015.助っ人
『ジル、また進行方向に5人、【気配探知】に引っかかった。馬車での移動のようだから行商人と護衛だろう。このままいけば約1分後に接触する』
「じゃあ、また街道から避けて通るねー」
『ただ今回はモンスターに襲われているっぽい』
そう、今回は珍しい事にモンスターと戦闘中らしいのだ。
街道は魔物避けの魔道具が密かに配置されているので割と治安が良くて、モンスターに襲撃されることは稀だ。
とは言え、今回みたく全くないわけじゃない。
「う~んー、じゃあ助けるー。きゅーちゃんー、モンスターの種類と数はー?」
まぁ、ジルならそう言うだろうと思ったよ。
王都に急ぎたい気持ちはあるが、かと言って襲われている人を見捨てる様な子じゃないしな。
『全部で9匹。オーク8匹に1匹だけ上位種のハイオークが居るな。相手はこの前の狼とは違うぞ。大丈夫か?』
「大丈夫大丈夫ー」
ジルは更にふーちゃんの移動速度を上げて襲撃現場へと急行する。
まぁ、グレイウルフをものともしないジルの事だ。オークもおそらく大丈夫だろう。
と言うか、普通こういう場合はゴブリンがお約束じゃないのか? いきなりオークとは……
『見えてきた! ジル、ふーちゃんのスピードを落とせ。このままじゃ慣性がついて追い越してしまう』
後はふーちゃんの異常な速度を見られない様にする為でもあるがな。
ジルはふーちゃんの速度を落としつつ、今まさに護衛と思われる男に棍棒を振り下ろそうとしているオークへやーちゃんを放つ。
「やーちゃんー!」
ふーちゃんの移動速度から放たれるやーちゃんは最早貫通と呼べる範囲を超えていた。
貫通どころか爆散。
ジルの放ったやーちゃんはオークの頭に当たり、爆散させてその背後の2匹目のオークの頭をも爆散させた。
「おおー、凄い威力ー」
うん、何の心配もいらなかったな! オーク爆散だよ!
『商人が1人、護衛の数は4人か。どうも護衛は初心者を抜けた一人前以上中堅以下ってところか。ジルの助太刀が無きゃオーク9匹じゃちと厳しかったな』
棍棒を振り下ろされそうになっていた護衛の男が、目の前でオークの頭が爆散したのを見て戸惑っていた。
目の前の脅威がなくなったんだからすぐ次の行動に移せばいいものの、何が起こったのか周りをキョロキョロと見渡している。
ジルはそのままふーちゃんで割り込みオークとの戦闘エリアに飛び込んだ。
「助太刀するー」
「え? あ、ああ! 助かる!」
キョロキョロしていた男とは別にもう1人のリーダーらしき男がジルの救援に感謝の意を表すが、ちょっと戸惑っていた。
まぁ、救援に現れたのが小さな少女だもんなー
普通なら危ないから逃げろとか言いそう。
ジルはそのままぼーちゃんを取出しオークの攻撃を裁きながら護衛の援護に徹する。
ざっと見た感じ、護衛は盾役が1人、剣士1人、槍持ちの戦士が1人、女の魔法使いが1人の構成だな。
厄介そうなハイオークにはガタイの良い盾役の1人が身を挺して抑えている。
リーダーらしき男は剣士で3匹のオークを引き付けて、棍棒を振り下ろされそうになった槍持ちの戦士が遊撃か。
女の魔法使いは馬車近づくオークを撃退しつつ、リーダーと槍戦士の援護を行なっている。
オークの数はさっきジルが2匹倒したので残り6、ハイオーク1だな。
『ジル、まずは馬車を襲おうとしているオークの数を減らすぞ。ハイオークはオークを倒すまであの盾役に抑えてもらおう』
「(了解ー)。馬車の傍に居るおねーさん離れてー。へきちゃんー!」
石空間からへきちゃんを巨大化させて馬車の側面に取り出す。
突然現れた巨大な石壁に護衛達が驚いているが無視。
取り敢えずこれで襲ってくる方向を狭められた。
流石に360度全方位からの襲撃はキツイからな。
後は女魔法使いと協力して馬車へ襲ってくるオークの数を減らす。
その間にもリーダーや槍戦士もオークを倒していく。
リーダーはそこそこ実力者らしく問題は無かったが、槍戦士はちょいちょい危ない場面が見受けられた。
その都度、ジルがやーちゃんやめーちゃんで援護をする。
勿論、俺も魔法で援護をする。
特に、ハイオークを1人で抑えているガタイの良い盾役には【パワーアップエンチャント】や【スピードアップエンチャント】等の身体強化の付与魔法や【ハイヒール】などの治癒魔法を掛けてなるべくハイオークを引き付けておいてもらう。
ジルの参戦で均衡していた戦いが崩れたのか、あっという間にハイオーク1匹だけになった。
そのハイオークも流石に5対1では勝ち目が無く、あっさりと倒された。
まぁ、ジルの参戦や俺の援護があってこその勝利だがな!
「ふぅ、改めて助かったよ。まさかこんなお嬢さんがこれ程の実力を備えているとはな」
リーダーがジルへ改めてお礼を言ってくる。
その間、他の護衛の面々はオークの解体や周囲への警戒をする。
「助けたのは当然のことだよー」
「その当然が出来る者はそう居ないさ。さて、俺としてはお礼をしたいんだが、今は雇われの身でね。流石に雇い主もお礼を無しとは言わないとは思うが……」
あー……、悪徳商人なら勝手に助太刀したとかで何の謝礼も無い場合があるからな。
寧ろこんな少女に助太刀でもされなければオークには勝てなかったのかとか護衛に文句とか言いそう。
そんな事を考えて商人に対して少し警戒をしていると、隠れていた馬車の中からお約束と言う感じの小太りの男が出てきた。
「おお! 君がオークから私の馬車を守ってくれた少女ですか! ああ、ありがとうございます! このような出会いを齎してくれた女神Alice様に感謝します」
感激しながら商人はジルの手を取ってぶんぶんと上下に手を振る。
……あれ? どうやら良い商人っぽいな。




