149.勇者パーティー:盗賊?&諜報員1
「どうも初めまして、冒険者ギルドから特命で派遣された盗賊のゴダーダッス」
最前線の砦に援軍が来るまで待機する事になっていた勇者パーティーに、戦闘部隊の最後のメンバーである盗賊が合流した。
「本部に行ったらもう既に最前線に詰めているって言われて、急遽ここまで来ることになったッス。1人で最前線まで来るのは怖かったッスよ」
「あははー、ちょっと最前線は今はゴタゴタしているからねー。私達が居ないといけなくなっちゃって、動けなくなっちゃったのー」
「悪いな。無理をさせてしまって。だが今は1人でも戦力が必要だから来てくれて助かるよ」
アルベルトは歓迎してゴダーダを迎え入れたが、肝心のゴダーダの表情はすぐれなかった。
「あのー、何で俺が勇者パーティーに選ばれたんスかね? 俺、C級冒険者なんスけど。勇者パーティーに選ばれること自体あり得ないのに、後方支援部隊じゃなく戦闘要員ってのが可笑しいッスよ」
「……え? C級……なのか?」
「そうッス」
「何か特別なスキルを持っているとか?」
「【第六感】ッスけど、そんなに珍しいスキルでもないッスよ?」
【第六感】だけって事は特殊系だけど、確かに【第六感】はそれほど珍しいスキルじゃない。
それに、【第六感】だけなら俺が居れば事足りるから、特別必要って訳じゃないからゴダーダ本人が言う通り、何で勇者パーティーに選ばれたのか分からないな。
どちらかと言うと、【くノ一】のクローディアの方が戦闘要員で、ゴダーダが後方支援部隊と言われた方がしっくりくる。
【くノ一】は奇襲やら隠密やら影に潜む職業でもあるが、戦闘もこなせる前衛職でもあるし。
ただまぁ、クローディアの諜報能力は凄まじいものがあるから、諜報員としてのパーティー加入はありと言えばありだ。
現在、連合軍と魔王軍の戦域は4つに分類される。
最前線を含む、本部から南への第1戦闘区域。
第1戦闘区域の左の一帯、太陽王国から南への第2戦闘区域。
第1戦闘区域の右の一帯、ミラーワルド王国から南への第3戦闘区域。
そして西大陸最南端の一帯、魔王軍に侵略された第4戦闘区域。
その内、第1戦闘区域と第2戦闘区域の情報をクローディアは持ち帰っていたのだ。
アルベルト達より先行して第1と第2戦闘区域に侵入したクローディアは、魔王軍が流用している王城や砦、新たに魔王軍が新設した砦、そしてそこに駐留する魔族、モンスターの数や兵種などを事細かに調べていた。
幾ら先行したとはいえ、西大陸の約1/4を駆け巡りこれほどの情報を持ってきた腕を見れば、クローディアを諜報員として勇者パーティーに加えたと言われれば納得できるのだ。
まぁ、その肝心のクローディアは今回の魔王軍の襲撃により、連合軍の指揮官らが倒された原因である暗殺者を調べに向かって今はここには居ないが。
ああ、ついでに魔王軍側の砦が復活した原因も探りを入れて来るって言ってたな。
……本当に諜報に関しちゃ優秀すぎるよ、クローディア。
「だが、ゴダーダ殿は冒険者ギルドからの特命を受けたんだろ? 冒険者ギルドもゴダーダ殿に何かあるから指名したんじゃないのか?」
「はぁ……、しがない普通のC級冒険者になにかあるんッスかね? 俺はパーティー職業的に盗賊ッスから戦闘もそれ程得意って訳じゃないッスけど。まぁ、偵察や罠発見解除なんかはそれなりッスけど、本当にそれなりッスよ」
「んー……どれ、一度手合せしてみるか。それでどれ程なのか分かるだろう」
そう言って酒を飲んでフラフラになっているブラストールはゴダーダを連れて、砦の中で訓練をしている練兵場へと向かう。
と言うか、援軍が来るまで待機してなきゃならないから身動きが取れないのは分かるが、だからと言って酒を飲み過ぎだぞ。
一応、魔王軍からの再度襲撃を警戒しなきゃならないのを分かっているんだろうか。
で、本人もよく分かってないながらもブラストールと手合せをするゴダーダ。
まぁ、うん、本人の言った通りだったな。
腕前はそれ程凄いと言う訳でもない。
本当にC級冒険者の腕前だ。
ただ……俺はその模擬戦でゴダーダの動きが気になったので、注意して観察していたところ、気が付いてしまった。
慌てて【鑑定】を掛けて見たところ、何で冒険者ギルドがゴダーダを戦闘要員で派遣したのか分かった。
あああー……これは確かに前衛向きだな。
本人は敢えて隠しているんだろう。これがバレたら大騒ぎどころじゃないし。
ただ、冒険者ギルドにはバレているみたいだけど。
『ジル、ゴダーダを絶対パーティーメンバーに入れろ。ここでコイツの逃すのは大幅な戦力の低下に繋がるぞ』
「(えー、そんなに凄いのー?)」
『ああ、びっくりするぐらいにな』
そうこうしているうちに、アルベルト達はゴダーダを後方支援部隊に回ってもらうか、或いはパーティーメンバーから外れてもらって、冒険者ギルドから新たに別の戦闘要員を派遣してもらうか話し合っていた。
勇者パーティーのメンバーに選ばれるのは栄誉な事だが、この先魔王軍との戦闘が激化する中で、C級冒険者が付いてこられるのかと言えば、是とは言えない。
それ故に、本人の希望もあってここは辞退してもらおうかと言う流れになっていた。
「待ってー。きゅーちゃんがゴダーダは絶対パーティーメンバーに必要だってー。それもちゃんとした戦闘要員でー」
「え? だって、姉さん。ゴダーダは今見たとおり、この先魔王軍との戦いついてこれるとは思えないぜ」
「私の【聖女】スキルで大怪我をしても癒すことは出来ますが、心までも癒すことは出来ません。下手に戦闘に参加させてトラウマになる可能性も否定できません」
「まぁ、普通にそこら辺でモンスターと戦えるくらいの強さはあるよ。だけど、俺っちらがこの先向かうのは魔王軍の本部でもあるレフトウイング大陸や魔王そのものなんだぜ。ちとゴダーダ殿の強さじゃ厳しすぎる」
「拙者らがフォローしながら戦っても良いでござるが、限度があるでござるよ。厳しい言い方になるでござるが、ここはゴダーダ殿の為に引いてもらった方がよいでござるよ」
「……死んじゃうよ?」
おおぅ、戦闘部隊の皆は厳しい事を言ってくれるねぇ。
後方支援部隊のディーノ達は、戦闘部隊に一任すると言う事で意見は出なかった。
さて、どう説得したらいいものか。
一番いいのはゴダーダが隠している秘密を明かせばいんだけどな。
きゅーちゃん:覚えている人は少ないと思われるが、Side-3のゴダーダだったりする。




