撃し数を減らしていく。
その中で異彩を放っていたのがゴダーダだった。
「ふぅ……この大弓、凄いッス。とんでもない威力ッス」
そう、弓の攻撃でワイバーンを一撃、いや、そのまま貫通して2・3匹纏めて仕留めたりしていたのだ。
「よし、今の内に砦を破壊しよう。ファイ殿、頼む」
見張りのワイバーンとモンスターを片付けた後、ハルコ軍団長はこのまま一気に魔王軍の砦を破壊する為、ファイに指示を出す。
上手くいけば、こちらの損が居なく一方的に片を付けられるからな。
「……任せて」
ファイは呪文を唱えて大技で砦を狙う。
「唸れ疾風、轟け雷光、【ブラストブレイヴドラゴン】!」
おお、前も撤退戦の時にも使ってたファイのオリジナル魔法だな。
風と雷を纏った龍の形をしたエネルギー体が、魔王軍の砦を襲うが直前で砦を覆うバリアによって阻まれた。
「なっ!? 前の時はファイの今の魔法で砦は破壊できたでござるよ!」
「……前には無かった」
って事は、前回はこちらを油断させるために敢えて砦を破壊しやすくさせていたって事か。
なるほどね。
「どうやら前回は誘い込まれていたみたいだな」
どうやらハルコ軍団長も同じ考えのようだ。
「ならば今度はその防御すら突破して破壊して見せよう。アルベルト殿、そなたらは可能ならばバリアを消して遠距離魔法での破壊を。もしくは内部からの破壊工作で砦を破壊してくれ。我々第1軍から4軍は……おっと、出て来たな。あれらを相手しておく。その間に頼むぞ」
連合軍の奇襲に漸く気が付いた魔王軍が、砦の中からモンスターとそのモンスターを操る魔族数人が出撃してきた。
尤も数はクローディアの調査の通り、100匹も満たない数だった。
「了解。チャッチャと片付けて、直ぐにそっちに応援に行くぜ」
「ふっ、あれくらいなら我々が駆けつける方が早いぞ?」
「へぇ、なら勝負でもするか? どっちが早く応援に駆けつけるか」
「いいだろう。その時は1つだけ相手に言う事を聞いてもらうと言うのはどうだ?」
「その勝負、乗った! よし、行くぜ皆! 先に俺達が砦を破壊するぞ!」
「ちょっと、アルベルト様!? 1人で行くのは危険です!」
「おいおい、ヤル気になるのはいいが、無謀な真似は感心しねぇな」
あーあー、簡単に口車に乗せられちゃってるよ。
パッと見た感じ、あのバリアを破壊するのって結構手間かかりそうなんだけどなぁ。
アルベルトはそんな事は気にせずに1人だけ先走って砦へと駆けていく。
それをパトリシアとブラストールが慌てて追いかける。
と言うか、ハルコ軍団長、8歳のアルベルトに一体何をさせる気なんだ……?
「ゴダーダ殿とクローディア殿は手筈通り【アイテムボックス】持ちの魔族の処理を頼む」
「了解ッス」
「分かりました」
2人はここで別行動だ。
「さて、我々は雑魚の掃除だな」
「軍団長さんー、頑張ってねー。それじゃあファイちゃんー、私達も行こうかー」
「……うん」
ハルコ軍団長は正規軍と他の軍を指揮し、迫りくるモンスターを片付けていく。
ジルとファイもアルベルトを追いかけて砦の傍まで行く。
因みに、爺さんもジル達と一緒に行動を共にしているが、相変わらず本人曰く「儂はオブザーバーじゃから攻撃には参加しないぞ」と言って本当に付いてくるだけだったりする。
「(きゅーちゃんー、あのバリアどうしよー?)」
『パッと【解析】した感じだと、遠距離からの攻撃を防ぐバリアで、近づいて中に入るのは可能みたいだな。ハルコ軍団長の指示の通り中からの破壊がベストだろうな』
『なぁ、きゅーちゃん。中に入ってバリアの発生装置とかを壊してから改めて外から破壊は出来ないのか?』
『わざわざ中に入ってからまた外に出るよりは、中から壊した方が効率が良いだろ。それに中には魔族が迎撃に備えているだろうから、簡単には外には出られないだろうし』
『そっか、外からバリアを何とかする方法があればいいんだけどな』
まぁ、めーちゃんの言う通り外から何とかする方法があればいいんだけど、【解析】した結果、バリア内部4ヵ所に発生装置があり、それが互いに干渉し合ってバリアを強化しているから外からじゃおいそれと壊せなさそうなんだよな。
まぁ、その代わり、遠距離攻撃じゃなければ中に入るのは簡単みたいだが。
……いや待てよ、もしかして、あれなら可能なのか?
ジル達もアルベルトに追いついてバリアの境目付近を通ると、思った通り簡単にバリア内部に入る事が出来た。
魔王軍の砦はすぐ目の前だ。
モンスターは粗方出払ったのか、これ以上出てくることはなさそうだ。
だが、肝心の魔族は【テイマー】以外は出て来てないみたいだが……
内部で迎撃態勢を取っているのか?
だったら、こっちから先制攻撃だ。
『ジル、皆に突入は待ってもらってくれ』
「(いいけどー。ここから攻撃するつもりなのー? あまり近くて砦から反撃喰らうんじゃないのー?)」
『いや、一旦バリアの外に出るぞ。それと爺さん、あんたにはちょっと協力してもらうぞ』
『ほ? 儂はオブザーバーなんじゃがのぅ。戦闘には参加せんと言ったはずじゃが?』
いいや、俺の【第六感】が正しければ、爺さんはこの言葉で協力はしてくれるはずだ。




