151.勇者パーティー:盗賊?&諜報員3
「あれ? ファイじゃないか! 久しぶりだな!」
そう言ってファイに話しかけて来たのは、ジルが村を出て最初に出会った商人のラムダのおっチャンを護衛していた冒険者のアルファだった。
「……久しぶり」
「お! 本当だ、ファイじゃん! 暫く見ないうちに随分と出世したじゃんか」
「凄いよねー。ファイちゃん、連合軍の最強の一角なんでしょ?」
槍戦士のガンマと女魔法使いのミューが、久しぶりとファイに話しかける。
「……そんなことない」
「そんなに詰め寄るな。ファイも困っておるだろ。話なら後でゆっくりすればいいさ」
ガタイの良い盾役のオメガが2人を落ち着かせてファイから離す。
ほむ? アルファ達はファイの知り合いだったのか?
そう言えば、ファイは最初は冒険者だったっけ。
アルファ達はその時の仲間だって事か。
「アルファー、久しぶりー。ファイと知り合いだったんだー」
「えっと……久しぶりって、どっかで会った事あったか……? いや、でも何か見覚えが……」
久しぶりの交友を深めているアルファ達とファイにジルも近づいて挨拶をするも、ジルに戸惑いを隠せないでいた。
「私だよー。ジルベールだよー」
「はぁっ!? ジルベールって……あのジルかよ!?」
「えっ!? うそっ、ジルちゃんなの!? ……ま、負けた」
ガンマは信じられないとばかりに驚きを顕わにし、ミューも驚きつつもジルの胸を見て四つん這いになって項垂れていた。
あー、ジルが大人の姿になって驚かれるのは毎度のことだが、ジルの胸を見てうな垂れるパターンは初めてだな。
「おお、確かにジルちゃんの面影がある。噂には生きていたって聞いていたが、まさかこんなパターンで再会するとは」
「いや、あの頃から普通じゃない雰囲気があった。俺は驚かんぞ」
何処か納得するアルファに、驚かないと言いつつも驚いているオメガ。
そんなアルファ達の姿を見て、ファイは首をかしげる。
「……ジル、知り合い?」
「うんー。20……じゃない、3年くらい前に色々とお世話になったのー」
「いや、こっちが危ないところを助けてもらったんだ。今思えば、あの時からジルちゃんは凄かったからなぁ。今やS級冒険者『幻』のジルベールだもんな」
「……ジル昔から凄かったんだ」
「そんなことないよー。凄いのは私じゃなくてお気に入りの皆なんだからー。そう言えば、アルファ達は連合軍に参加するのー?」
「ああ、ラムダさんが行商人を止めちゃったからな。暫くダンジョンとか潜ってたりしたけど、ファイの噂を聞いて俺達も協力して魔王軍と戦おうって事になってな。それで最前線に来たってわけだ」
アルファは敢えてラムダのおっちゃんが商売をやめた理由を言わなかったのは、ジルに気を使ったんだろう。
ファイを交えてアルファ達と久々の交友を深めていると、兵士が慌てて駆込んできた。
「ヒビキさん! 大変です、また魔王軍が攻めてきました! 今警戒に当たっていた巡回兵が防衛しています!」
先の戦いで指揮官が軒並みやられた事により、今この砦の最高責任者はヒビキになっている。
「ユーユーも来ているでござるか!?」
「いえ、覇道のユーユーの姿は無いとの報告を受けてます!」
ふむ? ユーユーが来ていないか。
こう、それ程間隔を置かずに攻め込んでくると言う事は、こちらの消耗が狙いか?
まぁ、魔王軍の狙いが何にせよ、攻めて来たからには追い返さないとな。
「分かったでござる。援軍に来てくれたものは直ぐで申し訳ござらんが、防衛に当たってもらうでござるよ!」
すぐさまヒビキは援軍に来た者を部隊編成の指示をだし、先行して防衛に向かわせる。
勿論アルベルト達もすぐさま戦闘準備をして戦線へと向かった。
「あのー、俺も行かなきゃダメッスか?」
「勿論ー」
「あー、今は1人でも戦力が欲しいところだからな。悪いが、暫くは付き合ってもらうぞ」
“平穏な生活”が送りたいゴダーダは、出来れば魔王軍との戦場には出たくないんだろうが、アルベルトの言う通り今は1人でも戦力が欲しいところだからな。
渋るゴダーダを連れて戦線へと向かう。
ほどなくして戦場へと着くと、既に巡回していた兵士と援軍に駆けつけた兵士で魔王軍と戦っていた。
魔王軍側は、魔族が3人、モンスターがおよそ300匹と、先の襲撃に匹敵する軍勢だった。
ただ、魔族3人の内の1人は、ピカピカの黄金の鎧を纏った、異色な存在の魔族だった。
しかも剣と盾も黄金と言った徹底ぶりだ。
「はーはっはっは! 我こそはアルダーコール王族の第8王子のヴィスキーなるぞ! さぁ、愚かな人族どもよ、我が魔王軍の前に平伏すがいい!」
アルダーコール王族って、魔王の事か……? 魔王の血族の投入か。
と言うか、第8王子って、微妙な立ち位置だな。
「アルベルト殿! 気を付けるでござるよ! 既に指揮官らが暗殺者と思わしき魔族にやられているでござるよ!」
先行していたヒビキから問題になっていた暗殺者が今回も来ている事を告げられる。
むぅ、このままだと前回の襲撃と同じパターンを辿りそうだ。
ただ、今回は最初から勇者が居るからそう簡単には戦線は崩れないだろうが。
「あ、マズイッス!」
無理やり連れて来られて戦わされていたゴダーダが、突然ヒビキに向かって剣を投げつけた。
何をトチ狂ったかと思いきや、放たれた剣は一直線にヒビキを背後から襲おうとした影のモンスターに突き刺さる。
「ギィアァァァァァァッ」
「うぉ!? 何でござるか、こやつは!?」
「アサシンシャドウって言う影のモンスターだってー。普段は実態が無く影に潜み、攻撃の時に実体化するってきゅーちゃんが言ってるー」
倒される瞬間に【鑑定】で見たところ、コイツが指揮官を襲っていたモンスターだな。
正体が分かればこっちのもんだ。
「兵士たちは2人1組になって敵に当たるでござる! 背後からの奇襲に気を付けるでござるよ!」
ヒビキは直ぐに兵士たちに指示をだし、アサシンシャドウの対策をする。
のだが……何故だ? 指揮官への奇襲が一向に減らない。
辛うじて倒される事だけは逃れているが、全くの無傷とはいかず、このままではやはり倒されて指揮官の数が減らしてしまうのは避けられない。
まだ何か見逃しているのか……?




