148.勇者パーティー:侍&大魔道士6
「はぁ、暫くは最前線のこの砦で待機か」
「しょうがねぇよ。砦に詰めている兵の数が足りないんだからな」
ブラストールの言う通り、元々最前線には4000人程の兵で維持していたのだが、今回の魔王軍の奇襲で500人しか残されておらず、ここで追撃されればこの砦は落ちてしまう。
なので、連合軍の希望でもある勇者パーティーには援軍が来るまでこの砦で待機となったのだ。
え? 覇道のユーユーとの戦いはどうなったかって?
そんなの逃げたに決まってるじゃん。
こっちは皆を逃がすために殿を務めた訳だから、わざわざ全力を出して勝ちに行く必要は無いからな。
だからジルには防御に専念してもらい、連合軍が完全に撤退したのを見計らってふーちゃんで速攻逃げたのだ。
ただまぁ、魔王四天王最強と謳われるだけあって、その強さは確かに覇道の名に相応しい強さだった。
対抗できる者は、ジルと辛うじてユーユーとの戦闘経験を持つヒビキだけだろうか。
ファイの魔力はユーユーに匹敵するだろうが、あくまでファイは後衛の魔法使いであり、ユーユーとの直接戦闘は無理だ。
アルベルトもまぁ、今の段階ではユーユーには及びもつかない状態だ。
「クーガー殿、俺っちらが暫く砦に待機するくらいは食料は足りているか?」
「ああ。元々の食料に加え、今回補充した分もあるから暫くは持つよ。ただ、今回は急な出動だったから、十分に確保できたとは言えないな。大体2週間くらい、切り詰めて4週間ってところかな」
「その辺はワシの腕の見せどころだな。限られた食料で十分は料理を振る舞ってやるわい」
アルベルト達が総司令官殿と会談をしている時に、クーガー達には物資の補充を頼んでいた訳だが、急遽最前線に向かう事になったので食材を十分に確保できなかったみたいだな。
元々馬車のアイテムボックスに仕舞っておいた傷みやすい食材は、ジルのかめちゃんの中に移動してもらっているから、保存状態については何の心配もいらない。
「よし、じゃぁ酒をくれ、酒を。飲んでなきゃやってらんねぇよ」
食料の心配が無いと分かると、ブラストールは酒を要求した。
まぁ、心情は分からないわけでもない。
今砦の中には元々砦に残っていた兵と生き残った兵を合わせての500人しか居ない。
無事撤退出来たのはいいが、犠牲になった兵の数は3000人を超えて、ほぼ壊滅状態だったのだ。
ブラストールでなくとも酒でも飲まなきゃ気が滅入ってしまうところだ。
まぁ、酒を飲むのは彼なりの弔いでもあるのだろうけど。
リュキがわざわざブラストールに酒の準備をしていた。
ついでに皆にも一息つくためのお茶を用意する。
「それで、援軍はどのくらいでこちらに来るのでしょうか?」
流石にパトリシアもブラストールを咎める事はせずに、援軍がいつ来るのかをヒビキに聞く。
元々最前線の砦勤めでもあった為、連絡を取りやすいと言う事で今砦の総指揮はヒビキに移っていた。
「うーん、先程本部から連絡を受けたのでござるが、第2第3区域に配備されている第1軍がこちらに来る手筈になっているでござる。急いで来てもらって大体10日と言ったところでござる」
「それまで魔王軍の攻撃を凌がなければならないのか」
「大丈夫だよー、アル君。いざとなったらおねーちゃんが頑張っちゃうからー」
「あー、確かに姉さんが頑張るのなら戦線維持は大丈夫だろうけど、それだといつまで経っても成長しないだろう。ここは少し俺らにも経験を積ませる意味でも大人しくしていてくれないか?
まぁ、いざとなったら今回みたいに頼りにしているからさ」
確かにジル頼りだと皆のレベルアップが期待できなくなるからなぁ。
「そう言えば、ヒビキ殿とファイ殿の2人が居なくても戦線は維持できるって総司令官殿が言っていたが、魔王軍の砦の復活はあったとは言え、あっさりと覆されたのは何が原因なんだ?」
「それも調査したところによると、どうも指揮官が突然やられたらしいのでござるよ」
「突然って、倒されるところを見てなかったってことー?」
「うむ、その通りでござる。拙者の予想ではあるが、おそらく魔族の暗殺者が居たのではないかと」
あー、なるほどな。
1人2人なら兎も角、指揮官が軒並みやられた事で現場は混乱し隊列を維持できなくなり、モンスターに蹂躙されてしまったわけか。
そんでもって、あの魔族10人の中に居たかもしれないって事か。
でもジルは結構あそこにいた魔族を倒してきたけど、それっぽいのは居なかったはず。
それとも、最初から姿を消していて、戦況が魔王軍に決したから正体を悟られないうちに撤退したのかもしれないな。
つーことは、その暗殺者の魔族をどうにかしないと、また戦線が乱されるって事だ。
「じゃあー、その暗殺者については、クローディアに調べてもらう事でいいー?」
「ええ、構いませんよ。わたくしはその為に勇者パーティーに加わったのですから」
そう言って、やっとジル達に合流したクローディアが胸を張って答える。




