145.勇者パーティー:侍&大魔道士3
ヒビキとファイが本部に戻るために戦線を押し上げて来たのだが、どうやら魔王軍はそれを上回る策を講じてたみたいだ。
「魔王軍も南東のハーフウイング大陸からいちいち向かって来ているのではござらん。侵略してきた各国の城や砦を拠点とし、或いは新たに戦線に砦を作り戦線を押し上げる拠点としてきたのでござる」
「ヒビキ殿とファイ殿を本部に呼び寄せる為、魔王軍を一時的に退ける為に連合軍はその最前線の拠点である砦を攻略しました。
作戦としては、覇道のユーユーをヒビキ殿とファイ殿で引き付けてその場に押し止め、残りの連合軍で最前線の砦を破壊したのです」
「奪ったとかじゃなくて、破壊したんだ」
確かに、敵の砦を奪いこちらで利用すれば有利に働くはずだ。
作戦を立てたジャン参謀にアルベルトが問うが、答えは簡単なものだった。
「それでは直ぐに奪い返されて戦線が押し戻されます。今は覇道のユーユーに対抗するヒビキ殿とファイ殿が居ませんからね」
なるほどな。
だから、砦を破壊し直ぐに戦闘を継続できない状態にしたのか。
だが、魔王軍――覇道のユーユーはそれすらも見越していた訳だ。
「壊されたはずの砦が元に戻って魔王軍が再結集している、と」
「【時空魔法】とか【土魔法】とかの類で治したのかなー?」
「もしくは、大容量のアイテムボックスで砦の素材を運んだとか、或いは砦そのものを運送したとかですかね」
ブラストールが言ったように、現在最前線を維持している連合軍の兵が必死になって届けてくれた報告に、壊したはずの砦が元に戻っていたと言うのだ。
可能性としてはジルの言ったように魔法関係が高いが、パトリシアの言うアイテムボックス関係もありうる。
「どちらにせよ、早速で悪いが今すぐに第7軍には最前線に赴いて魔王軍を退けてくれ」
総司令官殿の指令にアルベルト達は頷き、物資等の補給をしているディーノ達には悪いが、急いで終わらせて最前線へと向かった。
行きの馬車の中でジルが砦再生の原因が何か聞いてくる。
「(きゅーちゃんはどう思うー?)」
『四天王の覇道のユーユーの仕業だろうな。『覇道』が『勇者』と匹敵すると言っても、【時空魔法】は流石に使いこなせないだろう。【土魔法】でも可能ではあるが、これも熟練度が高くなければ強度の問題が出てくるはずだ。報告によれば、ただの土の塊ではなくしっかりした作りになっているから【土魔法】とも違うだろう』
よくWeb小説とかで【土魔法】で簡単に建物を作る風景が見られるが、普通じゃ無理だから。
土の素材を使い分ける技量が必要になるし、建物自体の構造の知識も必要だ。
まぁ、あれは作り話だから“魔法”で何でも解決できるから便利な使い方なんだが。
残念ながら俺が今居るこの世界はそんなに便利なものではない。
【土魔法】のスペシャリストか、俺の【森羅万象】みたいに細かい調整が出来るのなら別だが。
「(じゃー、パトリシアの言う通りアイテムボックス関係かなー?)」
『だけどかめちゃんクラスじゃなきゃ無理だろ、それ』
『自分で言うのもなんですが、無限の収納量、収納物の時間停止は規格外の極みですから。簡単にまねされても困ります』
かめちゃんクラスのアイテムボックスがそこら辺にほいほいあってたまるかと言いたい。
『俺らの知らないスキルか、もしくは砦生成とかの魔道具かもな』
「(魔道具かー。有りうるねー)」
『普通であれば無理そうですが、魔王軍の魔道具は我々にとっては未知なものですからあり得ますね』
『だな。ぼーちゃんの言う通り、人族側の魔道具の発展と魔族側の魔道具の発展は違うだろうからな』
『ここであれこれ言ってても仕方ねぇだろ。要はそんな事より魔王四天王の最強だって言う、そのユーユーって奴をブチ倒せばいいんだよ!』
『いいね。あたいもその案には賛成だ』
うーん、魔王四天王最強か。
どの程度の強さかは分からんが、ジルにとっては相手にはならないだろうなぁ。
俺としては、ジルは既に人族魔族含め、世界最強だと思っているから。
アルベルト達は、馬車の中でヒビキとファイを加えた事でフォーメーションや連携を練り直していく。
流石に練習をすることは出来ずに最前線でのぶっつけ本番になるが、まぁ何とかなるだろう。
いざとなったらジルや俺のフォローを入れるから連携は問題ないだろう。
ディーノの操る二連結の馬車は、ディーノのスキル【時間湾曲】を使い、最速で進んだためにそれほど時間が掛からずに連合軍の最前線の砦へと辿り着く。
ディーノ達後方支援部隊はここで待機し、戦闘部隊であるアルベルト達が砦から馬を借り、そのまま最前線へと向かって行く。
パトリシアは馬には乗れないからアルベルトと一緒に乗り、ジルだけがふーちゃんでの移動だ。
最前線は酷い有様だった。
本来であれば、魔王軍側の最前線の砦が破壊されたので、連合軍と魔王軍の互いの砦の距離は空き、緩衝地帯の幅は広がって余裕が出来ていたはずだ。
だが、魔王軍の砦は元に戻り、連合軍は油断したその隙を突かれて勢いづいた魔王軍に呑まれていた。
特に、たった1人の魔族に連合軍の兵が文字通り蹴散らされていたのだ。
「覇道のユーユー! 拙者たちが相手でござる!」
「ほう、もう戻って来たのですか。思ったよりも早い。このままそちら側の最前線の砦を奪えるかと思っていたのですが。……なるほど、報告にあったYouたちが勇者一行ですか」
そう言って、覇者としての佇まいを見せるユーユー――ユーグリッド・ユーディットがこちらを見る。




