158.勇者パーティー:オブザーバー4
「それでは、魔王軍の最前線の砦の攻略会議を始める」
ハルコ軍団長が、この会議に集まった主要メンバーを見渡す。
勇者パーティーの戦闘部隊のアルベルト、パトリシア、ヒビキ、ファイ、ブラストール、ゴダーダ、ジルベール。
後方支援部隊からは諜報員のクローディア、そしてオブザーバーの爺さんが。
連合軍正規軍の十二乙女騎士団から処女騎士団のハルコ軍団長、金牛騎士団タウラ団長、人馬騎士団サジリス団長の合計12名の参加だ。
金牛騎士団のタウラ団長は、身長が2m10cmもある頭に角が生えた牛の獣人である牛人だ。
そして胸もでかい。
その為、鎧も特注なのか、十二乙女騎士団特有の黄金の鎧は胸の大きさに合わせた作りになっている。
使う武器も身の丈もある巨大なグレートアックスだ。今は会議なので持って来ていないが。
もう1人の人馬騎士団のサジリス団長はタウラ団長とは逆に140cmと小柄の子供と見間違うようなブロンドピンクの髪をツインテールにした女性だ。
こちらは使う得物は弓だ。但しその身長に合わせた為か小型のショートボウだ。
「あたしはタウラってんだ。見ての通り牛人の獣人だ。そしてこっちのちっこいのがサジリスだ。あはは、サジリスは相変わらず小さいな」
「私はサジリス・ケンタルスよ! タウラ、私は大人だっていつも言っているでしょ! 子ども扱いしないで!」
そう言ってサジリス団長はぺったんこの無い胸を張っていた。
うーん、何処からどう見ても子供にしか見えないんだよなぁ。
アルベルト達もタウラ団長たちに自己紹介をし、魔王軍の砦の攻略会議を始める。
「魔王軍の最前線の砦の攻略は明日明朝に行う。それで魔王軍の砦の状況をクローディア殿、お願いする」
「はい、現在魔王軍の砦には魔族が30名ほど、モンスターが100匹程となっております」
ありゃ? 随分と少ないな。
「この数日間の2度の奇襲を退けた事で、魔王軍にもかなりの損害が出ております。元々砦には50名ほどの魔族が居たらしいです。モンスターも奇襲用にとかなり数を集めていたので、砦の防御用としての数はそれほど多くはありません」
「うむ、これが早急に砦の破壊作戦を実行しようとした理由でもある。作戦としてはモンスターは我々騎士団が受け持ち、魔族はアルベルト殿たち勇者パーティーに任せたい。そして砦の破壊はファイ殿にお願いする」
「最初に砦を破壊した作戦と同様でござるな」
ああ、そう言えばヒビキとファイが主要戦闘員だった時に、魔王具の砦は一度破壊しているんだったな。
ヒビキがユーユーを抑えて、その間にファイが砦を魔法で破壊したんだが……
「魔王軍の砦の復活理由は分かったのか? それが分からなきゃ、また同じことだぜ」
うん、そうだよな。アルベルトの言う通り、復活理由が分からなければ同じことの繰り返しだ。
その調査もクローディアに任せていたんだが。
「砦復活の理由は【アイテムボックス】持ちの魔族が居た事ですね」
クローディア調べによれば、【アイテムボックス】スキルを持つ魔族が、後は組み立てるだけの状態にした砦の材料を【アイテムボックス】に入れて、連合軍が砦を破壊して油断した隙を突いて一晩で作り上げたのだと言う。
細かい調整は魔法で何とかごまかし、取り敢えずは連合軍の目を欺くようにしたらしい。
って、墨俣の一夜城かよ!
確かに一夜にして砦が復活したから連合軍側は動揺してその隙を突かれた訳だ。
「なので、クローディア殿とゴダーダ殿の2人でその【アイテムボックス】持ちの魔族を狙撃して欲しい。出来るか?」
「うーん、出来ない事は無いッスけど、ちょっと装備に不安があるッスね。今手持ちの弓は臨時用として持っていただけの応急品ッスから」
それでもゴダーダの特別スキルとしての【射撃】の威力は桁違いなんだけどな。
『Hey! だったらGreatなArmsがあるZe! あれを渡そうZe』
『あれ? って、あああれか』
やーちゃんの言葉で俺はかめちゃんの肥しになってた武器を思い出す。
『客観的に見ても確かに彼には丁度いいですね。彼なら使いこなせるでしょう』
『ジル、あれをゴダーダに渡してやりな』
「(うんー、分かったー)」
ジルはかめちゃんを呼び出し、大型の弓を取り出す。
「ゴダーダにはこれあげるー。これなら装備の不安は無くなるでしょー」
「ちょっ!? なんなんスか、この弓は!? 見ただけでふつーじゃないのが分かるッスんだけど!?」
「うそっ!? まさかその弓の素材ってユグドラシルで出来ているんじゃ!?」
弓を手渡されたゴダーダは一目見てその弓の凄まじさを見抜き、サジリス団長も弓を扱う者として弓の作りに驚愕していた。
「うんー、ユグドラシルとエルダートレントとエンシェントドラゴンの角を素材としたパワーストリングボウだよー。名前はクリティカルダンスの大弓って言ってたー。ずっと前に作ってもらったんだけど、私じゃ使いこなせなかったんだー」
「ほぅ、こりゃあ見事な一品じゃな。見たところエンシェントドワーフの作品に見えるのぅ」
「おじーちゃん、分かるのー?」
「うむ、作りに彼らの特徴が見えるからの。よく作って貰えたのぅ。彼らはドワーフ以上に職人気質じゃからおいそれと武具を作ってもらえぬのじゃが」
「えへへー、ドワーフのおじーちゃんたちにはいろいろよくして貰ったからー」
「ちょ、ちょっと待った! エンシェントドワーフってあの伝説のエンシェントドワーフのことか!?」
「うんー、多分そのドワーフだねー」
「マジか……」
思わずタウラ団長が口を挟むが、タウラ団長だけではなく他のメンバーも唖然としていた。
それだけエンシェントドワーフの存在は希少なのだ。
神話や伝説にある武器防具は彼らが作ったと言われている。
まぁ、後はお約束通りその能力を狙った組織や権力者により滅びの道を辿った……と言われているが、実際は密かに生き残ったりするわけだ。
そのエンシェントドワーフの武器をどこで手に入れたと言われれば、ジルの20年の間と言っておこう。
因みに、今ジルが装備している地竜の革の胸当てやミスリルのガントレット、ミスリルの脛当ては全て彼らの作品でもある。
「こ、こんなすごい弓、とてもじゃないが貰えないッスよ」
「私は使いこなせなかったから、持ってても意味ないからー。ゴダーダなら使いこなせるでしょー? 使ってこその武器だものー」
ジルは「引いてみてー」とゴダーダを促す。
ゴダーダは最初は手にするのも恐る恐ると言った風だったが、その内この弓に魅せられたのかしっかり握り、弦を引く。
「おおー、流石だねー。この弓は弦がかなり強く張っていて、ふつーの人じゃ簡単に引けないんだよー」
「そうみたいッスね。俺も【背筋】のスキルを使っても引くのがやっとッス。だけどその分、威力はハンパなさそうッスけど」
特殊系のスキルの【背筋】でも引くのがやっとって……そんな弓をジルに作ってんじゃねぇよ、あのドワーフ共。
「これなら、間違いなく【アイテムボックス】持ちの魔族を狙い撃てるッス」
「うんー、期待しているよー」




